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注意!ネットの定期購入 規制強化なのにトラブル急増

今井 純子  解説委員

ネットでの定期購入について、去年、規制が強化されたのに、トラブルが急増しています。今井解説委員。

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【定期購入というのは、1回注文をしたら、そのあとは、定期的に商品が届くサービスのことですね?】
はい。いつも使うコンタクトレンズとか、お米とか、毎回頼むのが面倒なので、便利な面はありますよね。こうした中、今、問題になっているのは、ネット上で、例えば、通常5000円の化粧品について、「お試し500円」という広告が表示された。1回だけのつもりで申し込んだところ、実際には、最低5回、買わなくてはいけない定期購入だった、といった事例です。トラブルが相次いだことから、去年6月に、法律が改正されて、規制が強化されたのです。

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【どのように強化されたのですか?】
事業者に対して、申し込みの最終確認画面に
▼ 定期購入であることや、支払総額、解約の方法や条件といったことを、消費者に誤解を与えない形で表示するよう義務付け、
▼ 誤解をさせるような表示で消費者が申し込みをした場合、契約を取り消せることになりました。

【規制が強化されたのに、そのあとも、トラブルが増えているのですか?】
はい。全国の消費生活センターに寄せられた、ネットなどの定期購入に関する相談件数の推移をみてみます。去年、規制が強化された後、いったん相談が減りました。それが、年末から、急増して、今年2月は、1万3000件を超え、1年前の2.7倍に増えています。40代以上の女性からの相談が目立って多いということです。

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【なぜ、こんなにトラブルが増えているのですか?】
手口が巧妙化して、悪質事業者の間で、これなら規制をすり抜けられると、その手口が広がっているからではないか、とみられています。

【どのような手口なのですか?】
増えていているのは、「特別割引クーポン」を使ったら、知らないうちに契約内容が変わっていた。それから、「いつでも解約可能」とあるのに解約できない。というトラブルだということです。まず、特別割引クーポン。
▼ 例えば、美容液の広告で、通常8000円が、初回に限り1000円になっている。定期購入ですが、「1回だけのお試しOK」「いつでも解約可能」とあるので、1回だけで解約しようと、申し込みをした。最終確認画面でも、「回数の縛りなし」「いつでも解約可能」と表示されていたので、「注文を確定する」をクリックしたら、その直後に、「さらに30%値引き」という特別割引クーポンの表示がでてきました。そこで、「クーポンを利用する」という表示をクリックして注文を終えました。

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そして、1回目の商品が届いた後、解約をしようと事業者に連絡をしたところ、「特別割引クーポンを使った場合、最低5回は買わなければならないコースに変更になっているので、解約できない」として、5回分の料金を払うよう言われたというのです。

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【そんなこと、どこにも書いてないですよね?】
それが、実際には、クーポンを使った後の、最終確認画面で、初回の金額の下にある枠の中の部分が、スクロールできるようになっていた。そして下の方に、クーポンを使うと最低5回受け取るコースに変更になることや、支払総額が2万3100円になることが、書かれていたというのです。

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【これは見落としそうですね】
そして、もうひとつの例。こちらも「1回だけのお試しOK」「いつでも解約可能」とあって、申し込みをすると、チャット画面に導かれて、指示に従って名前や住所を書いて、注文を確定しました。

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ところが、商品が届いて、数日後に解約しようとしたら、解約できる期限を過ぎているといわれたというのです。
実は、チャットになった後、画面が自動的に動いて、飛ばされた部分があって、そこに、スクロールして戻ってみてみると、「初回発送の10日後に、2回目を発送します。解約するなら期限は、その5日前までです」といった条件が書かれていた。というのです。気付きにくい上に、解約できる期間を短くして、解約しづらくしているようにも見えますよね。

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【時間をかけて、画面をじっくり見ないと、気がつかないですね】
本当によく見ないとわかりません。ただ、中には「特別価格キャンペーン終了まで、あと8分」「このページを閉じると、2度と開くことができません」と、じっくり見させない、そして、じっくり考えさせないよう、注文を急がせる広告も少なくないと言います。

【でも、誤解させるような表示の場合、取り消しができるということでしたよね】
そうです。消費生活センターなど相談の現場からは、こうした手口は違法で、取り消しができるはずだ、という指摘がでています。ただ、事業者は、支払う金額や、解約の条件などは最終確認画面に表示してある、と言ってなかなか応じてくれない。消費者庁の行政処分がでていないので、違法性を強く主張することができない、という声もあがっています。
消費者庁も、きちんと監視はしているとしていますが、ここでも、もうひとつ大きな問題が指摘されています。証拠の画面がない、ということです。

【証拠の画面がない。どういうことですか?】
こうした事業者は、スマホのSNS上で、利用者の年齢や検索履歴などの情報を参考に、例えば、しみが気になりやすい年齢で、美容に関連のある商品を検索している人をターゲットに、しみが消えるという美容液の広告を発信します。でも、広告はすぐに更新できますので、いったん、消費者が注文を終えて、画面を消してしまうと、後から検索しても、消費者が実際に見た広告や申し込み画面を見るのが難しい。あるいは、検索できる広告には、きちんと、定期購入だということや、解約の条件などが書かれていたりしている。

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ということで、消費者が、実際に見た広告や申し込み画面が、誤解をさせるような表示だった、という証拠がない。だから、事業者に開き直られると取り消しができないし、なかなか処分にもつながらないのではないか、というのです。

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【なんとかならないのでしょうか】
日弁連や消費者団体からは、事業者に対して
▼ 最終の確認画面で、初回で支払う金額と、2回目以降の金額を、分けて表示するのを禁止する。つまり、この契約でいくら払わなければいけないのか、一目でわかる表示を義務付けること。
▼ そのうえで、契約した時の広告画面と、消費者から受け付けた申し込み画面を保存して、行政や消費者から求められたら開示するよう義務付けること。
このように、さらに規制の強化を求める声が上がっています。

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【規制の強化は検討してほしいと思います。一方、私たち自身も身を守ることが大事ですね。どんな点に気を付けたらいいでしょうか】
トラブルは、美容・化粧品と健康に関する商品、そして、SNSの広告で多く起きているということで、
▼ 特に、「これだけで効果がでる」「今だけ」「あなただけ」と強調したり、注文を急がせたりする広告には、注意が必要です。
▼ そして、注文を確定する前に、支払いの総額がいくらか、解約の条件がどうなっているか。スクロールできる部分がないかを含めて、入念にチェックすること。
▼ さらに、最終確認画面をスクリーンショットで保存しておくこと。トラブルになった場合、取り消しに応じてもらうための証拠になりますので、大事だということです。
▼ その上で、トラブルになった場合、身近な消費生活センターに相談をしてください。
188の電話番号から、身近なセンターにつながる仕組みになっています。

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ただ、解約に応じてくれない事業者もいますので、まずは、トラブルにならないよう、画面をチェックする。そして、画面を撮影しておくことを忘れないようにしていただきたいと思います。  


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