岸田内閣の5月支持率は46%と4カ月連続上昇した。その背景を分析しG7広島サミットとその後の衆院解散・総選挙のタイミングを展望する。
【内閣支持率】
岸田内閣を「支持する」と答えた人は5月、4ポイント増えて46%。一方「支持しない」は4ポイント減って31%だった。ことし1月に過去最低の支持率を記録してから半年足らずで13ポイント上昇した。また「支持」と「不支持」の差は15ポイントに開いた。これまで比較的高齢者の支持が厚かった岸田内閣だが、5月は若い世代でも「支持」を高めた。
その要因として考えられるのは、発生から3年余り続いた新型コロナウイルスの対策に政府がひと区切りをつけたこと。またG7広島サミットを控え首脳外交を活発に行い、韓国のユン・ソンニョル大統領との会談を重ねている点も好感されたとみられる。
そのことは3月から個人の判断に委ねられたマスクを「以前と同じくらい着けている」という人が55%と4月より8ポイント減った一方で、「外すことが増えた」は33%と逆に9ポイント増え、「常に外している」は8%となった点。また戦後最悪とされた日韓関係が今後「改善に向かうと思う」という人が53%に上ったことからもうかがえる。
ただ岸田内閣の支持率の回復が続くかどうか、先行きは必ずしも見通せていない。というのも新型コロナの感染症法上の位置づけが5月8日から、季節性インフルエンザなどと同じ「5類」に移行したが、感染が再び拡大する不安を「感じる」という人は「大いに」「ある程度」あわせて6割余り(63%)に上ったこと。また感染拡大前の水準に比べて、日本経済が「回復している」と思う人は「ほぼ」「ある程度」あわせて49%、「回復していない」は「あまり」「まったく」あわせて44%と景気の実感は大きく分かれていることからも見て取れる。
さらに「支持する理由」として「他の内閣より良さそうだから」は45%と5割近くを占めるなど依然として消極的な支持も続いているだけに、直面する課題で結果を示していけるかが、岸田内閣の行方を左右することになる。
【G7広島サミット】
G7広島サミットの開幕が今週19日に迫っている。国内開催は7年前の伊勢志摩サミット以来で今回はウクライナ情勢が主要な議題となる。ただロシアの侵攻を止めさせるための実効性ある議論が「期待できる」と考える人は「大いに」「ある程度」あわせて28%にすぎず、「期待できない」は「あまり」「まったく」あわせて65%に上った。また岸田総理がライフワークとする「核兵器のない世界」の実現に向けた国際的な機運が、サミットでの議論を通じて高まることを「期待できる」は「大いに」「ある程度」あわせて同じく28%にとどまり、「期待できない」は「あまり」「まったく」あわせて65%に達する。ロシアによるウクライナ侵攻は終わるどころか、両国の戦いはますます激しさを増し、とても楽観できる状況でないというのが大方の受け止めではないか。またG7各国のうち米英仏の3か国が核兵器を保有し、日本もアメリカの「核の傘」の下にいる現実の中で、どこまで説得力ある議論ができるか疑問視する見方もあり、首脳宣言などの取りまとめにあたって岸田首相の手腕が問われている。
また今回のサミットでは新たに、「チャットGPT」に代表される文章や画像を自動的に作り出す「生成AI」についても議論される見通しだ。日本でも関心が急速に高まっているが、今回の世論調査で国や自治体が「積極的に利用すべきだ」という人は9%の一方で、「慎重に利用すべきだ」は67%に上り、「利用するべきではない」もいう人も14%いる。
業務の効率化に期待の声がある一方で、プライバシーや著作権の侵害などへの懸念をどう考えればよいのか。各国でも利用や規制のあり方に温度差もある中で、議論をどのように主導するのかも課題となっている。
【少子化対策の財源】
G7広島サミットへの対応以外にも、少子化対策を何で賄うのか。6月にはその財源に一定の結論を出す必要に岸田首相は迫られている。今回の調査で「ほかの予算を削る」ことで対応するよう求める声が4月同様、5割を超え(53%)ている。一方で「社会保険料負担の見直し」19%、「増税」9%、「国債の発行」8%となっており、国民の理解と納得をいかに得ていくかが重要になってくる。
【衆議院解散・総選挙】
日本の政治の今後について展望する。サミット後の最大の焦点は、衆議院の解散のタイミングを岸田首相が、どう判断するかに移る。今回、衆議院の解散・総選挙をいつ行うべきか聞いたところ、「G7広島サミットの後すぐ」は8%、「夏以降の年内」は18%、「来年」は19%、「再来年10月の任期満了までに行えばよい」は41%だった。「来年」、また「再来年の任期満了までに行えばよい」という回答があわせて6割と、年内選挙を求める声を上回ったのは、任期がまだ2年以上ある今は腰を落ち着けて、物価高や少子化などへの取り組みを優先するよう求める意見と受け取れる。
5月の政党支持率は自民党の支持率が36.5%と堅調なのに対し、野党側は日本維新の会が6.7%と立憲民主党の4.2%を上回った。
自民党内では内閣支持が回復している今こそ、6月21日までの通常国会の会期中も含めた早期の解散に踏み切るべきだという意見がある一方で、先の衆参の補欠選挙では僅差の争いもあっただけに慎重論もある。
岸田首相は「重要な政策課題が山積する中で、結果を出すことに全力を尽くしており、今は考えていない」(4日)としているが、自民党内からは内閣不信任決議案が野党側から提出されれば解散の引き金になるとか、国民に信を問うべきと判断すれば躊躇しないといった見方も出ている。これに対し立憲民主党は党勢が上向かない現状に危機感を強め、去年秋から続いた日本維新の会との国会での連携を近く解消する方針だ。また次の衆院選で、より勝ち目のある候補者に選挙区を調整する「すみわけ」は両党とも行わない方針だ。すでに与野党の激しい駆引きが本格化していて、サミット後の終盤国会は、緊張感がこれまでになく増す展開ともなりそうだ。
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