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対策は? SNSのチャットで誘う悪質商法

今井 純子  解説委員

ラインなどSNSのチャット機能を悪用した事業者による被害が相次いでいるとして、国の消費者委員会の検討会が対策の強化を求める報告書をまとめました。今井解説委員。

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【SNSのチャットを悪用した被害。どのような被害が起きているのですか】
例えば、こちら。副業をしたいと思って、ネットで検索し、人気ナンバーワンという副業サイトをみてみました。

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すると
▼ 「スマホで簡単」とか「すきま時間にいつでも稼げる」と書いてありました。そこで「0円でスタートする」という表示を押したところ、

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▼ こどもと一緒に写真に写っている「〇〇ママ」と称する人を友だち登録するよう促されました。

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▼ 登録したところ、チャットで「今までさまざまな失敗をしてきたけれど、これなら大丈夫」「無料アプリを設定どおりにするだけで毎日3万円以上振り込まれます」「大好評で、募集枠があと5人」こんなメッセージが送られてきました。

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やり取りする中で、
▼ 「2万円のマニュアルが必要だけれど、稼いだ後の支払いだから安心」と言われたので、案内された申し込みフォームから申し込んで契約した。
▼ すると男性から電話があり、そこで初めて、副業ではなく、数十万円する投資用のソフトの勧誘だったことがわかったというのです。誘われた時の内容と違い、それなら契約しなかった。でもここでやめてもマニュアル代は返してもらえないと言われた、という被害です。

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このようにSNSのチャットで誘われた副業や投資の教材など、儲け話に関する被害の相談が全国の消費生活センターに相次いでいると言います。

【子育て中のママとか、安心してしまいそうな言葉が並んでいますが、最後、電話があったのは、男性の事業者だったのですね】
事業者が第3者の子育て中のママを装っていた。あるいは、仲間だった可能性が考えられます。この勧誘、問題になる点として
▼ 匿名を使っていて事業者の名前を表示していない。
▼ またチャットでは「投資用のソフトの勧誘」という本来の目的も書かれていないし
▼ 稼いでからの後払いと誘ったのに、ウソだった。こうした点があります。
チャットだと、会話のようにやりとりするので、友だち感覚でつい信用してしまう。ところが、おカネを返してもらおうとすると、相手が会話から抜けて連絡がとれなくなってしまうこともあると言います。
老後への不安などから、副業や投資に関心を持つ若い人が増えていて、そこに、悪質事業者が、SNSのこうした特徴を悪用して、つけこんでいるとみられるのです。そして、こうした被害に対し、今の法律では十分に対応できていないという指摘があるのです。

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【どういうことですか?】
トラブルが多い取引を規制する法律としては特定商取引法という法律があって、例えば、電話の音声を利用して勧誘する場合は、電話勧誘販売の規制。そして、文字などの広告で商品を紹介するカタログやネット通販などについては、通信販売の規制があります。
まず、電話勧誘については、
▼ 勧誘を始める前に、事業者の名前。そして、「〇〇の販売をしています」というように、販売の目的を明示することが義務付けられています。加えて、
▼ ウソなどをついて勧誘することは、禁止されていて、
▼ 違反した事業者は、業務停止命令など行政処分の対象になります。
▼ そして、8日間は、理由を問わずに消費者から契約を解除できる「クーリング・オフ」が認められています。

【通信販売の場合は、どう違うのですか?】
通信販売だと、著しく事実と違う広告などは禁止されていて、行政処分もあります。ただ、勧誘についての規制はありません。クーリング・オフも認められていません。
では、SNSのチャットを利用した文字のメッセージによる勧誘はどうかというと、
▼ 途中で、電話やウェブ会議に切り替わって勧誘され、その後、契約した場合は、電話勧誘で、クーリング・オフできるのですが
▼ 先ほど紹介したケースのように、チャットで誘われて、そのままネット上で契約した場合。通信販売ということになります。

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【クーリング・オフできないのですね】
その通りです。契約の後、電話がかかってきても、契約した後ですから、電話での勧誘ではない、という解釈になるのです。

【クーリング・オフがあるのと、ないのとは、どういう違いがあるのですか】
クーリング・オフが認められているのは、例えば、電話勧誘販売のほか、訪問販売があります。これは、突然の電話や訪問で、不意打ちで勧誘を受け、冷静に判断ができないまま契約に持ち込まれることがある。だから、冷静になったところで、無条件で契約を解除できるようにしようという考えです。
一方、通信販売は、不意打ちではなく、広告を見て消費者が自ら連絡して、契約しているという考えから、クーリング・オフが認められていないのです。

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ただ、チャットでの勧誘は、これまでの通信販売とは、違う面があるということで、消費者行政の監視役として、有識者や消費者の代表でつくっている国の消費者委員会が検討会をもうけて、先週、報告書をまとめました。

【どのような内容ですか?】
SNSのチャットによる勧誘・販売については
▼ 個人だと思って友だち登録をしたら、いきなり事業者から勧誘される不意打ち性があったり
▼ 既読機能があるのですぐに返事を返さなくてはいけないと思い、リアルタイムでメッセージを「やりとり」していく中で、思っていたのと違う契約に導かれたりします。
▼ そして、断片的なやりとりで勧誘され、一覧できる正確な商品情報がない。
▼ さらに、やり取りの内容を他の人が見ることはできない、メッセージを削除することも可能という、密室性もあります。
このように、文字だけれど、音声で誘われる電話勧誘に近い特徴があるとして
▼ 勧誘に先立って事業者の名前や販売目的を明らかにするよう義務付けたり、
▼ ウソを言って勧誘することなどを禁止したりする、勧誘規制を導入すること。
▼ そして、クーリング・オフの対象とすること。
こうした対策を検討するよう消費者庁に求めたのです。

【この方向で進むのでしょうか?】
消費者庁は、被害が起きているという相談現場の声は重く受け止めている。一方、被害の規模や、海外の対策など、すぐに法改正をするには、十分調べたと言えない点もあり、今後、さらに調査などを進め、必要な対策を考えていきたいとしています。
これに対して、相談現場からは「悪質な事業者が、クーリング・オフができないことに目をつけ、チャットを利用して購入させるケースが増えていると実感している」という声も出ています。消費者庁と消費者委員会が連携をして、被害を防ぐための必要な、そして実効性のある対策の検討を急いで進めてほしいと思います。

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【対策がとられるまで、時間がかかるかもしれませんね。被害にあわないよう、消費者としても注意しないといけないですね】
被害の実態に詳しい専門家からは、
▼ まず、副業や投資について、ネット上での「儲かる」という広告や誘い文句は疑うこと。「誰でもできる」「簡単」「確実」といった言葉は信じない。
▼ また、ネットで契約をする場合は、事業者の名前。相手が会話から抜けても連絡がとれるよう電話番号。そして契約書の内容を確認し、トラブルに備え、スクリーンショットをとっておくことも重要だとしています。
▼ その上で、トラブルに巻き込まれた場合は、身近な消費生活センターに相談していただきたいと思います。全国共通の188の電話番号からつながる仕組みになっています。

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泣き寝入りせずに、相談していただきたいと思います。


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