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教員負担軽減のカギはAI 写真選びが大変な卒業アルバム制作が楽になった!

水野 倫之  解説委員

教師の長時間労働が問題となる中、この時期学校では、卒業アルバムの制作作業が加わって、さらに忙しくなるという。そこでAI・人工知能の力を借りてアルバムづくりで先生を楽にしてくれるシステムが、今注目されている。水野倫之解説委員の解説。

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学校の先生、授業の準備はもちろん、いじめ・不登校への対応、コロナ下でのこどもの体調確認や、小中学生にはタブレットの配備が進み、その対応もある。

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日本の中学教師の1週間の仕事量は56時間と、経済協力開発機構の48の国と地域の中で最長。
また教員を志望する若者の減少傾向で、今年度の公立の小学校の教員の採用倍率は2.5倍と過去最低を更新。
教員の働き方改革、少しずつ進み始めてはいる。

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昨年度から小学校のクラスの人数の上限を40人から35人にする少人数学級が実現。
また部活動の外部委託も進み始めている。
こうした対策に加えて、さらに進める必要があるとされるのが業務のデジタル化。
いまだ、職員会議の資料を人数分印刷したり、家庭への連絡も紙で子供に持たせたりして手間暇かけている学校がかなりあるという。
そして今の時期から本格化する卒業アルバムの制作も、アナログ的に行っているところが多く、教員への負担が大きいという。
特定の子が一度も写っていないとか、一部の子が何度も写るといったことは絶対に避けなければならず、写真選びが大変。
これまでどのように制作されてきたのか、千葉県の小学校を取材。

柏市郊外にある手賀西小学校。一学年20人程度の小規模学校。
今は1年生の担任の東條正興先生。
基本的に授業をすべて担当、まだ小さい子供たちを集中させるだけでも大変。
授業が終わると子供たちの見送り。
安全のため児童が帰路についたかどうか、校門で最後の1人まで確認しなければならない。
それが終わると、職員室で翌日の授業の準備や保護者への連絡の作成など多くの作業をこなす。
そして4年前、6年生の担任をしていた時は、この時期になると、卒業アルバムの制作が加わり多忙を極めたという。
その作り方。
小規模学校なので、行事の撮影は写真館には依頼せず、先生たちがすべての行事の写真撮影。
学校のサーバーに保管されている6年間の写真は3000枚以上。
先生とアルバム担当の保護者数人が学校に集まり、3000枚の中から各行事ごとにこれはという写真を数百枚までしぼりこみ、すべてプリントアウトしてチェックする作業が始まる。
「6年生の卒業アルバム作ったときの担任と保護者と共同作業で行った時のノート。印刷したものの中から、写真番号確認して、写真番号ひとつにつき、誰が写っているかチェックしていく。写っている子のところに丸をつけていく。この作業を1枚1枚目視で手書きで確認していく。1年生分だけでもノート4枚分にもなる。」
大変なのはここから。
写っている回数を均等にするため、各児童が何回写っているか正の字を書いて数えていく。
よく見ると正の字が何か所も修正されている。
「少ない子がいればその子の写真に差し替える、また正の字も書き換える。1枚の写真差し替えると、そこに写っている何人の子も登場回数が差し替えになるので、そのたびごとに消して加えてという作業の繰り返しになる。」

こうした作業は1回あたり数時間かかり、これを5回ほど行わなければならなかった。

「みんなで目視で選んだ当時のアルバム。ひとりひとり目視して確認して保護者と担任でつくったもの。」

先生だけでなく保護者にとっても大きな負担。
そこで学校では、アルバム制作を支援してくれるシステムを2年前から導入。

「これはAIが誰がどこに写っているか検知して教えてくれるシステム。修学旅行の写真460枚くらいあるが…おすすめ閲覧を押すと、子どもの写真がくっきりしていて前を向いているものを選んでくれ75枚に絞り込むことができる。そうすると顔を認証してカウントを検知してくれる。例えばこの子、0回になってしまっているが、この子を選択すると修学旅行の写真からこの子が写っている写真をAIが自動的に検出してくれる。そしてこの写真を候補にしたいとクリックすると入れてくれて1回となる。このように回数の確保、私たちはAIの力を借りてやる。」
AI機能使いながら作った卒業アルバムは1枚1枚目視して作成したアルバムと遜色はない上に、作業時間が大幅に減り、保護者の来校も1、2回ですむようになったということ。

このシステム、なぜアルバムに最適の写真をえらべるのか?
システムを作った、写真業界に向けにWEBサービスを提供している東京都内の会社を訪ねた。
会社では全国の写真館から卒業アルバムを100冊以上集めて、担当者が研究。
その結果、運動会なら大玉転がしやリレーのゴールシーン、騎馬戦なら組み合っているところなど、卒業アルバムに好まれるシーンがいくつかあることがわかり、それをAIに学習させた。
こちらは写真館から提供してもらった2万枚の写真。
「運動会の中から特徴的な写真を選んで、AIに覚えさせている。」

担当者が一つの行事につき数百枚を選びAIに覚えさせ、システムを完成させたという。

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このシステム、アップロードする候補写真1枚当たり0.5円、子供1人当たり300円の基本料金がかかり、1冊数千円のアルバム代に上乗せされることになるただ文部科学省が費用対効果が高いとして、「教員の働き方改革の事例集」に紹介したこともあって、徐々に広がり、全国の800の学校で利用されているということ。
そして手賀西小学校ではこのAIシステム導入をきっかけに、保護者への連絡や職員会議の資料配布もアプリを通して行うようになるなどデジタル化が一気に進み、教員の残業時間を半分近く減らすことができたという。
今後こうしたAIによるシステムをきっかけに、教員の働き方改革がさらに進むことを期待したい。


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