NHK 解説委員室

これまでの解説記事

老いるマンション~管理の見える化を

松本 浩司  解説委員

「みみより!くらし解説」きょうのテーマは「老いるマンション」です。
建物の老朽化と住民の高齢化で管理不全に陥るマンションの増加が心配されていますが、管理状況を評価して公表することで管理を促そうという取り組みが始まっています。

m221028_002.jpg

マンションの老朽化はどのくらい進んでいるのでしょうか?

m221028_007.jpg

建築されて40年以上経ったマンションは115万戸あって、マンション全体の17パーセントを占めています。10年後には2倍以上になると見られています。
40年以上経ったマンションでは
▼漏水や雨漏りが起きているところが40パーセント、
▼外壁等の剥落が18パーセント
というデータもあって問題を抱えているところが少なくありません。
管理組合が機能せずに荒れてしまうマンションがある一方、管理がしっかりしていれば鉄筋コンクリートのマンションは100年以上持つとされていて、古くても健全なマンションも多いのです。

そこで管理不全のマンションを減らそうという2つの取り組みが始まっています。
▼ひとつはマンションの管理状況を評価して公表する制度。
▼もうひとつは管理状況の届け出を義務付ける取り組み。

m221028_008.jpg

管理状況の評価制度はふたつあって、いずれも4月にスタートしました。
ひとつは国の「マンション管理計画 認定制度」。管理がしっかりしたマンションを自治体が認定する。
管理組合が申請し▼長期修繕計画が適正に立てられているか、▼修繕積立金が低すぎないか、▼また他の目的に流用されていないかなど17の基準をすべて満たすと認定されます。

もうひとつはマンション管理会社で作る一般社団法人「マンション管理業協会」が運営する「マンション管理 適正評価制度」。こちらは▼管理体制、▼建物・設備、▼財務基盤、▼耐震性など5分野、30項目を評価して100点満点の点数で評価します。

似た制度が同時にスタートしたのですが、どこが違うのでしょうか?

m221028_010.jpg

▼「認定制度」は適正管理に必須の基準を満たしていることに、いわば公的な「お墨付き」を与えるもの。

▼「適正評価制度」は中古マンションを購入する人の参考になるよう、総合評価を☆の数で示し、分野ごとにも点数化されていて、大手の不動産サイトでも掲載が始まっています。
それぞれの制度を活用しようというマンションを取材しました。

m221028_01.jpg

国の認定制度で全国で最初に認定を受けた東京・板橋区のマンションです。
建築されてから48年、およそ100世帯が暮らしています。
このマンションは入居直後から管理組合が自分たちで管理を行ってきました。

最初の大規模修繕のとき資金が不足した経験から修繕積立金を増額。
以降は増額をせずに12年ごとに大規模修繕工事を行い、詳細な記録を残して引き継いできました。

去年、長期修繕計画を大きく改定し、築80年まで使うことを想定し、今後の大規模修繕費用だけでなく解体費用も見込んで積み立てています。

m221028_02.jpg

マンション管理組合の篠原満前理事長は「自主管理を47年やってきたが国の制度に認定されたことで間違いなく正しいことをやってきたんだということがわかった。次世代の若い方が理事になったときにいままでやってきたことが間違いじゃなかったと継続してくれればいいと思う」と話しています。

m221028_03.jpg

一方、こちらはマンション管理業協会の「適正評価制度」の評価取得を目指している埼玉県・富士見市のマンションです。建てられて44年。2棟に60世帯が暮らしています。

これまで簡単な規約をもとに3回、大規模修繕を行ってきましたが、「適正評価制度」ができたことから高い評価を得ようと、専門家に依頼し規約と長期修繕計画を全面的に作り直しました。
さらに評価点数があがる耐震診断も受けました。

m221028_04.jpg

マンション管理組合の志賀昭成理事長は「評価を受けることで資産価値を守るとともに住民の管理についての意識も高まると期待している」と話しています。

これらの制度で認定・評価を受けたマンションはまだ少ないのですが、増えて行けば「マンションは管理で買え」と言われるように中古マンションの購入を検討する際に重要な指標になると考えられます。

次に管理不全のマンションを減らすもうひとつの取り組み、届け出の義務付けについてです。
名古屋市は今月から届け出義務化を始めました。東京都や所沢市に次ぐものでその取り組みを見ていきます。

m221028_015.jpg

名古屋市には5780の分譲マンションがありますが、管理状況の調査を行ったところ
▼管理組合がないというところが2パーセント、
▼長期修繕計画がないというマンションが20パーセント近くありました。
しかも回収率は半分で協力してもらえないところが多く、管理不全の恐れのあるマンションが少なくないと危機感を持ちました。

このため実態を把握したうえで助言や支援を行おうとマンション管理組合に届け出を義務化しました。
内容は▼長期修繕計画の内容や▼修繕積立金の額や集め方、▼大規模修繕の状況など31項目。

届け出たマンションに対しては
▼修繕工事の融資への利子補給や
▼マンション管理士を管理組合の役員として派遣するなどの支援を行います。

一方、届け出ない場合、罰則はないがマンション名を公表することができることになっていて、ほかの自治体より踏み込んだ対策になっています。

m221028_05.jpg

名古屋市名東区のこのマンションは築38年。8階建てで16世帯が入っています。
大規模修繕は過去2回行っていますが長期修繕計画は立てていませんでした。
そこで名古屋市に届け出をしたうえでマンション管理士の派遣を受け、いま長期修繕計画の作成を進めています。修繕積立金の不足で値上げが見込まれています。

m221028_06.jpg

管理組合の小池三洋理事長は「よく『老いるマンション』と言われるが、私どもは建物と住んでいる人も高齢化しふたつの意味で老いるマンションかなと思っています。お金がないとやっていけないので、まず規約を改正したうで適正な修繕計画ならびに積立金・管理費もきちんと確保できるようにしていきたい」と話しています。

うちのマンションは大丈夫か、と不安に感じる人はどうしたらよいのでしょうか?

m221028_017.jpg

多くの自治体で窓口を設けるなど相談に応じています。また各地のマンション管理士会、マンション管理センター、マンション管理業協会などでも相談に応じています。
住宅金融支援機構がホームページで、マンションの規模や築年数に応じて
▼大規模修繕に必要な費用や▼そのための修繕積立金額などを試算できるシミュレーションを提供していて参考になります。

マンションにお住まいの方で管理規約や長期修繕計画を知らないという方は、まず今の管理がどうなっているのか、関心を持つことが安心につながる第一歩だと思います。


この委員の記事一覧はこちら

松本 浩司  解説委員

こちらもオススメ!