政府は、先週、新たな総合経済対策を閣議決定しました。大きな柱が、家庭のエネルギー料金の負担を和らげる対策です。今井解説委員。
【エネルギー料金の負担を和らげる対策。電気、都市ガス、ガソリン。それに灯油が対象ですね】
はい。今回、なぜ、エネルギーなのかというと、9月の全国の消費者物価指数。ロシアのウクライナ侵攻による原材料価格の高騰や円安の影響で一年前と比べて3%上昇しました。このうち、電気代や都市ガス代は20%台の大幅な上昇。ガソリンと灯油も、政府が補助金を出して価格を抑えていますが、それでも、それぞれ7%と18.4%と大幅に上がっています。エネルギー価格の上昇が際立っているのです。
【重い負担ですよね】
しかも、こうしたエネルギーは、生活に欠かせません。家計の消費支出のおよそ7%を占めていて、値上がりしてもなかなか減らせません。このため、補助金で急激な値上がりを抑えることで、家庭の負担を和らげようというのが政府の考えです。
具体的に見ていきましょう。まず、電気代。
【値上がりしていますよね】
はい。東京電力が試算しているモデル世帯の電気料金の推移です。このように、今月分は、1年前より1700円あまり。24%上がっています。12月も同じ料金です。
【9月から横ばいになっていますね】
国から認可をもらっている上限に達してしまっているからです。今、すべての大手電力会社が同じ状況です。調達する燃料の価格は上がっていますが、その分を販売価格に転嫁できず電力会社は苦しい状況です。このため、先週、大手電力会社が、相次いで、来年4月以降、今の上限を上回る値上げをする方向で国に認可を申請する。あるいは検討するという方針を打ち出しだしました。ほかの電力会社にも広がる可能性があります。このため、政府は、「春には、今より、20%から30%料金が上がることが想定される」として、その分を、補助金を出すことで肩代わりし、急激な上昇を抑えようと対策を打ち出しました。
【どのくらいの支援になるのですか?】
電力の使用量に応じて家庭に請求される料金を1キロワットアワーあたり7円補助します。大手だけでなく、規制緩和で新規参入した電力会社と契約している家庭も同じです。政府は、月に400キロワットアワーを使用する標準的な家庭の場合、7円×400キロワットアワーで2800円。本来の料金のおよそ20%分が補助されるとしています。補助金は現金でもらえるわけではなく、電力会社から値引きされた後の料金が請求され、その値引き分が政府から電力会社に払われる形です。
【では、申請する必要ないのですね】
はい。自動的に値引きされることになります。
次に、都市ガス。標準的な家庭の使用量は30立方メートルと想定されていますが、1立法メートルあたり30円の支援を行います。ですから、30×30で、900円が値引きされる計算です。本来の料金から10%程度の値引きになるとしています。
政府は、電気料金とガス料金への支援策。いずれも、来年1月分から始めたいとしていています。先ほど、大手電力会社の値上げの方針は、来年春からと言いましたが、冬は寒いので、たくさん電力を使います。その段階から少しでも負担を和らげようという狙いです。
【冬場は特に電気代がかさみますので、助かりますね】
助かります。ただ、そのうえで、政府は、脱炭素の流れに逆行しないよう、電気代について来年9月には、補助幅を縮小するという方針を示しています。都市ガスも同じ見通しです。
【ガスでいうと、都市ガスでなく、プロパンガスを利用している家庭もありますよね。こちらは、値引きはないのですか?】
いわゆる家庭用のLPガスですね。およそ40%の世帯が、LPガスを利用していますが、こちらは、今回、支援が見送られました。つまり、値引きはありません。
【なぜですか?】
政府があげている理由は2点。
▼ まず、LPガスの原料は、都市ガスの主な原料とは違っています。都市ガスの原料ほど高騰していないことなどから、LPガスの価格の上昇率は9.7%と、20%台の電気や都市ガスより緩やかになっているという点。
▼ そして、今回の補助金は政府が事業者に出す形になる。つまり、事業者が、政府に申請の手続きをしたりしなければなりませんが、およそ1万7000社にのぼるLPガスの事業者の多くが零細な事業者で、事務作業の負担が重くなるということ。
このため、今回、補助金による値引きは見送る。その代わりに、ボンベにガスを詰める作業を自動化するなど、コスト削減をする事業者に別途、補助金を出して、これ以上のLPガスの値上がりを抑えよう。そうした狙いの対策をすることにしています。
【そして最後に、ガソリンや灯油への補助金。これは、今もありますよね】
はい。その延長です。もともと、年末までの期限で、
▼ ガソリンの小売価格について、最大1リットル=35円分補助をして、全国平均で168円程度に抑える。それでも、168円程度に抑えることが難しくなった場合、超えた分の半額を補助する。という支援をしています。
▼ これを来年9月まで延長します。灯油への支援策も同じ仕組みです。
ただ、こちらも
▼ 1月以降、段階的に補助の上限を緩やかに調整する。そして、来年6月以降は、補助を段階的に縮減する。という方針が出されました。
具体的には、
▼ 来年1月以降5月にかけて、上限の35円を25円まで少しずつ減らす。その上で、6月以降もさらに補助を減らしていく。こうしたことが検討されています。というのも、今年1月に補助を始めて、この年末までに3兆円あまりと、巨額の国の負担がかかっているからです。実際どうなるかは、原油価格の動向を見ながらの判断となりますが、少しずつ、ガソリン価格が上がっていく可能性があるということです。
【家計への支援。全体としてどのくらいの効果があるのでしょうか?】
政府は、電気、都市ガス、ガソリン、灯油への支援で、消費者物価の上昇率を1.2ポイント分押し下げ、来年1月からの9か月間で、標準的な家庭の場合4万5000円(1か月5000円)の負担が減ると試算しています。
【値上げに苦しんでいる家計にとっては、一定の助けになりますね】
助かります。ただ、国が巨額の借金を抱えている中、こうした支援で、さらに借金を増やすことになります。それだけに今回、所得制限なしで、ゆとりのある家計も一律に支援する補助のあり方について、経済の専門家からは
▼「そもそも本当に厳しい家庭に絞った支援が必要だったのではないか」
▼「予定通り、補助を縮小できるのか」
▼「結局は一時的な痛みどめにとどまる」といった指摘があがっています。
【いつまでも、支援に頼ることはできないということですね】
今後のエネルギー価格がどうなるかは、ウクライナ情勢や為替による面もありますが、ずっと支援を続けるわけにはいきません。ですから、
▼ 省エネ型の家電製品の普及を一段と進めたり、家の断熱性を高めるリフォームを後押しする。再生可能エネルギーの割合を高めるなど、社会全体を輸入の化石燃料に頼らない構造にしていくこと。
▼ そして、物価を上回る賃金の引き上げを実現し、多少の値上げには耐えられる家計にしていくこと。
経済対策で、一時的に家計を支えている間に、家計を抜本的に強くする対策にも力を入れ、きちんと成果を出していくことが何より大事だと思います。
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