人手不足や地方の過疎化でタクシーの運転手不足が全国的に大きな課題となっています。
どうすればいいのでしょうか。
タクシーの乗客は、コロナで一時的に落ち込んだものの、外国人観光客も増え、回復傾向です。
一方、運転手は令和3年度までの2年間でおよそ4万人減りました。背景には運転手の高齢化やコロナが拡大した際に客が減り、辞めていった人が増えたこと。人手不足の中でより賃金が高い仕事を選ぶ人が増えたものとみられます。
そこで、労働環境を良くして担い手を増やそうという試みも登場しています。東京のタクシー会社はアプリ専用車のサービスを始めました。客がアプリで来て欲しい場所と行き先を入力すると、迎えに行き、目的地に行ってくれます。ただ、通常のタクシーのように駅はもちろん、路上で手を上げる人も乗せることはありません。業務が限定されていることで好きな時間に働くことができるといいます。もちろん、二種免許を持つことが前提ですが、決まった時間だけ働きたいという小さなお子さんを持つ女性や、学生の運転手もいるということです。
国も規制緩和に動き出しています。タクシーの助手席の前にある「運転者証」について、これまでは氏名と顔写真を掲載することが義務づけられていました。しかし、国土交通省はことし8月からは氏名や顔写真をみせる必要をなくしました。プライバシーを保護して安心して働ける職場環境を作るのが狙いです。これによって女性の運転手を少しでも増やしたい考えです。
さらに国土交通省は外国人に運転手を担ってもらおうと、在留資格のうち、農業や建設などの業種に適用されてきた「特定技能1号」にタクシーなどのドライバーも加えるよう法務省などに働きかけています。免許はどこで取得するのか、言葉の問題など気になる点もあります。現段階では実現するのかまだわからない状況です。
人口減少や高齢化が進む地方の対策について国土交通省は個人タクシーの活用を考えています。個人タクシーは人口がおおむね30万人以上の都市に限られていました。しかし、1年以上個人タクシーの運転手の経験があれば、どの地域でもできるようにして地方への移動を促そうとしています。さらに地方に限って、個人タクシーの運転手の年齢制限を原則75歳から80歳までに引き上げる方針で、広く意見を聞いた上で、10月中にも実施したい考えです。
これについて国土交通省は、地元のタクシー会社が毎日、健康の状態をチェックしたり、車両の点検をしっかりと行っているか確認したりするようにしていく方針です。過疎地では、タクシーは高齢者が買い物や病院などへの行き来に使われることが多く、短い距離であることから「ラストワンマイル」と言われています。国土交通省では、この程度の距離ではあれば大きな問題はないとみていますが、安全最優先で実施して欲しいと思います。
こうした中で「ライドシェア」の解禁を求める声が上がっています。ライドシェアは「相乗り」という意味で、自家用車を使って有料で人を運ぶものです。アメリカや中国などで始まっています。アメリカの大手が行っているシステムでは、移動したい人はスマホのアプリなどを通じて現在地や行き先を送信。するとシステムに登録した一般の人が自家用車で迎えにきてくれます。利用者にとっては車が捕まえやすく、タクシーより割安になることが期待されます。ただ、事故の責任を巡って運転手と利用者の間で裁判が起きたケースもありました。日本では、こうしたライドシェアは、いわゆる「白タク」行為として禁じられています。ただ、日本でも限定的ですが、自家用車で人を運ぶ取り組みは始まっています。
兵庫県養父市にあるタクシー空白地域の山間部では、地域の住民の移動手段として自家用車をタクシーとして使うことが限定的に認められています。運転手は地元の畳職人など普通免許を持つ一般の住民です。ただ、国の定める講習を受ける必要があります。安全確保のため、運行管理は、市街地のタクシー会社などが設立したNPOが担っています。こうした取り組みは徐々に広がっていて、国土交通省は、過疎地など地方に限って、タクシー会社が運行管理や運転手の講習を行うことを条件に、自家用車を使って有料で人を運ぶことを認める方針です。
政治サイドからさまざま意見が出ています。菅前総理大臣がライドシェアの解禁を含め、タクシー不足への対策を早急に検討すべきという考えを示しました。また、規制改革を担当する河野デジタル大臣もタクシー不足の解決策としてライドシェアを導入できないか、政府内で本格的に議論していく考えを示しています。一方で、松野官房長官は「運行管理や車両整備の責任を負う主体を置かないまま、自家用車のドライバーのみが運行責任を負う形態を前提とするライドシェアは、安全の確保や利用者の保護の観点などからさまざまな課題がある」と指摘、丁寧な議論が必要だという認識を示しています。ライドシェアを考える上で安全管理をどう担保していくのか大切なポイントになると思われます。
タクシー運転手不足への対応で重要な点について、公共交通政策に詳しい名古屋大学の加藤博和教授は「まずは運転手の賃金を引き上げることが大切。また、タクシーやバス会社などが個別に考えるのではなく自治体や事業者それに住民がともに持続可能な地域交通の形を考えることが不可欠」と指摘しています。国も各地でタクシー運賃の引き上げを認めています。タクシー会社も人材確保のため賃金を引き上げていく必要があると思います。
地方では鉄道や路線バスの廃止も課題となっています。一方で自動運転バスの可能性も期待されています。こうした状況を踏まえ、自治体や事業者は、是非、広い視点で地域交通のあり方を考えて欲しいと思います。
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