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不登校過去最多 多様な学びの場 確保を

木村 祥子  解説委員

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昨年度、小中学生の不登校は24万人あまりと、過去最多を更新しました。
増え続ける「不登校」ですが、子どもの学びの場をどう確保すればよいのか。
木村祥子解説委員です。

【増える不登校】

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小中学生の不登校はこれまでも年々、増える傾向にありましたが、昨年度は前の年度から4万9000人近く増えて、過去最多の24万4940人となりました。
小学生では77人に1人、中学生では20人に1人が不登校になっていて、状況は極めて深刻です。

【不登校の背景は?】

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不登校は複数の要因が重なる場合があるので、「これです」と断言することは難しいのですが、調査を行った文部科学省によりますと「コロナ禍での生活環境の変化や学校生活の制限が交友関係などに影響し、登校する意欲がわきにくくなっているのではないか」と分析しています。
また、不登校について詳しい大東文化大学の山本宏樹准教授は「コロナの影響で子どもたちはマスク生活が続き、部活動も満足にできなかったり、給食も黙食となったりして、様々な形で我慢を強いられている。大人と違って息抜きの自由度も少ないので、様々な形で圧力がかかり、不登校につながっていると考えられる」と指摘しています。

【フリースクールの現状】
不登校の子どもたちの受け入れ先の1つとして「フリースクール」があります。
その1つ、滋賀県彦根市のフリースクールでは不登校の急増によって利用者がこの1年あまりで5倍の25人に増えました。
このため、より広い施設に移転を繰り返していますが、保護者からの利用料だけではそうした経費や人件費はまかなえません。
フリースクールの運営自体を補助する国の制度はなく、クラウドファンディングなどでやりくりしているという状況で行政に支援を求めています。

【不登校の子どもたちのための学校】

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「不登校特例校」という学校、ご存じですか?
この学校は不登校の子どもたちのために特別な教育カリキュラムが組まれた学校なのです。
全国の10の都道府県に公立と私立の小・中学校と高校のあわせて、21校が設置されています。
その多くが東京や神奈川など、大都市圏に集中しています。
残念ながら北陸や中国地方には1校もありません。
「不登校特例校」の特徴は学習指導要領にとらわれず、子どもが抱えた事情に配慮して、例えば通常の学校より授業時間を減らしたり、内容を柔軟に編成できたりするなど、子どもたちが学びやすいように文部科学省が特別なカリキュラムを認めているのです。
民間のフリースクールなどと違って、文部科学大臣が指定した学校のため、正規の教育課程として認められ、卒業資格が得られます。

【不登校特例校の取り組み】
不登校特例校の1つで去年4月に開校した岐阜市立草潤中学校を取材しました。
この学校の全校生徒は1年生から3年生まで、あわせて43人です。
学校がひとりひとりの子どもたちに寄り添い、あわせていくことをモットーにしています。
ほとんどの授業をオンラインで配信しているため、保健室や自宅など好きな場所で受けることができます。毎日、登校できなくても家庭学習も「出席」として扱われます。
さらに、学校の施設にはさまざまな工夫も見られます。
図書室にはテントやハンモックも置かれ、学校という共同生活の中でも周囲を気にせず、1人になって落ち着ける環境を作りました。
また、地域の人たちとの交流も大切にしていて、この日はライオンズクラブなどの協力を得て、地元の歴史について学ぶ、フィールドワークが行われていました。
前の学校ではほとんど通えなかった生徒も「ここでなら」と通学できるようになったということです。

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開校して2年目となりましたが、昨年度の出席率はオンライン授業の参加による「出席扱い」を含めると85.4%、卒業生は全員が高校に進学しました。
生徒たちは「学校に行けなかった自分を否定せず、受け止めてくれた」とか「そのままでいいよと言ってもらえ、安心できた」と話しているそうです。
ただ、みなさんの中には、もしかしたら「子どもを甘やかせているのではないか」と思われている方もいらっしゃるかもしれません。しかしこの学校では「違う見方もある」と考えています。
草潤中学校の井上博司校長は「大人であれば、例えば今の場所が苦しかったら、違う場所を選ぶとか、いくつかの候補を知っている。しかし子どもにとっては最初の小学校や中学校が『世界のすべて』のように思い、うまくいかなかった時に『自分を責める』方法しかなくなってしまう。そんな時に自分を認め、大丈夫な場所があるということを『知る』ことが大切で、そこでの経験が『自信』となり、今後の『生きる力』につながっていくと考える。この学校がそのきっかけになりたい」と話していました。

【不登校特例校を増やすために】

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さて、気になるのは、どうしたら入学できるのか、授業料はどのくらいかかるのかだと思います。
草潤中学校は公立ですので、授業料は無料です。
一方、私立の不登校特例校の場合は学校によってまちまちですが、授業料がかかります。
また、草潤中学校の入学者は学校体験会への参加や面談などを経て決まります。
ただ、「岐阜市民」でないと入れません。
中には家族で引っ越して入学してきた生徒もいるということです。
文部科学省は「不登校特例校」についてこれまで広報活動が十分ではなかったとした上で、今後は取り組みを本格化させようと、来年度予算案の概算要求に初めて必要な経費を盛り込みました。
学校を設置したいという自治体に対して積極的にサポートしていくとしています。

【不登校の子どもを持つ保護者は】
ここまでは子どもたちの「学びの場」について考えてきましたが、
最後に不登校の子どもをもつ保護者について考えたいと思います。
不登校の親を支援しているNPOが10月、不登校の子どもを持つ親の精神状態や生活にもたらす影響について、初めてアンケ―トを行いました。
およそ570人から回答を得た結果をご紹介します。

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「不登校がきっかけで保護者に変化はありましたか?」という問いに対して複数回答で聞いたところ、
▽不登校の原因が自分にあるかもと「自分を責めた」が65%、
▽子育てに「自信がなくなった」が54%
▽孤独感・孤立感が52%などといった結果となりました。
この他にも「消えてしまいたいと思った」とか「うつなどの治療のため病院を受診した」などと、訴える保護者もいたということです。
アンケートを行ったNPO「登校拒否・不登校を考える全国ネットワーク」の共同代表を務める中村みちよさんは「全国の都道府県に『親の会』があり、一緒に気持ちを受け止めることができます。まずは親御さんが元気になって頂けるように、サポートしていくので、ぜひ、一度、足を運んで頂ければ」と話しています。

【広がる「不登校支援の輪」】
「多様な学びの場」、そして不登校の親と子を支援しようという取り組みは少しずつですが、広がってきています。実際に足を運ぶのは難しいという人のために、オンラインで相談をやっているところもあります。
また不登校を経験した人やその親などの体験談をインタビュー形式でまとめた冊子を作り、不登校の苦しさや不安を和らげてもらおうという取り組みをしているご夫婦もいらっしゃいます。
一歩を踏み出すのは勇気がいることだと思いますが、関心を持たれたところに一度、相談をして頂ければと思います。

(問い合わせ)
▼NPO「登校拒否・不登校を考える全国ネットワーク」
メールアドレス info@futoko-net.org

▼冊子 「雲の向こうはいつも青空」
金子純一さん あかねさん
【メールアドレス】beansnet@beans-n.com
【「びーんずネット」ホームページ】https://beans-n.com


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