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先生が足りない!子どもの学びの場 どう守る

西銘 むつみ  解説委員

新学期を迎え、お子さんたちは新しいクラスでの学校生活に慣れてきたころでしょうか。
学校現場ではいま、全国的に教員不足が課題になっています。なぜ不足し、どうすれば解消できるのか考えます。沖縄放送局の西銘むつみ解説委員です。

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【全国的に足りない学校の先生】
Q:保護者の立場としても気になりますが、沖縄では学校の先生、どのくらい足りていないのでしょうか。

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A:沖縄県では令和5年度の春、公立の小・中学校、高校、特別支援学校で、あわせて23人の教員が足りない中、新学期がスタートしました。多いときではおよそ100人の不足があり、全国的にも公立の学校で2000人以上、足りていないことがわかっています。国は2年後の令和7年度までに小学校の全学年で、いまより5人少ない1クラス35人の少人数学級を目指しています。しかし、少人数にすれば学級数が増え、さらに多くの教員が必要になります。いまですら足りていない状況から考えると、そう簡単ではないという指摘もあります。

Q:1クラス当たりの人数が少なくなれば、先生が子どもたちにじっくりと向き合えて、学ぶ環境がよりよくなることが期待できそうですよね。

A:そうした理念のもとに沖縄県では、国に先駆けて少人数学級を実現しています。しかし、いま、その理念を揺るがしかねない事態になっています。
沖縄の1クラスあたりの人数は、小学1、2年生で30人、6年生までは35人、中学校が35人です。国の基準より5人少ない少人数学級を20年前に導入しました。
この少人数学級を支えている先生たちの中には、非正規の教員がいます。大学で教員免許を取得したものの各自治体が実施する採用試験に受かっていなかったり、採用試験に受かった自治体とは異なる場所で勤務したりする場合、非正規となります。非正規の教員を含めて何とか少人数学級を維持した沖縄の学校を見ていきます。

沖縄県宜野湾市の宜野湾小学校です。新学期の初日、新たに20人の教員が着任しました。この中に、前年度、北海道で退職を迎えたあと、沖縄での勤務を希望して採用された非正規の先生がいました。その先生が任されたのは2年生の学級担任です。この学校では年度末ぎりぎりまで教員が足りず、新年度に向けた学級編成を複数のパターンで準備していました。2年生の場合、当初、4学級編成で、1クラスあたり30人を超えることも想定していました。

Q:沖縄県独自の基準、30人を超えてしまう想定ですね。

A:結果的にこの学校には、非正規の6人が配置され、2年生は5学級編成になりました。1クラスあたり25人前後の少人数学級が維持できたんです。
甲斐達二校長は「教員の配置ができるかどうか、年度末ぎりぎりまでわからないのがジレンマです。4月最初に担任がいないということは絶対に避けないといけません。そのことが優先です」。

教員不足の解消に向けて沖縄県教育委員会は、教員免許は持っているものの教員として働いていない、いわゆる“潜在教諭”の活用に乗り出しました。20代の頃、中学校で体育の教師をし、20年ぶりに学校現場に戻った40代の女性もいました。沖縄では令和5年度の新学期、こうした“潜在教諭”60人が、新たに非正規の教員として教壇に立っています。

【本採用を増やす取り組み】
Q:教員が足りない中、“潜在教諭”から非正規の先生になる人の存在、大きいですね。

A:ただ、学校現場からは非正規の教員に頼り過ぎているという声も上がっています。

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教員全体に占める正規採用の割合は、全国がおよそ93%に対して、沖縄は81%あまり。つまり全体の2割弱を非正規が占めているんです。県教育委員会は非正規から正規の教員になることを促すため、ことしの採用試験から、受験の条件を緩和する予定です。これまで公立学校で5年以上の勤務経験があれば一次試験を一部免除してきましたが、勤務年数を3年以上に短縮します。こうした受験の際の条件緩和は全国的にも広がっています。

【そもそもなぜ教員不足?】
Q:全国的に、そこまでしないと教員が確保できなくなっているのは、そもそも、どうしてなのでしょうか。

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A:いくつか理由があります。学校現場では▼かつて大量採用の時期に教職についたベテランが定年を迎え、ここ数年、大量に退職しています。▼退職者に代わる新規採用も増やしてはいるのですが、そうした教員が産休、育休をとる時期にさしかかっています。▼また、病気による休職者も増えていて、このうち、精神疾患が理由の休職者は過去最多です。▼一方で、特別支援学級が増えています。より多くの教員が必要になっているんです。

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さらに、教員を志望する人が減っています。公立学校の教員採用試験の受験者は12万6000人あまり、前の年度より7800人ほど減っています。採用の倍率は3.7倍と過去最低です。
また、大学の教員養成課程で学んだ学生のうち教員になる人は、かつては8割近くいましたが、現在は6割にとどまっています。沖縄の琉球大学など5割を切っている大学もあります。授業だけでなく、部活動や保護者への対応など学校現場が多忙化する中、「大変な職業だ」というイメージが先行しているといわれています。

【“働き方改革を”】
Q:先生のなり手が減っている上、コロナ禍でさらに業務が増え、先生たち大変ですよね。

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A:琉球大学グローバル教育支援機構の西本裕輝教授は「働き方改革をスピーディーに進め、業務を減らすことが重要だ」と指摘しています。「そうすることで現役の教員の精神疾患による休職を防ぐことができ、さらには、学生など若い世代が、この職業に魅力を感じ目指すことにもつながっていくのではないか」と話しています。

【各地の対策】
Q:改革は進んでいるのでしょうか。

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A:採用試験では、地元出身者を優先的に採用する、いわゆる「地元枠」の設置や、教員免許を持たない人を対象にした「特別選考」を行って、教員になったあとに免許取得を後押しする自治体もあります。受験資格を大学3年生からにしたところもあります。
授業以外での負担を減らす取り組みとして、土日に教員がエサやりをしている飼育小屋を廃止した学校もあります。
業務の軽減に向けては、「文書半減プロジェクト」という長崎県の取り組みがあります。国や県から学校現場に出される調査やアンケートなどを、いったん教育委員会が精査して、代わりに回答できるものは学校におろさないというものです。テストを機械で自動採点しようという自治体もあります。早いうちから教員の魅力を知ってもらおうと、静岡県では中高校生を対象にしたセミナーを開催しています。

【国の対策は】
Q:さまざまな対策が全国の自治体で行われていますが、国は教員不足をどう受け止めているのでしょうか。

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A:文部科学省の有識者会議は、教員の給与について定めた法律「給特法」の見直しなどについて議論を始める方針です。「給特法」というのは、公立学校の教員に月給の4%を上乗せする代わりに、残業代を支給しないというものですが、業務の負担に十分見合っていないという指摘があります。待遇を改善して人材を確保することで、質の高い教育を維持することが目的です。
国、自治体、学校現場はいま、さまざまな対策を模索しています。
教員の不足を解消し、働く環境を整えることは、子どもたちの学びの場を守るということです。待ったなしの改革が必要だと思います。


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