日本で多くの小学生に使われているランドセル。
でも卒業して使わなくなったらどうしようかとお悩みの保護者もいるのではないでしょうか。
そのランドセルが、長年、戦闘が続いてきたアフガニスタンの子どもたちに希望を与えています。
現地にランドセルを送る活動や今のアフガニスタンの情勢について解説します。
Q、アフガニスタンの子どもたちにランドセルを送る活動、どのようなものでしょうか?
A、東京にある国際協力NGOの「ジョイセフ」が2004年から行ってきたものです。
もともとは、使われなくなったランドセルの再利用先を探していたメーカーの呼びかけがきっかけだったということです。
このNGOでは全国の小中学校や企業などに呼びかけて、使われなくなったランドセルを集め、アフガニスタンに届けてきました。
その数はこれまでにあわせて26万個を超えているんです。
Q、26万個というのはかなりの数ですね。現地ではどのように届けられているのでしょうか?
A、こちらの写真は、4年前にNHKが取材したランドセルの配布の様子です。
配布を行うのは東部ナンガルハル州で活動するNGOで、担当者が州内の小学校を訪れて1年生から3年生までの児童1人1人に手渡します。
Q、子どもたちが笑顔で受け取っているのが印象的ですね。ランドセルを持っていなかった時はどうしていたのでしょうか?
A、中には、レジ袋や手持ちで教科書や勉強道具を運んでいた児童もいたそうです。
Q、これらのランドセルは、どのようにして現地へと発送されるのでしょうか?
A、まず、全国から集められたランドセルは都内の物流倉庫に集められ、検品が行われます。
検品では、ベルトや留め具などが壊れていないかといった確認のほかに、アフガニスタンではイスラム教が広く信仰されていることから、宗教に配慮した確認も行われます。
例えば、日本ではランドセルに神社のお守りをつけることがありますよね。
こうしたものが付いたままになっていないか。また、素材に豚の革が使われていないか、なども確認するということです。
Q、細かな作業が行われるのですね。
A、はい。こうした検品作業は年2回ほど行われ、毎回100人ほどのボランティアが一斉に行っていました。
多い年には2万個を超える数を発送していたということです。
しかし、新型コロナウイルスの感染拡大の影響でこの数年、ボランティアが集合できない状況となり、発送される数も多い年の半分ほどに減っていたんです。
その後、感染法上の位置づけが5類に移行したことなどを受けて、先月(6月)、4年ぶりにボランティアによる検品が再開されました。
この時は60人あまりが集まったということです。
Q、これらのランドセルはどのようなルートで現地へと届けられるのでしょうか?
A、ランドセルは日本から船便でまず、パキスタン沿海部の都市カラチに運ばれ、陸路でペシャワルという内陸部の都市に向かいます。
それから国境の峠を越えて、目的地であるアフガニスタンの東部ナンガルハル州の都市ジャララバードに到着するのです。
その時の状況によって異なりますが、日本を出発してから、現地に到着するまでに2か月ほどかかるということです。
その費用なんですが、まずジョイセフでは、ランドセル1個につき輸送経費などとして1800円の寄付をお願いしています。
ただ、円安や輸送費の高騰の影響もある中、企業などにも寄付を呼びかけて、なんとか費用をまかなっているということです。
ジョイセフの甲斐和歌子さんは、「現地の子どもたちはランドセルを受け取って、『日本ってどんな国なんだろう』とか『どんな子が使っていたんだろう』などと想像し、世界に興味を持つきっかけとなっています」と話していて、活動への理解を求めています。
Q、アフガニスタンにランドセルを送る日本の子どもたちにとっても、現地や世界について考えるいい機会となるかもしれませんね。
ところでアフガニスタンといえば、政情が不安定な国というイメージがありますが、今どういう状況なんでしょう?
A、おととしイスラム主義勢力タリバンが再び政権を掌握したニュースは記憶にあるのではないでしょうか。
そもそも、タリバンという勢力は1996年からアフガニスタンを統治していたのですが、2001年のアメリカ同時多発テロ事件の首謀者で国際テロ組織アルカイダのリーダー、ビンラディン容疑者をアフガニスタン国内にかくまったという理由で、アメリカがタリバンに対する軍事作戦を開始しました。
これによって、タリバンはいったん政権の座を追われたのですが、その後、現地に駐留するアメリカ軍などに対する戦闘やテロを繰り返し、アフガニスタンの治安は著しく悪化したんです。
ところが、アメリカ軍が本格的な撤退を始めると、力を蓄えていたタリバンは、おととし、瞬く間にアフガニスタン政府を崩壊させ、復権したのです。来月でちょうど2年となります。
Q、タリバンが復権したことで、ランドセルの配布活動への影響は?
A、ジョイセフによりますと、以前はタリバンが支配していた地域は入ることが難しかったのですが、タリバンが全土を統治することになったことで、戦闘やテロも減り、治安も以前よりは回復しているということです。
多くの小学校で授業が行われ、ランドセルの配布活動ができる地域も広がったということです。
ただ、タリバンをめぐっては、イスラム教を独自に解釈した極端な政策が国際社会から批判されています。
その代表的なものが、教育や就労など女性の権利の制限です。
例えば、タリバンは復権後、女子の中等教育を禁止しました。
これは日本の中学校と高校にあたるもので、女子は事実上、小学校までしか通うことができなくなってしまいました。タリバンはランドセルの配布活動には理解を示しているのですが、これも対象が小学校だからとみられます。
ですから、せっかくランドセルを受け取って、学ぶことの楽しさに目覚めても、女子は小学校より上の教育はあきらめなければならないのが実態です。
以前、私たちが取材した女性の中には、小学生の頃、ランドセルをもらったことをきっかけに勉強に力が入り、助産師になったというケースもありました。
こうした女性の学ぶ機会、そして社会進出の機会が失われているのです。
さらに就労についても、タリバンは去年からことしにかけて、現地にある国連の支援団やNGOにアフガニスタン人の女性職員が出勤することを禁止したほか、最近では国内にある美容院を閉鎖させる決定を出しています。
こうした一連の動きに対し、国際社会からは女性の雇用や収入を奪うものだとして強い非難の声が上がっています。
Q、女性の教育や就労の制限は、アフガニスタンの社会にとっても損失となるのではないでしょうか?
A、その通りです。将来的な人材不足につながるおそれがあります。
例えば医療です。アフガニスタンでは、女性が夫や父親など親族以外の男性と接触するのは好ましくないと広く考えられているため、医療現場では女性の医師や看護師が、女性の患者に対応するのが一般的なんです。
もし、女性がしっかりとした教育を受けることができなければ、医療の担い手も不足することになり、女性が適切な医療を受けられなくなってしまいます。
また、アフガニスタンは、長年の戦闘で国内が疲弊しているうえ、タリバンの復権後、経済は悪化し、食料不足も深刻化しています。
復興にあたっては、女性も含めた多様な人材が求められているのではないでしょうか。
日本から送られたランドセルが、アフガニスタンの人たちに教育の大切さを理解してもらうきっかけとなることを期待したいと思います。
この委員の記事一覧はこちら