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気づいて!"フレイル" 早期発見へ新たな目安

牛田 正史  解説委員

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介護が必要な一歩手前の状態を「フレイル」と呼びます。
その状態にいち早く気付き、機能を改善・維持していくことが重要とされています。
このフレイルかどうかを判別する際の「新たな目安」が、7月に公表されました。
最新のフレイルチェックや予防法について、牛田正史解説委員がお伝えします。

【新たな目安とは】

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フレイルとは、「か弱さ」などという意味の言葉です。
高齢化が進み、介護が必要な人が急増していますが、その手前のフレイル状態にいち早く気付いて、心身の機能の改善や悪化を防ぐことが重要になっています。
このフレイルの人を見つけるための健診、いわゆる“フレイル健診”が、3年前から全国の市町村で始まっています。
75歳以上が対象で、すでに約9割の市町村で実施されています。
この健診の場で、フレイル状態を判別する1つの目安が、この度、示されました。

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目安は、東京都健康長寿医療センター研究所や大阪大学などのグループが作成しました。
フレイル健診ですでに使われている質問票を活用します。
これは身体機能や食習慣などを尋ねるものです。
これまでは、保健師などが、その回答を総合的に見て状態を判断していましたが、もう少し客観的な指標が欲しいという声が上がっていました。
そこで今回、この質問票を“点数化”して、フレイルを判別する目安を作ったのです。
12の質問をピックアップして、それぞれに1点ずつが割り振られます。
そして、4点以上なら「フレイル状態」の可能性があるとしました。
つまり、具体的なラインを設けたわけです。

【フレイルチェック 12の質問】
ここからは、その12の質問を細かく見ていきます。
質問は簡潔な内容ですので、健診の場だけでなく自宅でチェックすることも可能です。
また、75歳以上の健診で使われる質問ですが、それより年齢が下の人たちも十分参考になります。

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まず「栄養状態」に関する質問です。
十分な栄養が取れていないと、筋力など体の機能が衰えます。
「1日3食をきちんと食べていますか」という質問があり、「いいえ」と答えると1点です。
また、「体重が半年で2キロから3キロ以上減りましたか」という質問では、「はい」と答えると1点となります。
意図せぬ体重の減少は、フレイルの大きな兆候の1つです。
それだけ食事が十分に取れていないことを示しています。

続いて「口腔機能」に関する質問です。
噛む力や飲み込む力などを指します。
これが衰えると、十分な栄養を摂取できなくなります。
「半年前に比べて、たくあんや、さきいかなど、固いものが食べにくくなったか」。
そして、「お茶や汁物などで、むせることがあるか」。
この質問に「はい」と答えた人は、それぞれ1点となります。

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次は「身体機能」です。
筋力などの低下を尋ねる質問です。
特に老化は足から来ることが多いと言われていて、「転倒」や「歩行速度の低下」が大きな兆候になります。
「この1年間に転んだことはあるか」。
「以前に比べて歩くスピードが遅くなったと思うか」。
これらの質問に、「はい」と答えた人は1点です。
また、普段の運動習慣も聞いています。
「ウオーキングなどの運動を週に1回以上しているか」。
「外出を週に1回以上しているか」。
それぞれで「いいえ」という人は1点です。

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残りは4問です。
ここからは「認知機能」に関する質問です。
「“いつも同じことを聞く”などと、周りの人から物忘れがあると言われているか」。
「きょうが何月何日か分からない時があるか」。
それぞれ、「はい」という人は1点です。
最後に、「社会的側面」です。
「普段から付き合いのある家族や友人がいるか」。
「体調が悪い時に、相談できる身近な人がいるか」を尋ねています。
「いいえ」という人は1点となります。
人と話す機会が少ないと、認知機能の低下に繋がるおそれが十分にあります。

【フレイルの割合は?】

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ちなみに、フレイル状態の人は、どれくらいいるのでしょうか。
フレイル健診が始まる前の、2012年のデータではありますが、地域に住む65歳以上の高齢者2000人余りを対象にした全国調査があります。
この時は、フレイル状態の人が8.7%。
その前段階のプレフレイルの人は40.8%に上りました。
ここ数年は、新型コロナの影響で外出する機会が減り、この割合がさらに高くなっている可能性も十分にあります。

【フレイルは改善できるのか?】
もし、自分がフレイル状態だと分かった場合、そこから心身の機能を改善することはできるのでしょうか。
今回の目安を作成した、東京都健康長寿医療センター研究所の石崎達郎研究部長は、「仮にフレイルと判断された場合でも、適切な取り組みをすることによって、健康状態に戻る可能性は高いと言える。それだけに、フレイル状態をいち早く発見して対応することが、とても重要なポイントです」と話していました。

【フレイル対策】
健康な状態に戻ることは十分可能ということですが、具体的に、何に取り組んだらよいのでしょうか。
フレイルを防ぐ、もしくは機能を改善するための主なポイントをまとめました。

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「食事」、「運動」、「社会参加」です。

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まず食事は、やはり1日3食、バランス良く栄養を取ることが大切です。
例えば、「さあ、にぎやかにいただく」という言葉があります。
これは、それぞれ食品群の頭文字になっています。
「さ」は魚、「あ」は油、「に」は肉、「ぎ」は牛乳、「や」は野菜、「か」は海藻。
そして「いも」「卵」「大豆」「果物」と続きます。
あわせて10品目あります。
このうち、出来れば毎日7つ以上、食べることが推奨されています。

次に運動です。
自分の健康状態にあわせて、無理のない範囲で行ってください。
例えば歩く「歩数」でいえば、65歳から74歳の人は1日7000歩、75歳以上の人は5000歩という目安があります。これは家の中での歩数も含みます。
今はスマホでも歩数を調べられるので是非、確認してみてください。
このほか、椅子に座ったり、立ったりをくり返す「椅子スクワット」など、室内で出来る運動も有効です。

そして「社会参加」です。
人と話す機会を増やすことなどが重要になります。
出来れば1日1回以上は外出し、家族や近所の人などと交流する。
またボランティアなどの活動に参加するのも良いそうです。
ただ、最近は猛暑の日が続いていますので、無理の無い範囲で、活動してください。

フレイルの状態であれば、早めに対処すれば、健康な状態に戻すことは十分可能です。
是非、ご自身の状態をチェックして、予防に取り組んでもらえたらと思います。


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