明日からの9月は、「がん征圧月間」。
日本人の2人に1人が生涯のうちにがんになるといわれ、がんはとても身近な病気です。
もし自分ががんと診断されたら、まず、どうすればよいのでしょうか?
◆がんになる前に知っておきたいこと
がんを告知されると頭の中が真っ白になって、どうしたらよいか分からなくなってしまう人が多いですが、実は今は「がん=死」という時代ではなくなってきています。
診断や治療が進んだおかげで、治った目安とされる「がんの5年生存率」は6割を超え、がんが早期で見つかれば、ほとんどが助かります。
告知の直後は、様々な不安や疑問がわいてきて、とても辛い状態になります。
でも、そんなときに「まず」どうすればよいのか、がんになる前に知っておけば、より良いチョイスができるはずです。がんの専門病院の医師や看護師、患者団体に取材しました。
◆「あせらない!」
取材したみなさんが口を揃えて言うのは、とにかく「あせらない」ということ。実は、ほとんどのがんの進行は月単位。膵臓がんなど治療を急がなければいけないがんも確かにありますが、その場合は、医師からその旨伝えられるはずです。
がんを告知されてから、気持ちが落ち着き、判断ができるようになるまでは、平均で2週間程度かかると言われています。その間にインターネットで他の患者さんの体験記を読んだりすると、どんどんネガティブな気持ちになってしまうため、できれば避けた方がよいというアドバイスもありました。
あせると、どうしても誤った行動をとってしまいがちです。
特にやってはいけないのが、診断直後に「衝動的に仕事を辞めてしまうこと」。もし、いま働ける状態で仕事を続けたいなら、いったんは冷静に考えて下さい。すぐに仕事をやめてしまうと収入がなくなるだけでなく、会社などに勤めている場合は、「傷病手当金」「障害年金」など、もらえるはずの色々なお金の制度が使えなくなってしまうからです。まずは休暇をとることを考えて、どのぐらい長く休めるかを人事などの担当者にたずねて下さい。
◆どの病院に行けばよい?
一番気になるのは、どの病院に行ったらよいかです。
参考になるのが「がん診療連携拠点病院」。全国の各都道府県にあり、全部でおよそ400あります。がん診療連携拠点病院は、全国どこでも質の高いがん治療を受けられるように、国が定めた基準を満たし、専門的ながん医療を提供するなど、地域のがん診療の中心となる病院です。
下記のHPで「都道府県」や「がんの病名」で、近くのがん診療連携拠点病院を検索できます。実際にがん診療連携拠点病院に行くときには、紹介状があるとスムーズです。
◆医師の話をきくときのポイント
検査を受けた後に、医師から検査の結果や治療についての説明がありますが、このときにぜひ聞いておきたいのが、下記の4点です。
「正確ながんの名前」というのは、がんには似たような名前のものも多く、同じ臓器のがんでもがん細胞には種類があって、広がるスピードが違ったり、使う薬が違ったりするからです。
「ステージ」というのは、いわば“治りやすさ”のこと。がんの大きさや深さ、転移しているかどうかで、同じ名前のがんでも、治療は全く違ってきます。例えば検査のときと同じように、内視鏡でがんが取り切れて治療が終わるケースから、手術と薬などいくつかの治療の組み合わせが必要で、しかもそれが長く続くケースまであるのです。
◆“治療法のチャンピオン”標準治療
標準治療というと「普通の治療」「平均的な治療」と思われがちですが、「現時点で最も効果があることが、臨床試験で科学的に確認された治療」のことです。
例えば薬ならば、同じ条件で薬Aを使った人達と薬Bを使った人達の効果や副作用を比較し、現在Aが最も効果のある薬だということが科学的に確認されると、「標準治療」となります。
つまり、いわば試合を行った結果、現時点で“チャンピオン”であると学会からお墨付きをもらった治療が標準治療なのです。
実際には、「標準治療」をもとに、患者さんの体の状態(例えば、手術が標準治療でも、高齢ならできないこともある)や、患者さん自身の希望(入院はできるだけ短くしたい等)も考慮して治療法を決めます。
標準治療ではなく、「臨床試験」「治験」や「先進医療」と呼ばれている治療を受けてみたいと思うことがあるかもしれません。しかし、これらは確かに最新のものですが、いわば試合中でまだ決着がついていない状態です。つまり、標準治療になる可能性はあるものの、まだ分からないということですので、それを理解した上で医師と相談して下さい。ちなみに、先進医療を受ける場合は、その新しい治療自体は保険適用にはならないので注意が必要です。
医師からすすめられた治療法については、副作用や後遺症と言ったデメリット、そして他の選択肢はないのかも確認しましょう。
また、医師からの説明は、気持ちが動揺したり、難しい専門用語もあるため、できるだけひとりではなく、家族や親しい人に来てもらって一緒に聞きましょう。メモや、医師の許可がとれれば録音するのもおすすめです。
◆ひとりで悩まずに「がん相談支援センター」へ
がんになる前にぜひ知っておいてほしいのが「がん相談支援センター」です。
治療前、治療中、治療後まで、どんなタイミングでも、がんについてのあらゆる相談ができます。
がん相談支援センターは、上記の「がん診療連携拠点病院」などの中に設置され、全国に
400か所以上あります。その病院にかかっていなくても相談できるのがポイントです。
本人だけでなく家族も利用できますし、電話での相談や匿名での相談も可能です。
しかも基本、無料です。
看護師に治療について分かりやすく説明してもらったり、治療を選ぶときの相談にものってもらえます。医師には言えないような、診断直後の漠然とした不安もきいてくれたり、「がんになったことを家族や職場にどう伝えればよいか」、知っておきたいお金の制度、今後の生活の不安についても相談してよいのです。
がんの告知後、患者さんは、たとえ家族や友人がいても、孤独感や疎外感に悩まされるといいます。ひとりで悩んで考えたり決めたりしようとすると、誤った選択をしてしまうこともあります。とにかく一度、「がん相談支援センター」を訪ねてみて下さい。
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