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マグネットセットと水で膨らむボールのおもちゃ 子どもの飲み込み事故相次ぎ製造・販売規制へ!その危険性を解説します

水野 倫之  解説委員

強い磁力を持つマグネットセットと水で膨らむボールのおもちゃを、子どもがあやまって飲み込む事故が相次いでいることから、基準に適合しない製品の製造や販売が規制されることに。その危険性について、水野倫之解説委員が解説。

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今回の2種類のおもちゃ、気づかぬ間にこどもの命やからだに危害を及ぼすおそれが高いと判断された。

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まずは強力な磁石が大量に集まったおもちゃ・マグネットセット。
直径3ミリから5ミリ程度の磁石が数百個から、1000個が1セットとして販売されている。
いろんな形を作って遊ぶことができる。
この磁石、理科の実験で使う一般的な磁石とは違って、モーターなどに利用されるきわめて強力なネオジム磁石が使われ、磁力は通常の10倍。
この強い磁力によってさまざまな形状をつくることができる。
おもにネットモールで販売される。

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もう一つ、水で膨らむボールは一つ一つは数㎜から10数㎜と小さいが、樹脂製で水を吸う性質があり、水の中に入れると数倍から数10倍に膨らむ。
カラフルで、見て楽しむおもちゃ。100円ショップなどで販売される。

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この2種類のおもちゃ、共通した危険性あり。
▽まずは一つ一つが小さく、子どもが簡単に飲み込めてしまうこと。
▽そして一旦飲み込んでしまうと、体の外に排出されにくい点。

具体的にどんな事故が起きたのか。

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まずマグネットセット。2017年から去年1月までの間に、11件の事故が報告。
いずれも乳幼児や子どもが飲み込んだ事故だが、1セット数百個あるため、何個かなくなってもわからず、子どもが飲み込んだと気づくのに時間がかかるケースが多い。
実際2018年に1歳9か月の女の子がおもちゃのマグネットセットの1個3ミリの磁石を飲み込んだ事故では、女の子が嘔吐したためまずは近くの医者に診てもらい、急性胃腸炎との診断。しかしその後も嘔吐が続いたため別の病院でX線検査を受けてはじめて小腸の中に異物が入っていることが判明。腸閉そくの診断を受けてさらに別の病院で外科手術で小腸を切開して磁石を取り出したところ、37個入っていた。
もっと多いケースもあり、11か月の男の子の小腸などから、あわせて58個の磁石が摘出された事故もあった。
11件とも死亡には至ってはいないものの、気付きにくいのに加えて、ほとんどのケースで麻酔をして開腹手術や内視鏡による大掛かりな医療処置が必要で、子どものからだへの負担もかなり大きいものがある。
それにしても磁石なのに、なぜ子どもが飲みこんでしまうのか。
それは子ども、特に乳幼児は、何でも口に入れてそれが何なのか確認しようとするから。
およそ3㎝以下のものであれば飲み込む危険性があると指摘されている。

またなぜ体外に排出されにくく、手術が必要になるのか。
それは磁石同士が強力な磁力で体内でくっついて動かなくなってしまうから。
製品評価機構がこどもの腸に見立てたホースを使って事故の再現実験もしているが、それを見ると、一つのホースに飲み込んだ磁石が入ってきて、時間がたち、さらに飲み込んだ磁石が入ってくると、ホースを挟んで強力な磁力で互いに引き合い、動かなくなる。そこに腸の内容物に見立てた水を流し込んでも磁石どうしがくっついていて流れていかない。
つまり体外に排出されにくいことがわかる。
腸の壁が圧迫されて血流が悪くなり壊死して穴が開くおそれもあり、手術ではやく取り除く必要があるわけ。

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もう一つの水で膨らむボールでは2020年から21年にかけて5件の事故が報告。
いずれも5歳以下の乳幼児が飲み込んだ事故で、マグネットセットと同様、最初に嘔吐などの症状があって異常に気付き、開腹手術などで処置が行われた。
こちらも、水につけると24時間で直径が4倍まで膨らむボールを使って腸に見立てたホースに入れた再現実験が行われているが、水が入ったホースに小さいボールを入れると、徐々に膨らんでいき、ホースをふさいで、腸の内容物にみたてた水が通らなくなり腸閉そくの危険が高いことがわかる。

事故が相次いだため、例えばマグネットセットについては経産省や国民生活センターから販売業者、ネットモールの運営者に対し、子どもの手に渡りにくいよう対象を14歳以上にするよう要請し、その後製品にその旨明記されるようになっている。
しかしその後も事故が続いた。
経産省では大人が自分用に購入し、目を離したすきに子どもが飲み込んでしまう事故もあったとして、事故を防ぐには基準を満たしていない製品の製造・販売を禁止するしかないと、今回判断したわけ。

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具体的には消費者の命や体に危険を及ぼすおそれが多い製品は、法律で「特定製品」に指定され、基準外の製品の製造や販売が禁止される。
これまでに家庭用の圧力なべや登山用のロープ、石油ふろがまなど10品目が指定されていて、これに今回2つの製品が追加された。
その上でマグネットセットの場合、一粒の直径がおよそ3センチ以下のものや普通の磁石以上の磁力があるものなど。
また膨らむボールも、膨らむ前の大きさがおよそ3センチ以下のものや膨張率が50%を超えるものについて、6月19日以降製造が禁止され、すでに製造・輸入されているものも12月19日以降販売できなくなる。

基準を満たしていれば製造販売できるが、基準以内だと磁力も弱いし、あまり膨らまないので、経産省ではおもちゃとして出回ることは事実上なくなるのではないかと話している。

ただこうした規制があっても、子どもがいる保護者の方が注意すべき点がある。

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それはすでに購入済みで自宅にある場合で、
▽子どもが手に取ることが絶対ないような場所にしまって管理するか、
▽この際廃棄することも検討してほしい。
子どもはおとなの予想を超える行動をとる。
子どもの安全を第一に考えた対応をお願いしたい。

 


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