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箱根駅伝100回 全国から箱根路へ

三瓶 宏志  解説委員

毎年、正月に行われる箱根駅伝が来年100回の節目を迎えます。
記念大会となる来年の大会は、全国の大学にも出場の道が開かれました。

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▼記念大会限りの全国への門戸開放
箱根駅伝は、全国的に注目度が高い大会ですが、主催は関東学生陸上競技連盟で、関東学連に所属している大学だけが出場できる関東の地区大会です。
去年の6月、関東学連が、参加資格を全国に拡大すると発表し、関東以外の大学でも、予選会を突破すれば、記念大会となる100回大会は箱根駅伝に出場できることになりました。

▼過去に出場した関東以外の大学は3チーム

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これまでも、関東以外の大学が箱根駅伝に出場したという歴史はあります。
戦前、まだ出場校が少ない時に大阪の関西大学が、3回出場しています。
戦後では、1964年の第40回大会に、京都の立命館大学と福岡大学が記念大会の招待校として出場しています。
今回、予選会を経ての出場ということになれば関東以外の大学にとっては初めてです。

▼予選会は、一斉に走って争う

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記念大会となる今回、本戦に出場できるのは例年より3校多い23チームです。
前回の大会で10位以内のチームは、シード校としてすでに本戦への出場権を持っています。予選会では残る13枠をかけて争います。
駅伝の予選と言っても、実際に襷を繋いで争う訳ではありません。
各チーム10人から12人のランナーが出場して、ハーフマラソンの距離を一斉に走ります。その内の記録のいい10人のタイムの合計で競います。

▼関東以外から予選会に出場するのは11チーム

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今回の予選会には、参加資格を全国に拡大したことによって史上最多の57チームがエントリーしました。その内、関東以外の大学は11チームです。
当初の予想を上回るエントリーになりました。箱根駅伝を走ってみたいという全国の大学の強い思いを感じます。

▼関西の雄 立命館大学の思い

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この中で、今年の3月にいち早く箱根駅伝への挑戦を表明したのが京都の立命館大学です。
立命館大学は、大学三大駅伝と呼ばれる出雲駅伝に20回出場、全日本大学駅伝にもこれまで34回出場、今年も出場を決めている関西の強豪です。

近年、箱根駅伝を走りたいという理由で、力のある高校生が、関東の大学に集中する傾向にあり、大学長距離界では、関東と地方の大学の間に力の差があるのが現実です。
立命館大学が箱根駅伝への挑戦を発表した際のコメントからは、関東の大学に挑むという強い思いが伝わってきます。

▼働きながら箱根を目指す

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今回、大阪から放送大学関西陸上競技部がエントリーしました。
通信制の大学で、普段は働きながら通信制で学び、長距離に取り組んでいるランナー達です。最年長は34歳。結婚していて、子供もいるという選手もいます。3年前に創部され、部が出来た時から、いつかは箱根駅伝の予選会に出場したいという夢を持って取り組んできました。日々の練習は、各自の自主トレーニングが中心で、集団での練習は週に1回程度という中で、今回箱根駅伝の予選会に挑戦するという夢が叶いました。

▼大きな壁は長い距離と過密なスケジュール
本戦出場を目指す関東以外の大学にとって、大きな課題は距離と過密な日程です。

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大学三大駅伝と呼ばれる大会の中で、箱根駅伝が、他の2つの駅伝に比べると区間数も多く、平均距離も圧倒的に長いというのがわかります。
関東以外の大学は、出雲駅伝と全日本大学駅伝を目指して練習を積んでいます。
普段の練習では、箱根駅伝のような長い距離に対応できる練習は積んでいません。
箱根の予選会も、各選手がハーフマラソンの距離21.0975キロ、箱根駅伝の1区間と同じくらいの距離を走らなければなりません。
エントリーした各大学は、例年よりも練習の距離を増やして準備を進めてきましたが、短い準備期間で、長い距離に対応できる戦力を整えられたかという点がポイントになります。

もうひとつ壁になるのが、箱根駅伝の予選会前後のスケジュールです。
箱根駅伝の予選会は、10月14日。5日前の9日の月曜日に、出雲駅伝が行われたばかりです。そして、11月5日に全日本大学駅伝というスケジュールです。
すべてに出場すると、およそ1カ月の間に、大きなレースが3つあって、選手のコンディション調整が難しいという点です。
出雲駅伝や全日本大学駅伝に影響が出てしまうということで、箱根駅伝の予選会に出場しないという判断をした大学もあります。
この3つの大会全てに出場するという大学は、立命館大学と大阪経済大学、環太平洋大学の3校です。この過密なスケジュールを乗り切るために、メンバーを入れ替えながら戦ったり、主力は出雲と全日本で起用し、箱根駅伝の予選会はそれ以外のメンバーで戦ったりとそれぞれの戦略で戦います。

▼大学駅伝の在り方を考えるきっかけに
今回、記念大会ということで全国へ門戸が開放されましたが、長距離の日本全体のレベルアップ、強化のためには、箱根駅伝の全国化が必要だと語る指導者もいます。
しかし、関東の大学にとっては、全国大会にした場合に、自らの出場枠が減ってしまうのではないかという思いもあり、そう簡単な話ではありません。
今回、関東以外から予選会に出場する11の大学の挑戦が、今後の大学駅伝の在り方を考えるきっかけになればと思います。


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三瓶 宏志  解説委員

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