9月のNHK世論調査で岸田内閣の支持率は下げ止まったものの、3か月連続で「不支持」が「支持」を上回るなど低迷が続いている。ただ13日の内閣改造・自民党役員人事での顔ぶれ次第では「衆院解散近し」の憶測が再び強まることも予想される。岸田政権の「現在地」を分析し山積する政治の課題を考える。
●内閣支持率
岸田内閣を「支持する」と答えた人は3ポイント増えて36%。一方「支持しない」人は2ポイント減って43%。3か月連続で続いていた支持率下落は止まった形だが、これで底を打ったかどうかは不透明だ。というのも岸田内閣の特徴は若い世代の支持が低い点なのだが、9月は30代以下の支持が21%。8月よりさらに5ポイント減らしている。また与党支持層の支持は65%と回復したが、無党派層では20%で低い水準が続いているのは政権にとっての不安材料だ。
さらに支持回復に向けて岸田首相は、夏休み明け以降自ら、物価高騰対策、水産業者への緊急支援などの発信を続けているが、「内閣を支持しない理由」として「政策に期待が持てない」という人が47%と9月も最も多くを占め、「実行力がない」も24%に上っている。13日には内閣改造・党役員人事が行われるが、岸田首相の狙い通りに政権の浮揚につながるかどうか注目したい。
●ガソリン価格高騰
ガソリン価格の高騰が企業の収益や家計を圧迫している。
レギュラーガソリンは全国平均で、9月4日時点で1リットルあたり186.5円。16週連続の値上がりで、現在の方法で調査している1990年以降では2週連続で最高値を更新した。このガソリン価格のグラフに内閣支持率を重ね合わせると、春以降、価格の高騰に反比例する形で支持率が下落していることがわかる。菅内閣は新型コロナの感染者数が増加すると支持率が下落する傾向が指摘された。岸田内閣ではガソリン価格の上昇が最近の支持低迷の要因の一つではないかとの指摘が自民党内からも出ている。
ガソリン価格の上昇による影響を和らげるため政府は、当初9月末までだった補助金制度を年末まで延長し、先週から段階的に拡充している。この効果で価格は徐々に値下がりに転じる見通しで、政府は10月中には175円程度に抑えられるとしている。こうした政府の対応が適切かどうか聞いたところ、「適切だ」は62%、「適切ではない」は22%となった。ただ地域別では温度差もうかがえ、東京で「適切だ」が53%なのに対し、東京・大阪以外では63%となった。特に地方では、通勤や買い物に自動車が欠かせないという人が少なくない。
政府はガソリン以外にも灯油や、農業や漁業で使われる重油なども支援を継続する方針だが、産油国の減産や円安によって価格の高止まりは今後も続くとの見方もある。また国民生活の負担を抑えるためとはいえ、補助金の拡充は「脱炭素」を掲げる国の方針や、世界的な潮流に逆行しているとの指摘もある。また対策が始まった去年1月からこれまでに政府は、6兆円を超える巨額の予算を計上している。岸田首相は「新たな経済対策を検討する中で出口を考えていく」としているが、厳しい財政状況を踏まえれば異例の措置をいつまで続けるのか。終わりをいつにするのか、あわせて示すべきではないか。
●原発処理水放出
そしてもうひとつ、早期に解決が求められているのが福島第一原発の処理水放出に伴う水産業への影響だ。
処理水放出を受けて中国は8月、日本を原産地とする水産物について 輸入を全面的に停止したほか、 中国国内で加工や調理を行うことなども禁じた。また香港政府も福島や東京を含む10都県からの水産物の輸入を止めている。こうした事態を受けて日中関係の悪化を懸念しているかどうか聞いたところ、「懸念している」という人は「非常に」「ある程度」あわせて58%と過半数だったのに対し、「懸念していない」人は「あまり」「まったく」あわせて36%だった。関係悪化を「懸念している」人が最も多い地域は北海道・東北で70%に上っていて、中国の輸入停止が長引くことへの不安がうかがえる。また今回の処理水放出を「妥当だ」という人は66%だったのに対し、「妥当ではない」は17%だったが、北海道・東北では「妥当ではない」が26%とおよそ四分の一を占めた。
日本の水産物の輸出額は去年、対中国がおよそ871億円で第一位、香港が755億円で第二位と、合わせると全体の4割余りに上るだけに、被害は甚大だ。このため政府は、水産事業者への緊急支援策として新たに207億円を支出するほか、中国を経由せず直接第三国へ輸出できるよう日本国内の加工設備の整備や販路開拓を支援することにしている。ただ、事態打開に何より重要なのは中国の考えをどう変えるかだ。岸田首相が先週、国際会議の場で中国を含む各国に対し処理水放出の安全性に理解を求めたことを「評価する」人は75%に上り、中国の李強首相にも直接、輸入停止措置を直ちに撤廃するよう求めたが、現時点で事態に変化はみられない。科学的根拠に基づかない一方的な中国の姿勢の動機や狙いがどこにあるのか、いつまで続くのか見通せないが、中国と客観的なデータを共有し、意思疎通を図っていくことが欠かせない。
●政党支持率
自民党の支持率は、ほかに比べ突出した状況に変わりはないが、今年に入って内閣同様徐々に低下しており、9月は34.1%と先月と並んで岸田政権下で最低だ。一方野党側は、日本維新の会が立憲民主党を5か月連続で上回り、9月は維新が5.8%、立民は4.0%と2ポイント近く差が開いた。また特に支持する政党のない「無党派」は40%を超え今の政権で最も多くなった。10月には衆議院議員の任期が折り返しを迎えるが、政党支持の状況が解散・総選挙をめぐる議員心理や政党の戦略に影響を与えることも予想される。
●衆院解散・総選挙
冒頭にも記したが、ここにきて岸田総理は物価対策などの発信を続けているほか、先週には公明党に自ら呼びかけて一旦は解消した次の衆議院選挙での東京の選挙協力を復活させた。精力的な一連の動きは、早期の解散を視野に入れた布石ではないかという見方も政界にはある。13日の改造人事で女性や若手を多く抜擢するなど、その顔ぶれ次第では「解散近し」の憶測がより強まる可能性もありそうだ。
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