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里親月間 子どもたちに安心な家庭を

米原 達生  解説委員

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10月は里親月間です。児童虐待や経済的な理由で親と一緒に暮らせない子どもを、養育する里親。しかし、日本ではなり手が不足し、国際的にも、こうした子どもを養育するのが施設に偏っていると批判されています。里親の知られざる苦労と、取り巻く現状についてお伝えします。

■里親制度とは?

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里親制度は、親と一緒に暮らせない事情のある子どもたちが、暖かい家庭で暮らせるように作られた制度です。
事情とは、児童虐待や経済的理由などですが、児童相談所に保護された子どもの多くは児童養護施設で養育されてきました。ただ、施設にはたくさんの子どもがいますし、スタッフはシフトで入れかわって勤務します。
普通、子どもには安心できる家と親がいて、幼い頃には甘えたり、時にはわがままを言ったりしますが、そうやって身近な人に対する愛着を形成していきます。被虐待児や親がいない子どもたちが、人との関係を作りやすいようにということで、2016年の改正児童福祉法に「施設よりも、家庭と同じような環境」ということが明記され、里親への委託が推進されるようになりました。里親と、ファミリーホーム(里親のような存在の大人と数人の子どもが家庭で生活する)で暮らす子どもの数は、少しずつ増えて去年3月の時点で7700人余り。ここ10年で1.8倍に増えています。

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里親と聞くと、多くの人が「子どもがほしい人が養子縁組をして育てている」様子を想像しがちですが、そうではありません。里親にはいくつか種類があって、将来の養子縁組を前提とする「養子縁組里親」もありますが、一番多いのは、「養育里親」といって、親権は生みの親が持ったまま、親が引き取れるまで、あるいは18歳になるまでの一定期間、一緒に生活するものです。
里親になった理由を聞いた厚生労働省研究班の調査によりますと、子どもがほしい人も多いのですが、里親の社会的な意義や、虐待や孤児の問題への関心から里親になっている人が多いことがわかります。実際に話を聞いてみると、子どもが、当初は食べなかった食事を「おいしい」と言えるようになったり、学校を休みがちだったけど「友達ができたよ」と報告してくれたりした時に、「子どもの成長の喜び」と、「社会貢献への誇り」を感じるということです。

■里親になるにはどうするの?

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原則として配偶者がいることや経済的な安定が求められますが、年齢について一律の上限はありません。児童相談所に連絡を取って、面接と数日間の研修、児童相談所からの家庭訪問を受けて、子どもを養育するのにふさわしいと確認されれば認定・登録されます。子どもが委託されれば、里親手当と生活費合わせて月に15万円程度が自治体から支給されます。

■まだ低い里親委託率

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里親に委託される子どもが増えているとはいっても、その割合はまだ低いのが現状です。里親と施設で暮らす子どもの数を比べてみると、施設のほうが圧倒的に多くて、里親などへの委託率は2割程度にとどまっています。国が掲げている数値目標は、乳幼児が75%、小学生以上は50%で、最も近い目標として3歳未満については再来年度までの達成を目指しています。現状では達成は難しいと言わざるを得ません。

里親などへの委託率は国際的にも低く、国連の「児童の権利委員会」からもたびたび指摘を受けています。3年前にも「6歳児未満の速やかな脱施設化と里親機関の設置の確保」を求められています。

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そして実は国内の自治体でも差が大きくなっています。都道府県別に10%ごとに区切って見てみたのが、この地図です。最も高かったのが新潟県の46.5%、低かったのは宮崎県の10.6%でした。政令市だと、新潟市、福岡市で半数を超えていますが、目標を達成することを考えると全体的な底上げが必要です。

■なぜ里親への委託が進まないのか
なかなか里親への委託が進まないのには、「里親の数自体が絶対的に足りていないこと」、そして「里親に委託することを『実の親』が反対すること」があります。ただ、もう一つ関係者が口をそろえるのは、里親には大変な苦労があるのに、支援が足りていないということです。

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里親が子どもと一緒に生活を始めてからまず直面するのが、子どもの「試し行動」です。里親の愛情を確かめたくて、暴れて物を壊したり、ご飯を食べなかったり、ひどいことを言ったりして、困らせるようなことをするんです。ほとんど全員に表れ、3か月から6か月続くこともあると言われていますが、これを受け止め続けなければなりません。
また、虐待を受けた子どもは心が深く傷ついて、人と関わるのが苦手なケースも多く、学校で同級生とトラブルになったり、きちんと授業を聞くのが困難だったりします。そのたびに謝りに行ったという話も里親からは聞きます。
生活に必要な手続きを、地域の人たちが知らないために大変な時もあります。医療機関には健康保険証の代わりに自治体から配布された「受診券」を持って行くんですが「受診券なんて知らないと言われて診療を拒否された」とか、子どもの金融機関の口座が必要になっても「親子以外の口座は作ったことがないと断られた」、こうした話は枚挙にいとまがないんです。

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ここで疲弊して子どもから「こんな家にいたいわけじゃない」といわれて「じゃあ出ていけ」となることは普通の家でもあると思うのですが、里親がこれを言ってしまうと、取り返しのつかないことになります。「里親不調」と呼ばれていますが、関係が悪くなり委託を解除するということも一定の割合あります。里親と子どもの関係は、血縁も法律的な関係も生まれてからの歴史もない、もろいものです。里親不調は里親と子ども双方に大きなダメージなので、そうなる前に支援が必要なのですが、児童相談所も忙しくてそれが十分ではないわけです。

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その結果として起きている「象徴的なこと」だと私が思うのが、「登録している里親」に「子どもが委託されない」未委託の問題です。空いている里親がいても、児童相談所は経験が少ない里親には任せられないと考えて委託しない、里親側も慎重なケアが必要な子どもの受け入れに自信が持てない、その結果、里親と子どものマッチングができないということが起きているわけです。去年3月の時点で、登録された里親1万4000世帯のうち子どもを委託されていない里親は6割以上。未委託の割合は自治体によっては8割に上っています。里親制度に詳しい専門家は「意欲のある未委託の里親や、ケアが必要な子どもを受け入れる里親に対して、自治体はもっと研修や支援を充実させて、里親を育成・確保していく必要がある」と話しています。

■求められる里親支援とは
ではどうすればいいのか。委託率が高い自治体にヒントを得ようと、トップ3の自治体に聞きました。

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共通しているのは、最初の面接から、実地での研修、子どもとのマッチング、子どもを迎えた後の生活まで、行政か、委託を受けた支援機関の専門のスタッフが伴走するようにして関わっていることです。行政だと担当者も毎年変わりがちですが、同じスタッフが継続してかかわることで、子どもと里親のマッチングも的確になります。生活が始まってからも息抜きのために子どもを宿泊させたり、学習支援や、障害の相談などといったサービスにもつないだりしています。

子育てというものは、そもそも大変です。里親と子どもはある意味でイレギュラーな家庭なので、より踏み込んだ支援と地域の理解が必要です。里親月間の10月は、制度について知ってもらう催しが各自治体で開かれています。里親になることに関心のある人は是非話を聞いてほしいと思います。でも、里親になることを考えていない人にも、親と暮らせない子どもを支える家庭があるということを、この機会に知っていただきたいと思います。

(米原 達生 解説委員)


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