NHKの世論調査で、岸田内閣の12月の支持率は3か月連続で不支持が支持を上回った。その背景と来年の政治の行方について考える。
【内閣支持率】
12月のNHK世論調査で岸田内閣を「支持する」と答えた人は11月より3ポイント上がって36%、「支持しない」人は2ポイント下がって44%だった。ことし8月から続いた内閣支持率の下落傾向に歯止めがかかった一方で、不支持が支持を上回ったのは3月連続と、政権にとって依然厳しい状況が続いている。
支持低迷の要因として考えられるのが、「政策」「実行力」に疑問符が示されている点だ。支持しない理由として、「政策に期待が持てないから」と答えた人がおよそ39%、「実行力がないから」が35%と他の項目より多くを占めている。
また先の国会では3人の閣僚が1か月足らずの間に辞任したが、これへの岸田首相の対応を「評価する」人は29%にすぎず、「評価しない」は65%にも上った。自民党の萩生田政務調査会長が「結論を出すのに時間がかかりすぎ」と述べるなど、判断が遅く、後手に回ったという不満や批判は、与党内からも上がっていた。こうしたこともあって、本来支持基盤であるはずの自民党を支持する人たちの内閣支持が63%にとどまっていている。
重要課題で着実に成果を出していくことで来年、内閣支持率の改善傾向が軌道に乗るのか、それとも今回限りの一時的な結果に過ぎないのか。来年の政治の行方を大きく左右することになりそうだ。
【被害者救済法】
岸田首相が10日に閉会した臨時国会の成果と誇るのが旧統一教会の被害者救済新法だ。成立は国会閉会当日で、ギリギリ間に合った形だ。岸田首相は当初の慎重姿勢から世論の動向も踏まえ、今国会の成立にカジを切ったように映る。悪質な寄付を規制する今回の法律について、旧統一教会の被害者の救済や被害の防止という観点からどの程度評価するか聞いたところ、「評価する」は「大いに」「ある程度」あわせて66%、「評価しない」は「あまり」「まったく」あわせて26%だった。岸田首相は「現行の法体系の中で許される限り最大限実効的だ」としている。
元2世信者は法律の成立を前進と受け止めつつ、「あくまでこれがスタートにすぎない」としているほか、実効性をめぐっては懸念や疑問の声もある。また過去の寄付については救済されないなど課題も多く残っている。政府は今後、寄付の取り消しを求める未成年者への支援や、法テラスなど相談体制の整備、精神的ケアを充実させていくとともに、法律が施行された後も適切に運用され、被害者救済と再発防止に効果を発揮しているか点検し、必要があれば柔軟に見直すべきだ。
【防衛力の抜本的強化】
旧統一教会の被害者救済に加えてもうひとつ、岸田首相が取り組んでいるのが防衛力の抜本的強化だ。その柱の一つが敵のミサイル発射基地などをたたく「反撃能力」の保有だ。
敵に攻撃を思いとどまらせることで抑止力を向上につなげるのが狙いだと政府与党は説明している。これについて今回の世論調査の結果からは、北朝鮮のミサイル発射に備えた対応であり、ウクライナ侵攻や台湾有事のリスクの高まりで急変した国際情勢を考えれば、防衛費の増加もやむを得ないという認識が広がっていることがうかがえる。
具体的には政府がこれまで政策判断として「保有しない」としてきたこの「反撃能力」を持つことに賛成か反対か聞いたところ、「賛成」は55%、「反対」は31%だった。そして「反撃能力」の手段となる長射程ミサイルや、中長期の戦闘に足るだけの弾薬の購入などの防衛力の整備に来年度から5年間、今の1.5倍にあたる43兆円を確保する政府の方針に「賛成」は51%、「反対」は36%だった。
このうち防衛費の増額に「賛成」と答えた人に、2027年度以降、毎年度不足する1兆円余りの財源を賄うため、政府が法人税を軸に増税の検討を進めていることに「賛成」は61%、「反対」は34%だった。
法人税が有力な選択肢となった背景には、安全保障のメリットを受けるのは特に大企業だという点。またこれまでの世界的な税率引き下げ競争で日本も引き下げてきたが、環境が変わった今再び引き上げる余地があるのではないかと与党幹部が明かしている。ただ経済界には懸念があり、経団連の十倉会長は「広く薄く、偏らずというのが基本だ」と述べている。また自民党内からは安倍派を中心に「賃上げに水をさしかねない」などいう反対や、国債の発行を求める声が出ているほか、閣内からも「このタイミングでの増税は慎重であるべきだ」とか、「首相の真意が理解できない」などといった懸念や批判が出ている。
岸田首相は10日、国債の発行を重ねて否定し、「防衛力を未来に向かって維持・強化するための裏付けとなる財源は不可欠だ」と段階的な増税に理解を求めた。首相の意向も踏まえ自民党税制調査会では、法人税に加えてたばこ税、さらには東日本大震災からの復興にあてるため所得税に上乗せされている「復興特別所得税」の一部も活用する案も出ているが、これには「目的外使用だ」という反発も予想される。支持率の低迷で求心力の低下も指摘される中、増税の税目や実施時期を含めてどこまで明確にできるか道筋は見えておらず、調整は難航しそうだ。また予算額の確保を優先する「額ありき」の議論に終始するのではなく、内容や必要性について国民にきちんと説明することが極めて重要だ。
【今の支持政党と来年の政治は】
各党の支持率は12月、大きな変化は見られない。
先の臨時国会では、閣僚辞任以外にも召集早々、閣僚の外国出張などで予算委員会が開かれず日程に空白が生まれるなど官邸と与党の連携不足が目立った。また岸田首相の答弁が一夜にして撤回し修正されるなど、政府内の準備不足も露呈しており、来年1月の通常国会に向け態勢の立て直しが迫られそうだ。一方野党側は、犬猿の仲とみられてきた立憲民主党と日本維新の会が旧統一教会の被害者救済をめぐって歩調を合わせ、政府与党から譲歩も勝ち取った「戦略的」な共闘関係が次の国会でも続くのかどうか。また立民と共産、れいわとの関係が今後どうなるのか。さらに予算案や政府提出法案への賛成を重ね、与党入りするのではないかとの憶測もくすぶる国民民主党の政権との距離感も自民・公明両党の力関係、野党全体の党勢に微妙な影響を与える可能性がある。来年は4月に統一地方選挙を控え各党とも、選挙の顔としての党首の力量と責任が問われることになりそうだ。
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