地域の特産品などを商標として登録する「地域団体商標」。740件を超え、新たな地域ブランドが次々登録されています。
商標を使った地域おこしとはどのようなものか。取り組みと課題を解説します。
【地域団体商標って何?】
地域団体商標の制度は2006年に作られました。商品などの名前を「商標」として特許庁に登録するもので、特に地域ブランドを保護しようというものです。登録すると民事上や刑事上の対抗措置が可能になります。
▽青森県の「大間まぐろ」▽滋賀県の「近江牛」といった魚や肉。
▽徳島県の「なると金時」▽沖縄県の「沖縄シークヮーサー」など農作物。
食べ物のほかにも、▽福岡県の「博多人形」、▽石川県の「輪島塗」、などもあります(いずれも登録の一例です)。
【登録のポイントは】
注意点は4つあります。
▽地域に根差した団体が出願していること。例えば地元の農協や漁協、商工会などです。
▽団体の構成員が使えること。つまり農協なら組合員が使うことです。
▽地域名と商品・サービスの組み合わせ。先ほどの事例だと「沖縄」と「シークヮーサー」、「大間」と「まぐろ」、などです。
最後に▽少なくとも一定の地理的範囲である程度有名なことです。
Q:ある程度有名とは、どの程度でしょう。
A:全国的でなくても地元では知られていたというケースです。例えば大分県の「中津からあげ」、福島県の「なみえ焼きそば」など。いわゆる「ご当地グルメ」と呼ばれる食べ物は、多くが長く地域で親しまれてきました。このため最近は、こうした「ご当地グルメ」を登録する事例も増えています。
Q:商標登録するメリットはどこにあるのでしょうか。
A:1つは「ニセモノの防止」。もう一つは、「新たなブランド化」です。地域の商品やサービスを守り、同時に名産にしていくということです。
どんなふうにブランド化を目指すのか。今回、私は千葉県勝浦市を訪ねました。取材したのは「勝浦タンタンメン」です。
【勝浦タンタンメンで地域おこし】
千葉県勝浦市です。太平洋に面した漁業の町として知られています。
街を歩いていると目につくのが、「勝浦タンタンメン」の看板。こちらも地域団体商標です。市内のおよそ40の店で食べることができます。
具材はひき肉と玉ねぎなど。ゴマのペーストではなく、しょうゆベースのスープにラー油が多く使われています。私が食べたお店は、見た目ほど辛くありません。おいしかったです。
勝浦市の観光協会を訪ねました。こちらには関連商品がたくさんありました。
カップ麺やお菓子など、20種類近くあるそうです。
商標を取得した「ONE勝浦企業組合」専務理事の滝口裕都さん。ブランド化を進めた1人です。
【勝浦タンタンメンの戦略は】
Q:勝浦タンタンメン、おいしそうでしたね。でも、どうやってブランド化していったのでしょうか。
A:もともと漁業者の方々が、寒い海の仕事の後に体を温めようとよく食べていたもので、地元では知られていたそうです。
滝口さんたちは、これを地域団体商標として9年前に登録しました。
商標を持つ企業組合は、市内のお店などが食材など一定の条件を満たして承認を経れば、勝浦タンタンメンと名乗ることを無料で許可しました。
Q:お金をとらないのですか?
A:ただし勝浦市以外のお店は、一部を除き基本的には許可していません。これが最大の特徴です。現在は市内のおよそ40の店がそれぞれ特徴を出した商品を提供しています。
つまりお店で食べたければ、基本的には勝浦へ来てほしい。勝浦へ来れば、あちこちで食べ比べもできる。こういう戦略をとったんです。
Q:勝浦タンタンメンを食べるために、たくさんの人に来てもらおうという狙いですね。でも地元の店が無料で商標を使えるとなると、商標を持つ企業組合の活動費用はどうしているのでしょうか。
A:飲食店からは取らずに、さきほどみた関連グッズのライセンス料でまかなっているのだそうです。
ONE勝浦企業組合の専務理事、滝口裕都さんは「商標登録すればすぐにブランド化が実現するわけではない。勝浦タンタンメンは、地域おこしという気持ちで味を大事にして、地元の人たちと一緒に長く育ててきました」と話していました。
【いろんな分野で商標登録も】
Q:地道な取り組みで、地域おこしにつながっているわけですね。
A:最近はこの商標登録、いろんな事例に広がっています。例えば、東京の「戸越銀座商店街」、岐阜県の「飛騨高山宮川朝市」のように、商店街や朝市でも登録が認められています。
さらに地域団体商標ではないのですが、一昨年「野球拳おどり」で松山市などによる商標登録が認められました。
野球拳おどりは、実は松山市が発祥で歴史があります。夏にはお祭りで踊りを披露してきました。実行委員会は商標登録を機に、「松山まつり」という名前を「松山野球拳おどり」に変更する力の入れようです。
商標に詳しい弁護士によれば、踊りの名称が商標登録されるのは異例だということです。
こうした事例、いずれもブランド力を高めて、地域おこしにつなげたいという狙いがあるわけです。
【これからの課題は】
Q:今後の課題は何でしょうか。
A:中国など海外での出願がたびたび問題になっています。
最近では、香川県のブランド牛「讃岐牛」が中国で商標登録出願されていたことが分かりました。香川県などが中国の当局に対して異議申し立てをして、去年2月までに登録が退けられました。
ブランドが知られてくると、海外でいわば「ただ乗り」しようとする事例も後を絶ちません。これでは海外進出しようとする際に支障が出ます。
Q:どうしたらいいのですか。
A:ほかの国でも予防的に商標登録する方法があります。ただ、海外にも目を光らせるしかないという、地域にとっては頭の痛い問題です。
Q:ほかにはどのような課題があるでしょうか。
A:地域団体商標もすでに740を超えていますが、まだまだこれから増えそうです。
例えば、みかんなどの「かんきつ類」だけでもすでに15も登録されています。これだけ増えると、地域団体商標の中でさらにどれだけ独自性を打ち出していくことができるかが、問われると思います。
【地域おこしのスタートライン】
地域団体商標は、地域経済の活性化を目的に設けられましたが、登録はあくまでスタートラインです。
生産者、地域、そして自治体など行政が一緒になって盛り上げていくということが必要になりますし、それは実は地域おこしの基本と何も変わらないのだと感じました。
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