最終盤を迎えた通常国会は衆院解散をめぐって緊迫の度を増している。岸田首相の戦略と少子化対策の財源確保などの日本政治の課題について考える。
【内閣支持率】
NHKの6月世論調査で岸田内閣を「支持する」と答えた人は3ポイント減って43%。一方「支持しない」6ポイント増えて37%だった。岸田内閣の支持率が減少するのは5か月ぶりで、「支持」と「不支持」との差は6ポイントに縮まった。年代別でも5月大幅に増加した30代までの若い世代の支持は6月5ポイント減って36%と、不支持を再び下回った。
支持が減少した要因についていくつか考えられるが、何と言っても政策への期待が高まらない点が大きい。「内閣を支持しない理由」として「政策に期待が持てないから」という人は45%と今月も最も多い。また「実行力がないから」が16%に上っているのは、マイナンバーカードをめぐってトラブルが相次いで見つかり、利用範囲の拡大を「慎重に進めるべきだ」また「拡大すべきではない」人が8割を超えていることとも関係していると考えられる。さらに、ここにきて「人柄が信頼できないから」は20%と、5月から12ポイントも上昇し、岸田内閣で最も多くなった。
なぜだろうか。去年、首相公邸の公的なスペースで不適切な行動をとった首相秘書官の長男を岸田首相は事実上更迭したものの、親族を政府の要職に起用したことには今も意見が分かれている。
5月下旬にはG7広島サミットがあり、ウクライナのゼレンスキー大統領が来日して議論に参加したことを「評価する」人は「大いに」「ある程度」あわせて75%。また「核兵器のない世界」の実現に向けた機運が高まることを「期待できる」という人も、今の厳しい国際情勢にもかかわらず、「大いに」「ある程度」あわせて33%とサミット前の調査より5ポイント増えた。にもかかわらず政府与党内に期待感もあったサミットによる支持押上げ効果は、一連の問題によって相殺された形だ。
【少子化対策】
肝心の政策面において物価高などと並んで最大の課題は、やはり人口減少への対応だ。少子化対策について政府は、今後3年をかけて年間3兆円台半ばの予算を確保し、児童手当の拡充策などに集中的に取り組む方針だ。
そこで、こうした対策の効果に期待しているかどうか聞いたところ「期待している」は「大いに」「ある程度」あわせて39%の一方で、「期待していない」は「あまり」「まったく」あわせて56%に上った。
要因として2点指摘したい。まずは対策の中身だ。児童手当をめぐって政府は、所得制限を撤廃して高校生まで支給を拡大するほか、第3子以降には今の倍の3万円に増額する方針だ。また育児休業給付も拡充する考えだが、給付による支援だけで若い世代の将来不安を払しょくできるのか。結婚を諦めたり、遅らせたりする要因とされる若い世代の所得をいかに増やすのか。夫婦で子育てのしやすい雇用ルールや労働慣行をいかに実現するかもカギとなる。
そしてもう一つは、給付の裏付けとなる財源の問題だ。政府は少子化対策の財源を社会保障費の歳出改革や、新たな支援金制度で確保するとしているが、具体的な内容は今後検討を進めるとしている。そこで財源確保をめぐる政府の対応についてどう考えるか聞いたところ、「速やかに全体像を示すべきだ」は44%、「時間をかけて検討すべきだ」は48%と意見が分かれた。岸田首相は「国民に実質的な追加負担を求めることはない」としている。ただ増税も社会保険料の上乗せも避けるとなると、医療や介護などの歳出の見直しや削減で兆円単位の財源を本当にねん出できるのか。安定した財源を確保し、持続可能な制度設計になっているのかという疑問や懸念に丁寧に答えるべきだ。
【国会最終盤 衆院解散・総選挙の行方】
財源の詳細を今の段階で示さなかったことは、政策論とは別に、今後の政局、具体的には岸田首相の衆議院の解散戦略の一環ではないかという見方もある。
というのも少子化対策の財源の詳細、防衛増税の時期に結論を出すのはともに、ことし年末だ。こうした国民負担につながる議論が選挙に与える影響を懸念する声は与党にある。こうしたことから年末前、具体的には最も早いケースで21日に会期末を迎える今国会、またはことし秋にも岸田首相が解散に踏み切るのではとの憶測を呼んでいる。
さらに自民党の支持率が突出する状況に変わりはないのに対し、野党側は低迷し、2カ月連続で維新が立民を上回るなど対抗意識が激しい状況にある点。改正入管法が成立し、ほかの重要法案も今国会の成立を政府与党が急いでいること、株価が「バブル期」後の最高値を更新したこともこうした見方を後押ししている。
国民はどう考えているのだろうか。衆議院の解散・総選挙をいつ行うべきだと思うか聞いたところ、「すみやかに」は11%、「年内」は19%、「来年」は19%、「再来年10月の任期満了までに行えばよい」は40%だった。このうち「すみやかに」「年内」は、与党支持層、無党派層でともに3割弱、野党支持層では4割余りにとどまった。全体の6割近くが「来年」、もしくは「再来年」と答えたのは、任期がまだ2年以上残した今は暮らしや景気など課題の解決に取り組むことを優先するよう求めているためと受け取れる。そのことは日本経済が新型コロナの感染拡大前に比べ「回復している」という人が47%、「回復していない」が46%と景気の実感が分かれていることからもうかがえる。
岸田首相は今後どう判断するのか。
早期の選挙に備え、自民党が候補者調整の最終段階を迎えつつある一方で、現職が少ない野党は空白の選挙区が多く、候補の擁立や発掘が遅れている。その一方で自民・公明両党は東京での選挙協力を解消したことで軋みも生じ、ここ最近、自民党が苦戦する地方選挙もあった。与党支持層からも年内解散を求める声が多くはない中で、岸田首相がどう判断するのか。立憲民主党が「国会最終盤を見極め判断する」としている内閣不信任決議案について、自民党内では、「提出されれば解散の大義になる」との指摘が出る一方で、「今は解散する状況にはない」といった否定的な声もある。国会は緊迫しているが、政府・与野党とも浮足立つことなく、最後まで腰を落ち着け課題解決に向けた議論を深めてもらいたい。
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