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頭痛?認知症?新型コロナ後遺症かも

矢島 ゆき子  解説委員

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第8波のピークアウトは過ぎたようですが、この第8波、多くの方が新規感染しました。軽症の方も多かったようですが、今後、新型コロナウイルスによる症状が続いたり、治ったあとに症状がでることもあるかもしれず、注意が必要です。

◆オミクロン株の主な後遺症

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オミクロン株になってから後遺症外来を受診した人にどんな症状があったのか、愛知医科大学が調べた所、主な症状としては、けん怠感・だるさがあった人が58.3%、頭痛31.1%、息切れ28.9%、せき24.6%、認知症につながる記憶・認知機能・集中力低下(ブレインフォグ)が、21.9%、めまい・たちくらみが15.8%、睡眠障害が15.4%、体の痛み(筋肉・関節など)14.0%などがあります。新型コロナの後遺症に関する「診療の手引き」の作成にも携わった愛知医科大学メディカルセンターの馬場研二教授にお話しを伺ったところ、「オミクロン株になってから頭痛を訴える人や記憶・認知機能が低下する人の割合が増えている」とのことでした。

◆新型コロナの後遺症になる人はどのぐらいいる?

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新型コロナの後遺症になる人はどのくらいいるのでしょうか?
去年、世界各国の約120万人のデータでは、新型コロナに感染後、後遺症がある人は女性10.6% 男性は5.4%(20歳以上)というデータが出されています。新型コロナの後遺症は、WHO・世界保健機関は、通常、発症から3か月の時点でみられ、少なくとも2か月以上続く、そして他の病気の症状としては説明がつかない症状と定義しています。

◆新型コロナの後遺症、どんな経過をたどる?

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では、後遺症、どんな経過をたどることがあるのでしょうか?例えば、フルタイムで働いていた50代の女性Aさんのケースをご紹介します。
Aさんは、2022年1月オミクロン株に感染。発熱・のどの痛み・せき・頭痛・けん怠感があり、軽症で自宅療養しました。しかし、その後、微熱・頭痛・けん怠感が続き、寝つきが悪いなどの睡眠障害にもなったため、3月に後遺症外来を受診しました。後遺症に対する確立した治療法はまだなく、対症療法になります。つまり症状に合わせた治療です。Aさんの場合は、頭痛を抑えるために痛み止め(アセトアミノフェン)を使ったそうです。しかし、頭痛などがひどく、仕事を辞めることになりました。感染から半年ほど経っても、毎日けん怠感が続き、横になることも多いため、漢方薬が処方されました。また、この時期、頭痛がひどく、痛み止めをたくさん使ったそうです。さらに数か月経つと、調子の良い日が徐々に増え、10月、週2回の仕事を始めることができるようになりました。ただ働くのは、1日4時間が限度で、2日間続けて働くと、次の日は一日中、寝込んでしまう状況でした。そのため、主治医が、Aさんに生活指導・アドバイスをしながら、活動の量を調整し、なんとか仕事を継続することができたそうです。そして、感染から1年たった今年1月になると、頭痛・けん怠感が改善し、薬も減量。ようやく通常の日常生活に戻り、今、仕事の量も増やしているとのことでした。馬場教授曰く、頭痛などの「痛みが長く続くと、「もう治らないのでは」と不安になる人が多い。」「後遺症の種類にもよるが、時間はかかるが、多くの場合、症状は改善に向かうことを理解してもらうことが大切」とのことでした。

◆どうして後遺症は長く続く?

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でも、どうして、後遺症、こんなに長く続くことがあるのでしょうか?脳神経内科医で頭痛・認知症が専門の岐阜大学下畑享良教授にお話しを伺ったところ、「仮説がいくつかあるが、最近、特に有力なのが新型コロナの『持続感染』」とのことでした。
この持続感染、どういう状態なのでしょうか?
新型コロナに感染した後、再度、PCR検査などで鼻咽頭ぬぐい液・唾液を調べ、ウイルス陰性を確認することがあるかと思います。このとき、ウイルス陰性でも、ウイルスは完全に消滅したのではなく、実は、体の中のどこかにウイルスが潜伏し、感染や炎症が続いているというのが持続感染で、このために、後遺症が長く続いている可能性があるそうです。
アメリカでは、ウイルスの潜伏場所を探す大規模な後遺症研究プロジェクト「Long COVID Research Initiative」が進められています。そして、脳の神経に関連して、例えば、発症して2週間後のヒトの脳でも増殖したウイルスが見つかったり、最長230日目でも、肺以外の体の中でウイルスが増え、持続感染する証拠が見つかりはじめているのです。また、感染の後、軽症者でも脳の血管に炎症が起きていることがわかりました。新型コロナによる頭痛のメカニズムはまだよくわかっていませんが、脳の血管を取り巻く神経に、脳の血管で起きている炎症が影響し、その結果、頭痛が長く続くということ可能性があるかもしれないと下畑教授が話していました。

◆新型コロナは認知症の新たなリスク?

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さらに、「一番懸念されるのは、新型コロナは、認知症の新たなリスクになると考えられることだ」と下畑教授は言います。例えば、新型コロナに感染した人が、1年後にアルツハイマー病を発症するリスクは、感染をしなかった人に比べ、2.03倍高いというデータが出されています。また、別のいくつかの論文では、高齢者、感染直後の時期に人工呼吸器をつけるなど重症だった人、そして、嗅覚障害が3か月以上続いている人は、とくに認知症になるリスクが高いという研究結果が出されました。さらに、イスラエルでの191万人以上の感染者を調べた後遺症の研究では、記憶障害・集中力低下など脳の神経に関係する後遺症は1年以内に治りにくいことがわかりました。
どうして、新型コロナウイルスに感染すると認知症になるのでしょうか?例えば、2つのメカニズム・可能性が考えられています。一つ目の可能性。新型コロナウイルスは鼻からも感染します。鼻の奥には臭いがわかる神経(嗅神経)があり、実は、これは脳につながっています。そのため、鼻でウイルス感染すると、それが伝わり、脳の働きが抑えられてしまうということが考えられているのです。そして、もう一つ。実は、認知症にならないためには、記憶に関わる神経細胞がたくさんあることが大切です。しかし、新型コロナに感染すると、ウイルスを攻撃するためのタンパク質を、免疫細胞がつくるのですが、このタンパク質が、大切な記憶の神経細胞を新たに作れないようにしている、だから認知症につながると考えられているのです。そして、「新型コロナに感染することで、若い人でも重症化した場合などに、認知機能の低下がありうる」と下畑教授が話していました。

◆新型コロナ後遺症に関連した頭痛・認知症の治療は?

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後遺症に対する治療は確立していないので、症状に合わせた対症療法になります。今、後遺症への治療薬の候補として抗ウイルス薬やそれ以外の薬の臨床試験も始まっていますが、本当に効果があるのかは、結果が明らかにならないとわかりません。下畑教授曰く、「動物実験でワクチン接種が、ウイルスによる脳への障害を抑えることが報告」されているが、「感染予防、ワクチン接種を続けることがまず大切」とのことでした。新型コロナの感染が始まってから3年たち、後遺症についても情報も増えてきましたが、後遺症の治療が確立するには、まだ時間がかかりそうです。
海外では、感染力がさらに高いウイルスが流行していますし、油断はせず、引き続き、状況に応じて、しっかり感染予防を続けていただけたらと思います。

◆コロナ禍の今 注意したい頭痛ついてはこちら
「コロナ禍の今 注意したい頭痛と対処法」(みみより!くらし解説)

◆天気の影響で起こる頭痛・めまいの対処法などについてはこちら
「気になる頭痛・めまい 天気が影響?対処方は?」(みみより!くらし解説)


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