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書店減少 どう対応? 業界は 作家や自治体は

高橋 俊雄  解説委員

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「読書の秋」。本屋に行ってみようと思ったら近くの店がなくなっている、という状況になっていないでしょうか。
人口の少ない地域に限らず、まちの中心部にある書店も閉店が相次いでいます。厳しい状況の中、書店はどうやって生き残りを図るのか。さまざまな動きをご紹介します。

【21年間で半減】

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全国の書店は、西暦1999年には2万2000あまり。これが2020年におよそ1万1000件と、21年間で半分に減っています(アルメディア調べ・出版科学研究所HPより)。
人口の少ない地域に限らず、まちの中心部にある書店も閉店しています。その一例ですが、札幌市ではJR札幌駅近くにあった札幌弘栄堂書店の2つの店舗が7月と9月に相次いで店を閉じました。また、岐阜市では中心部の大通りに面した老舗の書店、南陽堂がことし8月に閉店しました。

本屋では、本を手に取ってじっくりと選ぶことができますし、「こんな本が出ていたんだ」と偶然の出会いも期待できますが、そうした「豊かな時間が過ごせる場所」が、どんどんなくなっているわけです。

なぜこんなに減っているのか。個別の事情はさまざまですが、主な要因としては、読書離れが進むなかで、出版市場の縮小、すなわち本や雑誌が売れなくなっていることが挙げられます。

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出版科学研究所によりますと、出版物の推定販売額は、ここ2年ほどは電子出版の増加とコロナ禍の「巣ごもり需要」で多少盛り返していますが、雑誌の落ち込みに歯止めがかかっていません。1996年の1兆5633億円から2021年の5276億円と、この25年間で3分の1になってしまいました。
週刊誌や月刊誌はコンスタントな売り上げが見込めるので、その部数の減少は書店の売り上げに大きく影響していると考えられます。

【美容室やコインランドリーまで】
書店を取り巻く状況が急によくなるとは考えにくいので、本以外の商品を販売したり、作家のサイン会などのイベントを開いたりと、さまざまな取り組みで売り上げを確保することになります。

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例えば中国山地の山あいの小さな町、広島県庄原市東城町にある書店「総商さとう ウィー東城店」は、本や雑誌だけでなく、CDや文具、化粧品など幅広い生活用品を販売しています。さらには美容室が併設され、敷地内にはコインランドリーやパン屋まであります。
「こんなものがあれば」という地域住民の要望に応えていくうちに、サービスが広がっていったということです。
また、まちの「よろず屋」として高齢者などからのさまざまな相談に応じていて、最近では例えば「DVDプレーヤーの使い方が分からない」「写真を今すぐ現像したい」といった問い合わせがあり、手助けをしたということです。
本屋が地域のコミュニティーの核になることで生き残りを図っている好例だと思います。

【「秋の読書推進月間」新設】

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出版業界も手をこまねいているわけではなく、この秋、出版・取次・書店が一体となって、新たなキャンペーンを始めました。先月27日にスタートした「秋の読書推進月間」です。「BOOK MEETS NEXT」と名付けられました。
今月23日までの28日間、抽せんで賞品が当たるスタンプラリーを行ったり、書店ごとのイベントを取りまとめてホームページで紹介したりと、とにかく書店に足を運んでもらうのがねらいです。
また、経済的に本を買う余裕がない子どもたちにも本に親しんでもらおうと、子ども食堂などに本をそろえる「本だなプロジェクト」を立ち上げました。今年度は全国の10か所に本棚を置き、読み聞かせを行うということです。
読書推進月間の初日には東京でオープニングイベントが開かれ、俳優で作家の中江有里さんと「魔女の宅急便」などで知られる作家の角野栄子さん、それに直木賞作家の今村翔吾さんが、書店や読書の魅力について語りました。

【119日かけて全国行脚】
この時に登壇した今村翔吾さんですが、ことし、並外れた行動力で全国の書店を応援する「旅」を行いました。

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今村さんはことし1月に直木賞を受賞した際、「全国の書店を回って応援したい」と宣言し、特注の車で書店や図書館、学校などを訪問してサイン会や講演会を開いてきました。
訪れたのは47都道府県の271か所。ことし5月から9月にかけて118泊119日、一度も自宅に帰らず各地を回ったということです。
この間も連載の締め切りはやってきます。車の座席に机を据えつけ、移動時間を執筆にあてたということです。
最終日の9月24日には、デビュー作ゆかりの地、山形県新庄市で多くの人たちの出迎えを受け、「出版は、本は、まだ死んではいない。仮に廃れていくものだとしても、最後の一人になるまであらがい続けようという覚悟が決まった旅でした」と語りました。
車の車体は、訪れた先の書店員などの寄せ書きで埋め尽くされ、
「本との出会いを大切に、これからもまっすぐに本を届けます」
「一緒に書店を盛り上げられるよう私も頑張ります」
などといった言葉が記されていました。
ここまで徹底した書店回りはなかなかできるものではありませんが、本の書き手や著名人が書店や本のPRに協力するという動きは、さらに広がっていくように思います。

【まちの活性化に「本の力」を】
こうした取り組みの一方で、書店や本をまちの活性化につなげようという動きも見られます。

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福井県敦賀市のJR敦賀駅前には、「ちえなみき」という本屋が9月1日にオープン。北陸新幹線の延伸を見据えた再開発にともなって市が整備した「公設書店」で、運営には東京の書店が当たっています。
市のねらいは「にぎわい作り」。本屋は誰でも気軽に立ち寄ることができて集客効果が大きいと見込んでいます。
小さい子ども向けのコーナーを充実させたほか、雑誌や新刊書は置かず、専門書を多くそろえた独自の棚作りをしています。
この2か月でおよそ7万人と、想定を上回る人が訪れているということです。

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一方、本のイベントでまちの中心部ににぎわいを作り出そうという取り組みもあります。
先月29日と30日に前橋市中心部の商店街で初めて開かれた「前橋ブックフェス」。
地元出身のコピーライター、糸井重里さんが発案し、前橋市や商工会議所などを巻き込んで実現させました。
「不要になった本を送ってほしい」と全国に呼びかけて本を集め、訪れた人たちは、参加費1000円を払うことで気に入った本を自由に持ち帰ることができました。
ここでも市街地の空洞化が大きな課題となっているのですが、主催者によりますと、2日間で延べ4万8000人が訪れたということです。

【本屋は「文化のインフラ」】
行政がつくった本屋は青森県八戸市などにもありますし、富山県立山町では、町が家賃の補助などを行って、中心部に出店する本屋を募集しています。
まちに本屋を誘致したり、まちづくりに本を生かしたりする動きは、さらに増えていくかもしれません。
本屋がなくなるということは、ちょっと大げさかもしれませんが、その地域の「文化のインフラ」が1つ失われてしまう、ということです。
書店みずからの努力は欠かせませんが、それだけでなく、幅広いサポートで、本を気軽に手に取ることができる環境を残してほしいと思います。


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