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どこまで続くの? 物価上昇

今井 純子  解説委員

物価上昇の勢いがとまりません。今井解説委員

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【物価上昇の勢いはすごいですね】
はい。先週発表された10月の消費者物価指数は、去年より3.6%の上昇と、3.0%だった9月から、上げ幅を大きく広げました。1982年2月以来、40年8ヵ月ぶりの大幅な上昇です。

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【何が上がっているのですか?】
まず、エネルギーが15.2%と、大幅に上昇しました。ガソリンと灯油は、政府が補助金で価格を抑えていますが、それでも、それぞれ、2.9%、そして、13.3%上昇しています。
▼ また、食料品が5.9%と、9月の4.6%から上げ幅を大きく広げました。
▼ そのほか、外食や衣類、家電製品、自転車、携帯電話機など、幅広い製品やサービスで価格が上がっています。
▼ 調査対象522品目のうち、およそ80%が上昇していて、値上げの動きが広がっていることがわかります。
▼ ガソリン補助金など、政府の対策がなければ、物価上昇率は4.5%程度に達していたという見方もあります。

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【物価全体で3.6%と言われても・・感覚的には、もっと上がっている感じもしますが・・】
そうですね。消費者物価の内訳をみてみると、生活に欠かせない必需品については5.5%上がっています。特に、身近なエネルギーや食料品で大きく上がっているので、肌感覚としてはもっと3.6%より大幅に物価が上がっている感覚がしますよね。

【なぜ、値上げの勢いがとまらないのですか?】
背景の一つ目は円安です。今回の物価上昇が加速し始めた4月の輸入品の物価を示す指数は、一年前より42.6%上昇していますが、その要因をみると、エネルギーや穀物などの国際的な原材料高の影響が、およそ65%で、円安による上昇分は35%でした。それが、この10月。ちょうど同じ42.6%の上昇ですが、円安による上昇分が61%と格段に大きくなっていることがわかります。

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【円安の影響がどんどん大きくなっているのですね】
はい。円安は、エネルギーや穀物だけでなく、衣類や家電製品など輸入に頼っている幅広い品目に直接の影響があって、物価上昇の動きを広げています。
そして、物価上昇が加速している背景の2つ目は、価格転嫁の広がりです。民間の信用調査会社の調査では、10月に値上げされた食品や飲料が、およそ6700品目と、それまでと比べて大幅に増えました。もともと、デフレがしみついている日本では、原材料が多少上がっても、消費が落ち込む心配から多くの企業が、がまんをして消費者への価格は上げないのではないか。そのような見方が強かったのですが、耐えきれず、値上げに踏み出す企業が出て、それを見て、「あそこが値上げなら自分も」。「なら、うちも」と、追随して値上げに踏み切る動きが広がっているというのです。

【メーカーやお店も厳しいのは、頭ではわかりますが、それでも、値上げは本当に厳しいです。物価の上昇はまだ続くのでしょうか?】
続く見通しです。というのも、食料品など日用品を対象とした民間の物価指数の動きですが、物価上昇の勢いは、11月に入っても、とどまっていません。牛乳や乳製品など生活に身近な商品の値上げが相次いでいるためです。このため、日用品以外の商品やサービスを含めた消費者物価全体についても、年末に向けて4%近くまで上がるというのが、多くの経済の専門家の見方になってきています。

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【まだ続くのですか・・・その後は、どうなりますか?】
民間の経済研究所が、4半期ごとのこれまでの消費者物価の推移と、今後の予測を出したグラフです。点線の部分が、政府の対策がなかった場合の上昇率です。実際は、対策の効果もあって、今年10月から12月の平均では、3.8%の上昇になるのではないか。それが、年を明けると・・2%台になり、来年半ばには1%台まで、落ち着いてくるのではないか。このような見方もあるということです。

【なぜですか?】
まず、年明け以降、電気代・都市ガス代への補助金が加わって、これまで以上に物価を抑えます。加えて、アメリカやヨーロッパ各国がインフレ対策で急速な利上げを続けていることから、来年は世界の景気が悪くなり、資源価格が下がったり、円安の動きも今よりは和らいだりするのではないか、との見方が出ているからです。

【ちょっと安心しますね】
ただ、もし、この予測通りになったとしても、物価が下がるわけではありません。勢いは弱まっても、プラスですから、物価は上がり続けるということです。

【資源価格が下がったり、円安の動きが和らいだりするのに、なぜ、物価は上がり続けるのですか?】
電気代が上がったり、人手不足で賃金を上げたりしている。それをこれから販売価格に転嫁する動きは、まだまだ、出てくる見通しだからです。この結果、家計の負担は、今年度は1世帯あたり平均で、前の年度よりおよそ9万6000円増える。そして、来年度も、およそ4万円の負担が加わる。というのが、同じ研究所の試算です。

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【すごい負担の増え方ですね。もっと節約をしないと・・という気持ちになります】
A)実際、物価上昇を実感しているという人へのアンケート調査を見ると、
▼ およそ70%の人が「不要なものは買わない」と答えている他、
▼ 「生活必需品は、より安い製品に乗り換える」も33%に達しています。

Q)生活必需品はより安い製品に乗り換える。というのは、割安のプライベートブランドの商品にするとかですかね?
A)そうですね。ほかにも、少し遠くても格安スーパーなど割安なに行って買うとか、お米は、比較的安値の傾向が続いているので、値上がりしているパンを食べるのを減らして、お米中心にするとか。また、その時々、割安な野菜をうまく利用することも考えられますよね。

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【私も、買い物に行く時は、あらかじめチラシをよく見て、特売のものだけ買うようにしています】
みなさん様々な対策をとっているかと思います。ただ、節約ばかりだと、消費が落ち込む心配がでてきます。やはり、物価が上がる分以上に、賃金が増えてくれないと困ります。さきほど、今回、40年ぶりの物価上昇と言いましたが、その40年前は、物価が上がる以上に、賃金が上がっていました。

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それが、今どうかというと・・物価の変動を反映させた実質賃金は、9月まで6カ月連続のマイナスです。賃金は少し増えてはいても、物価の上昇分に追い付いていない。だから、生活が厳しくなるのです。

【賃金が上がることは大切ですね】
大きな焦点となるのが、来年の春闘で、どれだけ賃金を底上げできるかという点です。労働団体の「連合」は、5%程度の賃金引き上げを求める方針です。積極的な要求と言っていいと思います。
これに対して、経団連の十倉会長も、物価の上昇を踏まえて会員企業に対し、基本給の引き上げにあたるベースアップを中心とする賃上げを働きかけていく姿勢を示しています。
大企業の中間決算の発表をみると、厳しいところもありますが、全体では、今年度も過去最高益を更新する見通しです。手元にある現金預金も、325兆円と、過去最高を超えさらに積み上がっています。

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体力のある企業は、なんとしても、物価上昇を超える賃金の引き上げを実現してほしいと思います。


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