全国的に鳥インフルエンザの発生が続き、卵の値上がりなど影響が続いています。その余波が卵にとどまらず、ラーメンにまで広がっています。いったい何が起きているのかをひも解きます。
【これまでの発生状況は】
致死率が高い「高病原性鳥インフルエンザ」は、渡り鳥が日本に持ち込むと考えられています。このため、日本で拡大するのは、毎年、渡り鳥が大陸からやって来る秋から、鳥たちが北に帰る翌年の春にかけてです。
農林水産省によりますと、去年秋から始まった今シーズンは、4月13日までであわせて84例発生しています。
感染拡大を防ぐため、発生した農場の鳥はすべて殺処分します。対象となった数は過去最も多いおよそ1771万羽と、途方もない規模に膨れ上がっています。
【鶏肉には影響ない?】
卵のことばかり注目されるのは、実は主に「ブロイラー」、「若鶏」などと呼ばれる鶏肉専用のニワトリでは、あまり発生していないからです。
殺処分の対象となった肉用のニワトリは、およそ96万羽です。全国で飼育されている肉用ニワトリのうち、1%にも満たない数です。また、出荷までの期間が短く、生産の回転が速いため、影響は限られています。
一方で、卵を生むためのニワトリは、およそ1650万羽に上っています。全国で飼育されている卵用はおよそ1億4000万羽ですから、12%ほどにあたり、かなりの規模のニワトリが減ったことが分かります。
【卵用のニワトリで発生が多い理由】
それでは卵を生むニワトリで発生が多いのは、どうしてなのでしょうか。
鳥インフルエンザに詳しい、北海道大学の迫田義博教授は「卵を搬出するなど人や物の出入りが多いことや、飼育期間が長く、免疫の働きが低下した鳥の割合が肉用よりやや多いこと」を挙げています。
卵の場合は毎日生産されるので、飼っている建物の中と外の出入りが多くなり、その分、ウイルスが入り込むリスクが増えます。また、飼う期間は、卵用は肉用の10倍以上と圧倒的に長いので、免疫の働きが低くなる割合が少し高くなってしまうということです。
さらに卵用のほうが1か所の発生で、殺処分する数が多くなることもあります。肉用は一般的に「平飼い」と言って平面的に飼います。卵用は「ケージ」と言われるカゴを重ねて立体的に飼っていることが多く、同じ広さでより多く飼うことができます。その分、殺処分の規模も大きくなります。今シーズン、100万羽以上のニワトリを殺処分した養鶏場は5か所に上り、すべて卵用でした。
【ラーメンにまで及ぶ影響】
卵用のニワトリが減っていることがラーメンへの影響につながるのは、「廃鶏」が関係しています。
ニワトリは、ふ化してから150日ほどで卵を生み始めます。550日以上たつと卵を生む頻度が落ちてくるので入れ替えます。その際に入れ替わる、年を取ったニワトリが廃鶏です。業界では「親鳥」と呼ばれ、さまざまな食品に加工されているんです。
卵用のニワトリが大規模に殺処分され、親鳥も減ることになりました。親鳥から作られる材料の1つが、「鶏油」です。ニワトリから抽出した油で、「チーユ」と呼ばれます。こってりとしたラーメンには大事な材料になっています。
ブロイラーからも取れますが、業界関係者に聞きますと、飼っている期間が長い親鳥の油は、色が黄色く、風味やコクが強いと人気なんだそうです。これが品薄になっているということです。
ラーメン店の中には、ふだんなら客からの要望を受けて鶏油を増やすサービスをしていたのですが、要望に対応できなくなったところもあるということです。
また、親鳥の鶏ガラも確保しにくくなったという声があります。販売を手掛けている会社に聞きますと、去年の12月以降、仕入れが少なくなったため、既存の顧客への販売を優先して新規の注文を断っているということでした。
【「地域の味」も食べられなくなる?】
親鳥の用途で、もっとも多いのはミンチです。ハムやソーセージ、ハンバーグなどの加工食品に混ぜる材料になります。
そのほか、地域の味にもしわ寄せが生じています。たとえば九州・宮崎で名物として知られる「鶏の炭火焼」に多くの場合、親鳥が使われています。
親鳥の特徴は、「歯ごたえ」と「うまみ」です。長期間飼育するので筋肉が発達して歯ごたえがあるうえ、うまみ成分のグルタミン酸がブロイラーの1.4倍というデータもあります。
ところが、この親鳥が品薄になりました。宮崎市内の食品メーカーでは、全国から原料を集めているものの、例年の3割程度にとどまり、取引先に販売を断らざるを得ない状況になっていると言います。
また、親鳥を使った骨付鳥が有名な香川の丸亀市でも、一時的に提供を休止している居酒屋があります。
さらに親鳥の肉はレトルト食品の具などにも使われていて、足りない状況が続けば欠品になるおそれがあると心配されています。
【鳥インフル 今後の見通しは】
今後の見通しについて、専門家は鳥インフルエンザの発生は、渡り鳥が北に帰るため、「5月中には終息する」という見方をしています。ですから、全国的には卵が今よりさらに足りなくなるという事態は考えにくいと思います。
発生のあった養鶏場は、段階的に生産を回復させるので、次第に供給量は増える見通しです。それでも、出荷する卵の量やサイズが偏らないよう、少しずつニワトリの数を増やすので、一気に状況が改善することは難しそうです。
また、親鳥の品薄は、さらに長引く可能性があります。ニワトリには、おおむね400日以上は卵を生ませ、そのあと親鳥として処理されますから、卵が回復しても400日以上、つまり1年以上はタイムラグが生じます。
【産業のあり方検討を】
過去最多の発生で、生産現場だけでなく、消費、流通にまで深刻な打撃が及んでいます。関係者は「業界全体の先行きが見通せない」と口をそろえています。
発生した養鶏場にとって大きな負担となるのは言うまでもありませんが、卵や親鳥が減っていることで、食品メーカーや外食産業など広く影響を受けています。
さらに親鳥を処理する会社をはじめ、関連業界も大きなダメージを受けています。工場の稼働率が大幅に下がり、平日も稼働を止める日が出てきていて、雇用にも波及する可能性があります。
次のシーズンも大規模な発生が続けば、産業全体が立ち行かなくなるという懸念もあります。各農場は改めて鶏舎に出入りする際の消毒やウイルスをつけた動物が中に入るのを防ぐ対策など、感染防止策を徹底する必要があります。
それでも一定程度の発生が避けられないとすれば、卵を安定的に供給し続けるために、たとえば生産の分散化など、産業の仕組み、そのものの見直しも検討すべきだと思います。
この委員の記事一覧はこちら