がんは、日本人の2人に1人がかかると言われる身近な病気です。
がんと診断されたら、まずは命が助かるかどうかですが、治療にかかるお金も気になります。また、ネットにあふれるがん情報とどう向き合えばよいのか、がんになる前に知っておきたい情報をまとめました。
◆知っておきたい3つの制度
お金に対する不安を少しでも減らして治療に専念するために、知っておきたい制度があります。「高額療養費制度」「多数回該当」「傷病手当金」です。
それぞれどういうものなのか、制度を利用して治療費の負担を大幅に減らすことができた大腸がんの患者、川口健太朗さんのケースでみてみましょう。
川口さんの場合、検査で約8万円、手術のための入院で35万円と、3割負担でも計43万円かかりました。このとき家族が教えてくれたのが「高額療養費制度」でした。
「高額療養費制度」とは、1か月あたりの負担上限額が年齢や収入によって決まっていて、それを超えた分のお金が後から戻ってくるという制度です。
例えば70歳未満で年収370万円以上770万円未満の人なら、1か月で治療に100万円かかったとしても、高額療養費制度を使えばひと月あたりの自己負担が8万円程度に抑えられます。(世帯全体の合計を使って、負担をさらに軽減するしくみもあります。)
川口さんは、この制度を使って43万円から17万円まで自己負担をおさえることができました。
ところが川口さんは、手術後、抗がん剤治療を3週間に1回、半年間続けることになりました。高額療養費を使っても、かなりの費用が毎月かかり続けるため、困っていた川口さん。そんな川口さんに会社の総務担当の人が教えてくれたのが、「多数回該当」という制度でした。
「多数回該当」とは、1年間の間に高額療養費の対象に3回なると、4回目からは自己負担額がさらに減るという制度です。
川口さんにもこの多数回該当が適用され、合計24万円で抗がん剤治療を受けることができたのです。
この「高額療養費制度」ですが、基本的に、使うには申請が必要です。申請の窓口は、会社員なら協会健保や組合健保、自営業なら市区町村になります。
注意が必要なのは、申請してから、上限を超えた分のお金が戻ってくるまでに数か月かかるということです。ですから、早めに高額療養費を申請して「限度額適用認定証」をもらっておきましょう。病院窓口で提示すると、支払いは限度額で済みます。また、マイナンバーカードを保険証として使っている場合は、限度額適用認定証がなくても限度額の支払いで済み、申請は必要ありません。
「傷病手当金」も、会社員なら覚えておきたい制度です。病気やケガのために、連続する3日間を含み4日以上、仕事を休んだ場合、会社からその分の給与が出ない場合は、給与の3分の2の金額をトータル1年半までは受け取れます。ただ、受け取るにはいろいろな条件があるので、詳しくは会社の担当者に問い合わせてみて下さい。また、傷病手当金制度は自営業の人は使えません。
川口さんもこの制度を会社の総務担当者から初めて教えてもらい、40万円ほど受け取ることができたといいます。
◆がんになったときのお金の制度 どうやって調べる?
実は、がんになったときに使える制度は他にも様々あるのですが、基本的に「申請主義」といって、患者自身が調べて申請しなければもらえないものがほとんどです。制度の名前を知らないと、検索すらできません。
そんなときに役に立つのが、「がん制度ドック(ganseido.com)」という無料のHPです。看護士で訪問看護ステーションの所長をしている賢見卓也さんが、社会保険労務士などと一緒に立ち上げました。年齢・加入している保険や現在の体調などを入れて検索すると、利用できる可能性のある制度や相談すべき窓口が分かります。
◆ネットのがん情報 どうみればよい?
インターネットのがん情報には、今は使われていない古い治療法から、効果が科学的に確認されていない治療まで、いろいろな“落とし穴”があります。
そんな中、信頼できるHPの代表が「がん情報サービス」(ganjoho.jp)です。日本のがん診療の拠点、国立がん研究センターが運営していて、様々な種類のがんについての解説や、治療についても、科学的根拠に基づくガイドラインなどを情報源として、医師など複数の専門家が定期的に内容をチェックしています。
一方、ネットで調べる時にはどんな点に注意したらよいでしょうか。がんの情報に詳しい、国立がん研究センターがん対策情報センター本部の若尾文彦さんに聞きました。
SNSなどの患者体験談は、「〇〇でよくなった」とはいっても、患者さんが書いているので医学的に正確ではなく、ステマの可能性もあるので、鵜呑みにしてはいけません。
「自由診療」は「標準治療」と比較し慎重に検討しましょう。「標準治療」は、現時点で最も効果があることが、臨床試験で科学的に確認された治療です。つまり、数十人以上が参加して効果を比較する臨床試験が行われて、効果が高いとして勝ち残ったもの。学会の「お墨付き」の治療でもあります。自由診療では、こうした臨床試験は行われていないといいます。
断定的な表現(どんながんにも効く 絶対よくなる)、魅力的な表現(副作用がない、秘密の〇〇)、医療の専門用語に惑わされない、ということも大切です。
実際には、医療のプロでない患者さんが、情報が正しいかどうかを自分で判断するのは、かなり難しいことです。そこで一番大切なのは、ひとりで判断しないこと。
医師に相談するという方法もありますが、ぜひ「がん相談支援センター」に行ってみて下さい。全国各地400か所以上の、「がん診療連携拠点病院」になっている病院にあります。がん関連の相談なら治療の選択からお金の話までなんでものってくれ、しかも無料です。なぜその治療を試したいのかを話して説明を受け、自分が納得した上で判断するようにして下さい。
◆自分ひとりで頑張らないで
お金の制度もネット情報を選ぶのも、自力でなんとかしようとしても難しいのが現状です。
とにかく、まずは「専門家」に相談することが一番だと思います。
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