NHK 解説委員室

これまでの解説記事

相続手続き 元気なうちに

山本 恵子  解説委員

m221025_002.jpg

高齢の親御さんがいらっしゃる方の中には、亡くなったあとの手続き、どうしたらいいかと考えている方も多いと思います。今回は、シリーズ「地域発」として、名古屋放送局の山本恵子解説委員がお伝えします。

わたしは、2年前に父を亡くし、葬儀や相続の手続きを自分でしました。
家族が亡くなったとき、お葬式が大変というイメージがありますが、実はその後の相続の手続きが一番大変でした。

手続きを全部終えるまでに8ヶ月かかり、手続きの多さ、複雑さ、やってもやっても終わらないので、記録として「#相続手続きは続くよどこまでも」という日記を書いていたぐらいです。

そこで、この体験を元に、親が元気なうちに聞いておけば助かったことや、準備しておけばよかったことをお伝えしたいと思います。

●手続きは100以上!?

家族が亡くなったあと、行わなくてはならない手続きは、人によって違いますが、数十から100以上あると言われています。

m221025_003.jpg

こちらにその一部をまとめました。
期限も亡くなってから1週間、2週間、3ヶ月、10ヶ月以内と決められているものも多く、手続きする先も、市区町村の役所、税務署、年金事務所、法務局、金融機関とさまざま、必要な書類も多岐にわたります。

m221025_005.jpg

例えば、まず、亡くなったあと、市区町村の役所で1週間以内に行わなくてはならないのが、
▼死亡届の提出、▼火葬許可申請書の提出など。

その後、2週間以内に、▼世帯主の変更届や▼健康保険の資格喪失届の提出などの手続きが必要です。

m221025_006.jpg

家族を亡くしたばかりの遺族が、役所の中のいくつもの窓口を回って手続きすることが必要なため、特に高齢の方には、負担が大きいと、自治体の中には「おくやみ窓口」を設けて、ワンストップで手続きを行っているところも増えています。

m221025_008.jpg

また、同じく2週間以内に行わなくてはならないのが、
▼年金受給停止のための手続き、年金受給権者死亡届の提出です。
こちらは、年金事務所に行く必要があり、行く前には予約が必要です。
年金証書や戸籍謄本、死亡診断書や、マイナンバーカードなどが必要です。
父はマンナンバーカードを作っていなかったので、個人番号の通知カードが必要で、探したのですが見つからず、困りました。ない場合は、個人番号が記載されている住民票でもいいそうです。

m221025_010.jpg

●やっておいてほしいこと①「保管場所を聞いておく」
そこで、まず、やっておいてほしいことは、保険証や免許証、年金証書やマイナンバーカードなど、手続きに必要なものは、普段どこに入れてあるのか、保管場所はどこか決めて、それを聞いておくことです。

このあとも、公共料金や固定電話・携帯電話の名義変更や解約、必要な人は、所得税の準確定申告などさまざまな手続きがあります。

そして、手続きの中で、何より一番大変だったのが、10ヶ月以内に行う、「相続税の申告」です。申告するためには、相続するもの、つまり、土地や預貯金など、財産がどこにいくらあるのか、洗い出しが必要です。

●やっておいてほしいこと②「財産目録を作る」
そこで、元気なうちにやっておいてほしいことの2つ目は「財産目録」を作っておくことです。土地や建物などの不動産、預貯金や保険、証券、住宅ローンなどの負債も含めて、相続する財産は何か、調べて、一覧にまとめておいてもらう、もしくは、一緒にまとめておく。

相続に詳しい税理士の方に伺ったところ、株券や金、それにゴルフ会員券などをしまったまま自分でも忘れているケースもあるので、財産目録を作ることは、忘れていた財産を思い出すことにもつながるそうです。
そして、この、「財産目録」で重要なのが、預貯金だったら、銀行、支店、口座もリストアップすることです。

●やっておいてほしいこと③「使っていない口座は解約を」
ここで、やっておいてほしいことの3つ目。もし使っていない口座があれば、解約しておくことをおすすめします。
相続手続きでは、支店、口座ごとにいくらあるのか、一つ一つ残高証明書を申請して、発行してもらう必要があります。

父の場合、4つの金融機関の6つの支店に口座があったので、それぞれ、平日昼間に休みを取って手続きに行く必要がありました。

ある銀行に手続きに行ったら、残高証明の発行に550円、解約に550円、あわせて1100円の費用がかかったのですが、口座の残高が816円で、とほほ、ということもありました。

m221025_019.jpg

また、金融機関での相続の手続きには、▽その人が生まれてから亡くなるまでの戸籍謄本と、
▽相続人全員の戸籍謄本、▽相続人全員の印鑑証明書と実印、
▽遺産分割協議書など、必要な書類が多く、これを全部揃えた上で、
金融機関に行かなくてはならず、また、その都度、書類の記入をするのも大変でした。
元気なうちに、本人が、使っていない口座は、解約しておくと、家族が助かると思います。

●やっておいてほしいこと④「ファミリーヒストリーを聞いておく」
また、相続の手続きに必要な書類を集めるのも大変です。
特に時間がかかるのが、生まれてから亡くなるまでの戸籍謄本を集めることです。

遺言がない場合は、配偶者と子どもなど、現在の家族以外に相続する人がいないかを確認するためです。
父の場合、今、住んでいる自治体には、引っ越してきてからの戸籍しかなかったため、生まれた場所の役場まで、母に取りに行ってもらいました。
その戸籍には4代前の天保13年生まれのご先祖まで載っていて、びっくりしました。

遠くの場合は、郵送してもらうこともできますが、そもそも、どこで生まれ、いつごろ、どこに転居したのか、知らないと取り寄せられないので、元気なうちに、ファミリーヒストリーを聞いておくといいと思います。

●デジタル遺産に注意
また、最近、問題になっているのが「デジタル遺産」です。
インターネット銀行などを利用している人もいると思います。

取り引きや利用料などの通知が郵送されていればわかりますが、なければ、プロバイダーも、どの業者と契約しているかはわかりません。
また、携帯電話やスマホで利用しているサービスやアプリも、電話を解約しても自動的に解約できないものもあります。

まずは、そもそも、パソコンやスマホのパスワード、そして、何をどこと契約しているのか、IDやパスワードがわからないと亡くなったあと、解約できないといったトラブルになる場合もあります。
書いたものの保管場所を決めておくといいと思います。

なかなか言い出しにくい話だと思いますが、親御さんが元気なうちに、話し合いながら、準備を進めてもらえたらと思います。

今回紹介した手続きについては、人によって必要なもの、揃える書類も異なりますので、お住まいの市区町村役場や利用している金融機関などにご確認ください。

●オンライン化、ワンストップ化 急いで実現を!
一方で、少子高齢化で、遺族がこうした複雑な手続きを行うこと自体が、難しくなっているという現状もあります。

デジタル庁でも、死亡や相続に関する手続きのオンライン化・ワンストップ化の検討が行われています。
こうしたことこそ、急いで実現していってほしいと思います。


この委員の記事一覧はこちら

山本 恵子  解説委員

こちらもオススメ!