最近よく耳にする消費税のインボイス制度が10月にスタートします。インボイスとは請求書という意味で、制度自体はヨーロッパで始まったと言われています。制度の内容と課題や対応策について考えます。
■そもそも消費税の納税とは?
インボイス制度を理解するためにはまず消費税がどのように国に納められているか知ることが欠かせません。
私たち消費者が例えば、スーパーやショッピングセンターなどの販売事業者から1000円で商品を買うとします。代金1000円、消費税が10%とした場合、100円の消費税を支払います。一方、販売事業者は、商品を仕入先から買う際に、例えば600円の代金と60円の消費税を支払うとします。するとこの販売事業者は、商品の販売を通じて受け取った消費税額100円から仕入れで支払った消費税額60円を差し引いて、40円を税務署に納めているわけです。私たちが払った消費税は店などが代わりに納めています。なお、仕入れで支払った消費税分を差し引くことを「控除」といいます。
■インボイス導入の背景には軽減税率が関係
4年前に消費税が10%に上がった際に、税率は8%のひとつから、10%と、食品などの一部では軽減税率の8%の複数税率になりました。その結果、例えば、売る方が8%で請求しているにも関わらず買い手が10%にしてしまって、それぞれで税率が違う事があり、正確に納税されないケースもありました。
そこでインボイスが必要になりました。インボイスは、発行するのに事前に税務署に登録が必要です。その上でこれまでの請求書や領収証、レシートなどに、手書きでもいいので、会社の登録番号や、税率、消費税額を明記しなくてならないです。これによって10%のものと、8%のものをキチンと分けることができ、国も消費税を正確に把握できるようになります。そして、軽減税率の経過期間が一定程度たったので10月からインボイス制度が導入されることになりました。
■小規模事業者やフリーランスの人たちから影響を心配する声も
こうした方の中には、年間の売り上げが1000万円以下の方がいて、消費税を納める必要がない「免税事業者」となっています。しかし、インボイス事業者として登録すると新たに納税する義務が生じます。そこで、登録しないで「免税事業者」のままでいることも選択できます。
ただ、インボイスに登録しない場合、取引している事業者の側にデメリットが生じることも考えられます。先ほどの例でいうと、販売事業者は仕入れの際に支払った消費税を差し引く、つまり控除して納税しますが、インボイスがないと、どれだけ消費税分が含まれているのか明確でなく、控除が認められず、その分、販売事業者が負担を被る可能性もあります。そうなると今度はインボイスを出さない仕入先が販売事業者から取引を打ち切られたり、値下げを求められたりするおそれがあります。
■国も対策に乗り出す
制度がスタートする前にすでに仕入れ先に一方的に値下げを要求したとみられる18の事業者に対して公正取引委員会が独占禁止法の違反につながるおそれがあるとして注意を行いました。公正取引委員会はこうした行為に対して今後も厳しく対処する方針を示しています。
国は免税事業者がインボイス業者に転換した場合の負担軽減策を用意しています。3年間、「納税額を売上にかかった消費税額の2割に軽減する」措置を取ります。例えば、ある小規模の事業者が売り上げ700万円、消費税率が10%で税額が70万円かかるとします。仕入れが150万円、税額が15万円だとします。先ほどの控除のやり方だと70万円から15万円を引きますと納税額は55万円となります。しかし、インボイスに登録して納税することになっても納税額を売上にかかった消費税額の2割にします。この場合、70万円の2割、14万円となって先ほどより41万円負担が軽減されることになります。また「簡易課税」という軽減措置も用意されています。業種によって売り上げにかかる消費税額の10%から60%に減らす措置もあります。
一方、国は企業などの事業者の側にも、当面の間、支払う税の負担を軽減する措置も用意しています。そのため、一部の事業者では取引先の免税事業者に「インボイスの登録を求めない」、つまり企業が消費税分を負担するといった方針を打ち出すところも出ています。これは取引先をつなぎとめていくための対応とみられます。
そもそもインボイス制度は強制されるものではありません。小規模事業者の方は、まずは取引先と十分話し合って、登録するか、しないか、どちらがメリットがあるのか考えて判断する必要があります。
■情報はどこで知ることができる?
財務省や国税庁など様々な省庁が広報や相談活動を行っています。国税庁は専用のコールセンターを設けています。また、中小企業庁は中小企業や小規模事業者向けの相談窓口を作っています。相談内容によっては、税理士が対応する態勢も整えています。このほか、商工会議所も冊子を作り、制度の理解と対応策を紹介しています。ただ、広く理解が進んでいるとは言えないという声も聞かれます。国には引き続き様々なチャンネルでわかりやく丁寧な説明が求められています。また、インボイス制度は、来月以降でも登録はできます。事業者の方は、しっかりと情報を集め、よく取引先と話し合って対応を決めることが大切です。
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