4年に一度開かれるラグビーワールドカップ。現在開催中のフランス大会を機に、4年前の日本大会が地域にもたらした影響について解説します。
■12会場で試合 キャンプ地は55か所
4年前、2019年のラグビーワールドカップ日本大会では、札幌から大分・熊本まで、全国12の会場で試合が行われました。
出場チームが滞在した公認キャンプ地は、全国の55か所に上りました。
このようなスポーツの大会がもたらす効果や影響は、「遺産」を意味する「レガシー」という言葉で表現されます。
■今も続く多様な交流
そのレガシーの一例として、大会後も出場チームとの交流を続けている北九州市の取り組みをご紹介します。
北九州市はイギリスのウェールズ代表のキャンプ地になりました。練習が公開された際には、およそ1万5000人が集まってスタンドは満席。ウェールズの歌を歌ってチームをもてなし、ウェールズの選手からは「まるで祖国にいるようだ」といったコメントが寄せられたということです。
大会のあともウェールズとの交流は続きます。
翌年の2020年にはウェールズラグビー協会と「レガシー協定」を締結し、コロナ禍で行き来が難しくなった中、ビデオレターを送り合うなどしてきました。
また、文化庁などが主催したオンラインによる合唱の交流事業に参加して、北九州市の少年少女合唱団がウェールズ語の歌を披露。
去年10月には新しいビジネスに挑戦する「スタートアップ企業」の交流イベントがオンラインで開かれ、北九州市とウェールズからそれぞれ4社が参加して、事業のPRや意見交換を行いました。
さらに地元のラグビー協会は、小学生や中学生によるラグビーの大会「北九州ウェールズカップ」をおととしから開いています。
ウェールズ代表チームが北九州市に滞在したのは6日間。それが息の長い交流につながっています。
今回の大会でも、市は応援メッセージを市民に呼びかけ、1本の動画にまとめて発信しました。この動画、ウェールズラグビー協会もSNSで紹介し、感謝の言葉をつづっています。
■ボランティア活動を継続
次にご紹介したいのが、4年前の大会でフィジー対ウルグアイの試合が行われた、岩手県釜石市のケースです。試合会場の「釜石鵜住居復興スタジアム」は、この大会にあわせて東日本大震災の被災地に新たに建てられました。
釜石市は、かつて日本選手権を7連覇した新日鉄釜石ラグビー部があったこともあり、ラグビーの盛んな土地柄です。市によりますと、4年前は公式ボランティアが会場運営のサポートをしたほか、地元独自のボランティアが清掃活動などにあたりました。
その後、参加者から「これからも継続して関わっていきたい」という声があがり、市は翌年、「釜石ラグビー応援団」を立ち上げました。
現在およそ300人が応援団に登録。スタジアムでラグビーの試合があるときには会場運営のサポートを行うほか、試合のライブ配信を手がけることもあります。
また、ワールドカップで試合があった9月25日を「釜石絆の日」と定め、この前後にイベントを開いています。ことしは9月17日に、リーグワンに所属する釜石と静岡のチームの試合をはじめ、小学生や中学生の試合も行われました。
さらに前日の夜には対戦チームのボランティアとの交流会を開き、参加した26人がボランティア活動について学んだり親睦を深めたりしたということです。
スタジアムができたことで定期的にラグビーの試合やイベントが行われ、首都圏などからもボランティアが参加しています。ワールドカップの開催が、地域と関わりを持つ人々=「関係人口」の増加にもつながっていると言えます。
団長の中田義仁さんは「4年前の大会では、ボランティアのすばらしさや大切さを改めて知ることができた。ラグビーやボランティアを通じて、子どもたちが成長できる環境を作っていきたい」と話していました。
■高校生の伝承活動のきっかけに
釜石市では4年前の大会がきっかけとなっている高校生の活動も。
この時、試合会場の近くで高校生の有志が行ったのが、「うちわ配り」と「語り部」です。
うちわには日本語と英語でメッセージが記され、冒頭、「釜石鵜住居復興スタジアムは、小・中学校が建っていたところです」とあります。この場所にあった小学校と中学校が東日本大震災で被災したことに触れ、「災害意識を高めるきっかけになってほしい」となどとつづっています。
ただ、高校生の活動は、その生徒が卒業すれば途切れてしまいます。そこで活動を継続させようと、その後「夢団~未来へつなげるONE TEAM~」というグループが立ち上がり、災害の伝承と防災の啓発を行っています。
メンバーは地元の高校生で、地域づくりの団体などの協力を得て、活動を続けています。
スタジアムでの試合にあわせて語り部やうちわ配りを行っているほか、班ごとに分かれて、防災食を考えたり、防災について学ぶことができる「すごろく」や「かるた」を開発したりしているということです。
先月には横浜市で開かれた「ぼうさいこくたい」に参加し、神奈川県の高校生たちと共同でブースを設けて「坊主めくり」を応用した新作の防災ゲームのデモンストレーションを行いました。
メンバーは高校生なので入れ替わりがありますが、スタートした4年前は30人ほどだったのが、今はおよそ60人と2倍に増えました。
先月までの体制で代表を務めていた3年生の小笠原桜さんは、「釜石だけでなくほかの地域の防災についても知ることができた。災害はどこでも起こりうるので、ラグビーをとおして防災について伝えられてよかったと思う」と話しています。
また、副代表を務めた大瀧沙來さんは「夢団には感謝しかない」と語り、その理由を聞くと「地域の人たちと交流することで、釜石が好きになった。災害時の支えになるような、地域コミュニティーについて学びたい」と話していました。
「レガシー」というと施設の活用を思い浮かべますが、それだけでなく、まちづくりや人材育成につなげていくような取り組みも大切だと思います。
今回のフランス大会が4年前の日本大会に関わった地域にとって、「自分たちのレガシーは今どうなっているのか」と振り返ったうえで改めて今後について考える機会になってほしいと思います。
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