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"異次元"の少子化対策と衆院早期解散論の行方

曽我 英弘  解説委員

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●内閣支持率
【岸田内閣 支持42%不支持35%】

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NHKの4月の世論調査で岸田内閣を「支持する」と答えた人は、先月より1ポイント増えて42%。「支持しない」は5ポイント減って35%だった。「支持する」が「支持しない」を上回ったのは2カ月連続で、今月はその差が開いた。
要因として考えられるのは、一時期より内閣の状況が比較的安定し、ことしの春闘で賃上げの動きが相次いでいる点。また新型コロナの流行が落ち着きつつあることも好感されたとみられる。そのことは新型コロナの感染症法上の位置づけが、5月から季節性インフルエンザなどと同じ「5類」に移行することで、自分の生活が感染拡大前のように「戻る」という人が「ある程度は」とあわせて61%に上ったことからもうかがえる。生活が「戻る」という人たちの内閣支持率は46%と全体より4ポイント高く、政府のコロナ対策への一定の評価も支持率を下支えしていると言える。また外交面でも、先の岸田首相のウクライナ訪問を「評価する」という人が「大いに」「ある程度」あわせて58%に上ったことなども影響したとみられる。
ただ、今後もいまの傾向が続くかどうかは必ずしも見通せない。というのもまず、世代別の内閣支持に偏りがあるためだ。

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18歳から39歳の支持は25%にすぎず、支持が不支持を上回ったのは60歳以上のみだ。また比較的消極的な支持も依然として続き、「支持する理由」として「他の内閣より良さそうだから」は5割弱。「支持する政党の内閣だから」も2割余り占めていて、4月も自民党の支持率が野党各党に大きく差をつけていることに助けられている面もある。

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国会は会期の後半に入ったが、政策論議を十分深め、説得力ある主張を展開できるかどうかが各党の今後の党勢を左右することになる。

●少子化対策
【期待できる?こども家庭庁】
後半国会の政策論議における最大の焦点のひとつが少子化対策だ。

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4月1日、子ども政策の司令塔となる「こども家庭庁」が発足した。この新しい組織が果たす役割について期待しているかどうか聞いたところ、「期待している」は「大いに」「ある程度」あわせて56%、「期待していない」は「あまり」「まったく」あわせて36%だった。こども家庭庁には内閣府や厚生労働省から一部の部局が移管され、児童手当や妊娠から出産・子育てまでの一貫した支援や、児童虐待、貧困対策など幅広い業務を担当する。またSNSなども活用して子どもの声を政策に反映させ、今の少子化の流れの反転を目指すとしている。
 ただ課題も残る。職員およそ430人でスタートしたが、担当する幅広い政策に見合った体制として十分なのか。またこども家庭庁に与えられた、各府省庁に改善を求める勧告権も効果的に活用しなければ、絵に描いた餅になりかねない。一方で幼稚園も含め教育に関わる施策は引き続き文科省が担うことで二重行政が残ったとの指摘もあり、連携を十分図れるかも課題だ。

【進むか?男性の育休取得】
またこども家庭庁発足と同じタイミングで、政府がまとめた少子化対策のたたき台の中身をどこまで実現できるかも焦点だ。この中で政府は、共働きが当たり前の今、男性の育児休業を促す方針を打ち出した。具体的には出産後の一定期間内に、両親ともに育児休業を取得した場合、最長4週間は給付額を引き上げ、休業前と手取り収入が変わらないようにするとしている。

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ただこれで男性の育休が進むと思うかどうか聞いたところ、「進む」は32%にとどまり、「進まない」は53%だった。男性の育休取得率は2021年度現在およそ14%だが、政府はこれを2025年度に50%、2030年度には85%に引き上げることを目指している。実現には職場の理解と協力が不可欠で、企業のなかには育休を取った男性の同僚に手当を支給するところも出始めている。
また政府のたたき台では他にも、児童手当や奨学金制度の拡充、出産費用の保険適用の検討、さらには子育て世代の住宅所得支援が盛り込まれるなど対策は多岐に渡っている。

【どうする?財源確保】
一連の対策を実現するには数兆円単位の財源が必要とみられ、今後の検討次第では実現されないものもあり得る。このためいつから、何を、どれくらい実施するのという優先順。そして必要な財源をどう確保するのかという議論が、これからいよいよ本格化する。

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少子化対策強化の財源を主にどんな方法で確保すべきだと思うか聞いたところ、「ほかの予算を削る」が最も多く56%、次いで「社会保険料負担の見直し」は17%、「国債の発行」「増税」はそれぞれ8%で、若い世代ほど歳出削減を求める声は強い。ただ厳しい財政事情の中で削減の余地は限られ、財源として賄うのには不十分だという指摘も根強くあり、今後議論が必要だ。
 財源論議の行方はどうなっていくのだろうか。政府与党内では社会保険を活用し財源を確保する案も出る一方で、増税や国債発行には否定的な意見が多くある。社会保険の活用が検討される背景には、子育て費用を支援することで社会保険の将来の担い手を確保できれば、制度の安定にもつながるという考えがあるためだ。ただ保険料を支払う現役世代に負担が偏るのではないか。また年金、医療、介護といった本来の目的から外れた使用になるのではないかといった指摘もある。
岸田首相は「世代や立場を超えた国民一人一人の理解と協力を欠くことはできない」と述べ、6月の「骨太の方針」までに一定の結論を出す方針だ。政府はオープンな形で議論を進め、国民の理解と納得を得られるかが対策実現のカギとなる。

●衆議院の早期解散論
【緊張感増す後半国会】

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今後の政治の展開を考えるうえ重要なのが、まずは4月23日に投開票が行われる統一地方選挙の後半戦、そして衆参の5つの補欠選挙の結果がどうなるかだ。このうち地方選挙後半戦はより各党の「地力」が試され、衆参の補欠選挙は岸田内閣の「中間評価」ともみることができる。政界では、衆議院の年内解散の可能性も含め時期が早まるのではないかという憶測もあり、一連の選挙結果は岸田総理の判断にも影響を与えそうだ。また少子化対策の財源論議の展開次第では、防衛や原発などほかの重要課題とともに、国民に信を問うべきだという世論が高まってもおかしくない。それだけに後半国会は6月の会期末に向けて緊張感が増す展開となりそうだ。


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