文部科学省は6年ぶりに教員の勤務実態調査を実施しました。
長時間勤務が指摘されている先生の働き方。改善はされたのでしょうか。
木村祥子解説委員です。
【どこまで進んだ 働き方改革】
文部科学省は公立の小・中学校の教員およそ3万5000人を対象に勤務実態調査を行いました。
1日あたりの平均は
▼平日で
▽中学校では11時間1分、
▽小学校では10時間45分と
前回に比べて小学校・中学校、ともに30分程度減りました。
ただ、国が残業の上限として示している月45時間を超えるとみられる教員は中学校で77.1%、小学校で64.5%に上っており、依然として長時間勤務の教職員が多いことがわかりました。
ただ、そんな中、独自の取り組みで働き方改革に成果を上げている自治体があります。
【大阪・枚方市の働き方改革】
大阪の枚方市です。
4年前から改革に取り組み、昨年度、月45時間を超えるとみられる教員は、4年前と比べて小中学校ともに15ポイント以上、減り、全国の結果と比べても大幅に少なくなっています。
どんな取り組みが行われているのか見てみます。
取材に伺ったのは枚方市立伊加賀小学校です。
この学校では30人の教員が働いています。
勤務時間は午前8時半からですが、午前8時に、6年生の担任、光野央浩さんが出勤してきました。
働き方改革前、光野先生は7時半には出勤していたといいます。
出勤時間を30分、遅くできた理由を聞いてみると、可能にしたのはICT=情報通信技術の活用だそうです。学校では朝に行っていた職員朝礼を廃止し、連絡事項はタブレットで共有しました。
保護者との連絡もタブレットで確認し、以前の手書きの連絡帳より時間が取られなくなったといいます。
光野先生は「連絡帳を書くというルーティーンがなく、学校に来たら授業の準備をして、子どもたちと勉強をすぐに始められるのはよい」と話していました。
さらに学校では業務を見直し、保護者と調整して、子どもたちの登校時間も20分、遅らせました。
改革前後の朝のスケジュールを比べると、1時間目が始まる午前8時45分までに30分の業務時間を削減することができたということです。
さらに授業にもタブレットを活用しています。
プリントの印刷や配布、回収にかかる時間が削減され、わずかな時間ですが、年間で20時間以上になるといいます。
一方、この学校では宿題に出す漢字の書き取りなど、必要な手書きのやりとり、添削などは大事に残しています。
こうした改革は教育委員会からのトップダウンではなく、先生たち自身が推進しています。
学年が違う先生が集まって「教育の質を落とさない」ことをモットーに、慣例や削減できる業務はないかなど、徹底的に洗い出しています。
校長の髙嶋珠希さんは「子どもたちの話を聞くとか、関わりを持つとか、保護者と話をすることはしっかりと時間を取らないといけないところだと思っています。取捨選択がやっぱり重要かなと思います」と話していました。
この学校ではこれまで定例的に行っていた会議など20以上の業務を見直しました。
子どもたちからも先生と一緒に遊べるようになったなど好評だということです。
枚方市ではこの働き方改革に毎年10の学校が参加しています。
立候補制で学校を募集し、認められると「スクール・サポート・スタッフ」が配置されます。
スクール・サポート・スタッフとは教材のコピーや来客対応などを行います。
先生たちの業務軽減にもなり、取り組みを進める時間の確保にもつながっているということです。
また2か月に一度、参加している学校がリモートや対面で集まって、学校同士が成功事例を共有し、刺激しあっています。
枚方市の取り組みについて研究をしてきた愛知教育大学の片山悠樹准教授は「現場が構想から実践に結び付けたことが勤務時間の削減につながったと考える。ただ現場でできることは限界に来ているので、今後は国が予算の確保など、法律や仕組みを整えることが大事だ」と話しています。
【教員の処遇改善にむけて】
一方、長時間労働の是正に向けた国の議論も始まっています。
注目されているのが教員の残業代のあり方です。
公立学校の教員の給与は1971年に制定された「給特法」という法律によって、基本給の4%を「教職調整額」として一律に支給する代わりに残業代が支払われないことになっています。
法律が制定された当時の残業時間が月に8時間ほどだったことから決められ、半世紀たった今も踏襲されています。
文部科学省の有識者会議では法律が制定された当時の想定を大きく超える残業の実態があることから、4%という率を含めた「教職調整額」の検討を進めることや、学級担任など、仕事の内容に応じた新たな手当の創設なども提示しました。
業務のさらなる効率化や削減は不可欠ですし、中学校の土日の部活動をスポーツ団体や民間事業者などに委ねる「地域移行」を円滑に進めていくことも必要です。
文部科学省は地域や保護者の理解と協力を得ながら「働き方改革」と「処遇改善」をセットにして議論を進めることにしています。
【魅力ある職場を目指して】
一方、現場レベルでは「魅力ある職場づくり」を目指す動きも出てきています。
山形県教育委員会の取り組みをご紹介します。
この4月から小学校の新卒の教員が担任を務める場合、定年退職した元教員やベテランを雇用し、サポート教員として配置しています。
週に5時間から8時間はサポート教員が授業を持ち、新卒教員は空いた時間で授業の準備や保護者への対応をしやすくするという仕組みです。
なぜ、このような取り組みを始めたかというと、
山形県の教員採用試験の倍率は低迷し、昨年度、2022年度の小学校の倍率は1点5倍で、過去最低となっている全国の水準よりもさらに低くなっています。
またこれまでは新卒5年目以内の若手が退職や休職する例が少なくなかったということです。
山形県教育委員会では「新卒者の心と体の負担を和らげつつ、着実に育てていきたい」と話しています。
「教員」のなり手がいなくなってしまったり、先生たちが疲弊してしまったりしていては、教育に悪影響を及ぼしかねず、最終的にはそのしわ寄せは子どもたちに及ぶと考えます。
先生たちの労働環境を改善することは、子どもの学びを守ることにもつながります。
教育の現場がいきいきと輝くように、社会全体で考えていく必要があると思います。
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