車に子どもが放置されて死亡する事件や事故はあとを絶ちません。
今月、岡山県津山市で幼い男の子が犠牲になりました。死因は熱中症でした。
子どもの命を守るにはどうしたらよいのか。
木村祥子解説委員です。
【あとを絶たない車内の置き去り】
今月9日、岡山県津山市で祖母が勤務先の駐車場に止めた車の中に2歳の孫をおよそ9時間半にわたって放置して死亡させる事件が起きました。
祖母はこれまでの警察の調べに対し「考えごとをしていて孫を保育施設に送ることを忘れてしまい、気づかなかった」などと話しているということです。
去年、静岡県の認定こども園で当時3歳の女の子が通園バスの車内に置き去りにされ、死亡した事件がありました。
この事件を教訓に、ことし4月からは全国の幼稚園などの送迎バスには安全装置を設置するよう義務付けられました。
バスのエンジンを切るとブザーが鳴り、ブザーを止めるには車内の後部にあるボタンを押さなければなりません。
途中、子どもが車内に残っていないか、運転手などが座席や座席の下を確認する仕組みです。
ただ、今回は自家用車で、事件が起きてしまいました。
残念ながら自家用車での置き去りは全国各地で起きています。
去年11月、大阪・岸和田市で2歳の女の子が父親の車の中に長時間、取り残されて死亡しました。
父親はまず、2歳の女の子の姉と妹を認定こども園に送り届けます。
その後、2歳の女の子を別の保育所に預ける予定でしたが忘れてしまったということです。
父親は警察の調べ対し「朝、保育所に預けたと思い込んでいた」と話しています。
自動車部品などを扱う商社がことし行ったアンケートです。
「1年以内に子どもを残したまま車を離れたことがありますか」という問いに
▼「ある」と答えた人は20.4%、5人に1人に上りました。
この中には買い物などで短時間、車を離れたという人がほとんどでした。
そしてこのうち
▼1.9%が子どもを残していたことを「認識していなかった」と答えました。
わずかながらも無意識の置き去りが発生していることがわかりました。
なぜ、無意識の置き去りは起きてしまうのか。
ヒューマンエラーに詳しい関西大学の中村隆宏教授は
「人は普段、ルーティンワークで動いている。いつもと違う行動でルーティンが崩れるとミスを起こしやすい。子どもの置き去りは愛情や関心の不足からではなく『誰にでも起こりうる』と認識すべきだ」といいます。
例えば、きょうは会社に行く途中にポストに寄って、手紙を出してから出勤しようとするとします。
しかし、歩きながら考え事をしていたため、せっかくポストの前を通っているのに出し忘れてしまい会社に着いてから気が付いたという経験をした人は少なくないと思います。
岡山県津山市のケースでは祖母が勤務先に向かったこの日は親の代わりに孫の送迎を頼まれて、勤務先の駐車場で車内に放置してしまったっということです。
また、中村先生によりますと、普段から送り慣れている人でも、例えば強いストレスや焦り、疲れていたりすると、失念が起きやすくなるので注意が必要だということです。
ではどんな対策をしたらよいのでしょうか。
【子どもの置き去りを防ぐには】
中村先生によりますと、家族との連絡を「習慣化」することがよいといいます。
SNSでも電話でもメールでもよいので「子どもを送ったよ」ということをしっかりと相互確認してほしいといいます。
また、仕事用のカバンや貴重品などを助手席に置いてしまいがちですが、後部座席に設置しているチャイルドシートの横に置いておくのもよいそうです。
子どもの送り迎えだけでなく、普段の買い物の時にもぜひ、実践して下さい。
さらに、今後は保育所と保護者の連絡体制を強化する、フォローシステムが大切で、複眼チェックをしましょうということです。
ただ、今回、事件のあった岡山県津山市で亡くなった子どもが通っていた保育所では、午前9時半までに登園しない場合は保護者に連絡することになっていました。
しかし、事件当日は連絡をしていなかったということです。
もし、保育所が保護者に連絡をとっていれば、子どもが亡くならなかったのでは思います。
安全確認について、子どもを預かる施設の皆さんには改めてルールを徹底して頂きたいと思います。
そんな中、保護者への連絡忘れを防ぐ取り組みを行っている保育園を取材しました。
取材をしたのは千葉市の保育園です。
0歳から5歳までの園児、66人が通っています。
この保育園では登園する前に、保護者のスマートフォンから「登園か、お休みか」を保育園に知らせる仕組みになっています。
この情報は保育園の入り口に設置されたタブレットに反映され、登園すると、保護者は自分の子どもの名前を押してから、保育士に子どもを預けるルールになっています。
そしてタブレットで打刻を済ませるとリアルタイムで保護者の元に子どもを預かったことを知らせるメールが届きます。
例えば、普段は母親が子どもを預けているが、きょうは急きょ、父親という時にも母親の元にメールが届くので「今、無事に保育園に預けられた」ということがわかるのです。
このメールは両親の他にも、登録をすれば祖父母などにも送られます。
子どもを預けている父親は
「うちの場合は子どもが2人いて、保育園が別々なのでこの子はこっちの園、あの子はあっちの園とやっていると時々、もう1人の子どもを車に忘れてはっとすることがある。この保育園は、登園しなかった場合はすぐに先生から連絡が来るのでありがたい」と話していました。
さらに、登園時間が過ぎてもタブレットに打刻されていない場合には保育士のスマホに自動的にアラートが飛んでくることになっていて、保育園が保護者に電話で確認をすることで、置き去りを防ぐ仕組みです。
保育園の園長をつとめる日向美奈子さんは
「保育士も人なのでもちろん点呼も必ずしているが、保育園の中でうっかりとかはある。システムが補う形で子どもを守っていく」と話していました。
この保育園では去年11月の岸和田市の子どもの置き去りを受けて、この取り組みを始めたということです。
当初は、保護者から朝の忙しい時に「なぜ、登園をする前にスマホで出欠確認をしなければいけないのか」とか「子どもを預けたらすぐに仕事に行きたいのに、タブレットに入力するのは手間だ」といった声もあったということです。
ただ、保育園が「子どもの安全を保護者のみなさんと一緒に取り組みたい」と丁寧に説明をしたところ、今では全員が協力をしてくれているということです。
【社会全体で子どもを守る機運を高めたい】
千葉市の保育園のように、システムの力も借りならが、複数の目で確認するというのはよい試みだなと思いました。
「複数の目」と言えば、最後にこんなアンケートをご紹介します。
1年以内に車内に子どもだけで残されているのを見たことがある人に「どのような対応をしたか」を尋ねました。
▼「そのまま通りすぎた」という人が71.5%と最も多い結果となりました。
もちろん子どもを残して保護者が車から離れないことが大前提なのですが、
例えば、大型のショッピングセンターやパーキング・メーターがある駐車場などで、車の中に子どもが取り残されている光景を見たら、少し気にかけて頂きたいと思います。
最近は少し涼しくなってきましたが、車内は温度が上がりやすいうえに子どもは熱の影響を受けやすく、わずかな時間でも危険です。
場合によっては店員や警備員、警察に連絡をしてほしいなと思います。
私たちがこうした意識を持つことで、社会全体で子どもの命を守る機運が高められればと感じました。
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