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許さない!痴漢から受験生を守る

木村 祥子  解説委員

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2月に入り、中学、高校、大学入試と本格的な受験シーズンに入っています。
そんな中、ここ数年、毎年この時期になると、SNS上では電車で会場に向かう受験生に痴漢行為をあおるような投稿が目立つようになっています。
痴漢の被害から受験生を守るにはどうしたらよいのか、木村祥子解説委員です。

【受験生を狙う痴漢】

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信じられないような投稿が並んでいますがこれらはすべて、今年に入って、ツイッターに投稿された文言です。
受験生は緊張感や不安でいっぱいなのに、このような書き込みは許せませんし、もし、被害にあってしまったら受験どころではなくなってしまいます。
警察によりますと先月(1月)に行われた大学入学共通テストの1週間ほど前から投稿が目立ちはじめたということです。

【過去に被害にあった女性は・・・】
受験の日に痴漢の被害にあったことがあるという女性が当時のことを語ってくれました。
女性は7年前、高校受験の当日に、ほとんど身動きが取れない満員電車で英単語帳を見ていた時に痴漢の被害にあいました。
最初はかばんを持っている手の甲がお尻のあたりにあたるという感じで、なんか気持ちが悪いなと思ったそうです。ただ、途中から明らかに故意で、手のひらで触ってきたということで、痴漢だとわかったそうです。
女性は声を上げたり抵抗したりすれば試験に遅刻してしまうと思い、加害者が降りるまで10分間、何もできず、ひたすら耐えました。その後、試験に臨みましたが、試験中も被害を受けたことが頭から離れず、結果は不合格となってしまいました。
女性は「こんな1人の犯罪行為で私がこんな傷つかなければいけないのか、分からなかったし、もしあんなことがなかったらって考えてしまいます。痴漢被害の記憶にも何かその悔しさというか、むなしさみたいなのが今でも残っています」と話してくれました。
試験会場に向かう途中の受験生は遅刻ができないので「通報しないだろう」という心理に付け込んだ極めて悪質な犯行です。

【SNSへの書き込み 最近の傾向】

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痴漢対策に取り組んでいる、大阪の一般社団法人「痴漢抑止活動センター」の松永弥生さんによりますと、こうした書き込みはずいぶん前から、匿名の掲示板などで見られていたということですが、ここ数年はSNS上での書き込みが激しくなってきたといいます。
「最近では面白半分に表に出してくる人も増えてきた」ということで、「痴漢をされなくても書き込みを見て、動揺してしまう受験生もいるのではないか」と心配しています。
また、痴漢の被害者は圧倒的に女性が多いのですが、男性も被害にあっているので注意が必要だということです。

【被害の実態】

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痴漢の被害について月ごとや、受験生の被害をまとめた統計はないのですが、警視庁によりますと令和3年の1月から12月までの1年間に東京都内で痴漢を含む迷惑防止条例違反で検挙された数はおよそ1400件に上っています。
時間別でみると、通勤、通学の時間帯が多く、発生場所では駅構内や電車内が多くなっています。
また年齢別では20歳代が最も多く、次いで10歳代となっていて、この世代だけで6割を超えています。
ただ、残念ながら、被害を届け出ない人も多いことを考えると実態はもっと多くの件数になるのではとみられています。

【電車での注意点】

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実際に痴漢の被害にあわないために、受験生はどんなことに気をつければよいか、痴漢抑止活動センターの松永さんに聞きました。
電車で試験場に向かう際には
▽友達や親などと一緒に乗る
▽受験生と気付かれないよう、私服で行く
▽「女性専用車両」を選ぶ、ということだそうです。
ただ、女性専用車両はエリアによって導入されていなかったり、平日のみの運行のところも多かったりするで、できれば事前に下見をしておくのがよいということです。
また、電車に乗った後に工夫できることとしては、「電車内の立ち位置」だそうです。
死角になりやすく、逃げ道のないドア付近や連結部分は避け、人目に付きやすい座席エリアの近くを選んで下さいということでした。

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痴漢を見分ける方法として、松永さんは以下のように話します。
中には揺れに合わせて体を密着させたり、手を押しあてたりするような行為も多く、手口が巧妙で判断がつきづらいかもしれませんが、3回、手があたったら「故意」だと思って、早めに対処することが大切だといいます。
具体的には「あたってます」「やめてください」などと、ことばを発することで、被害を最小にできるといいます。
ただ、怖くなって、声が出せない時もあるかと思います、その場合には、その場にしゃがみ込んだり、かばんを手から落としたりして、大きな音を立てるだけでも、行為がやむ可能性があるそうなので、やってみて下さい。

【自分を守るためにできること】

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また、痴漢抑止活動センターでは独自に「痴漢抑止バッジ」を制作しています。
バッジには「痴漢は犯罪です」などと書かれており、通学かばんなど、後ろに立つ人の目につく位置につけると効果的だそうです。
センターでは埼玉県の高校に通う女子生徒70人に、普段、通学で使っているJR埼京線で7か月間、このバッジをつけて電車に乗ってもらいました。
その結果、94.3%が「効果を実感した」と答えたそうです。
松永さんによると、痴漢はおとなしそうな人を狙う傾向があるため、「痴漢を許さない」という強い意思表示を行うことで、被害にあいにくくなるといいます。

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センターではバッジを1つ無料で配布しています。
インターネットで「痴漢抑止活動センター」を検索して申し込むと、郵送されます。

【アプリで痴漢撃退】
そのほかに痴漢対策用のアプリもあります。警視庁の「Digi Police(デジポリス)」という防犯アプリです。
画面左下にある「痴漢撃退」ボタンを押すと「痴漢です、助けて下さい」という表示が出てきます。
さらにその画面を押すと「やめて下さい」と音声が出る仕組みとなっています。
またアプリには「ちかん されていませんか?」という画面が表示される機能もついています。
被害者だけが声をあげるのではなく、まわりにいる人も助け船を出してあげられる機能です。
アプリを運用する警視庁生活安全総務課主事の小川弘実さんは「この画面を使わないに越したことはないので、みなさんがこれをお守りにして安心して電車に乗れるような世の中になっていったらいいかなと思います」と話していました。
このアプリをきっかけに去年、痴漢の犯人検挙に結び付いた例もあったということです。
アプリは警視庁のホームページから無料でダウンロードできます。
もしかすると受験生の中にはアプリを使うと「試験に遅れてしまう」と不安に思う人がいるかもしれません。
警察では「試験に遅れないように最大限、配慮する」ということです。
また、文部科学省も今回初めて、大学や高校入試に日に被害にあった場合に、試験時間を繰り下げるなど、柔軟な対応を求める通知を全国の大学や教育委員会などに出しました。
さらに鉄道事業者でもこの時期に警備員の数を増やして対策を強化しています。

【周囲ができること】
受験生を守ろうという取り組みは広がっています。
痴漢にあったら、我慢をしないで、アプリなどを使って撃退してほしいと思います。
そしてこの時期は電車に乗る周囲の人たちも特に目を配ってあげてほしいと思います。

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痴漢抑止活動センターの松永さんも具体的にできることとして、もし痴漢行為を目撃した時には、被害者に「大丈夫?」と声をかけることを提案しています。
痴漢の加害者に声をかけるのは、大人でもためらってしまう場合が多いと思います。
ただ、被害にあっている子どものほうに声をかけるのであればハードルがさがります。
「大丈夫?」と声をかけることで、痴漢は周囲が見ていることを知ると犯行をやめるといいます。

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受験シーズンのこの時期、電車やバスに乗った時には周囲の皆さんにはスマートフォンから少し顔を上げて、困っている受験生がいないか見守ってあげてほしいなと思います。


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