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どうする私道管理 新ガイドライン

清永 聡  解説委員

個人や法人が所有する「私道」と呼ばれる道路の管理についてお伝えします。
法務省はこのほど、特に所有者不明の人がいる私道の補修工事などを円滑に行えるようガイドラインを4年ぶりに改訂しました。どういう点が変わったのでしょうか。

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【私道が抱える問題は】
Q:この私道の管理については、ガイドラインができた4年前も一度番組で紹介しましたね。
A:民法という法律の一部改正に伴って、ガイドラインも新しくなりました。今回とりあげる「私道」というのは、国道や県道と違って、個人など「私人」が所有する道路のことです。日常の管理も所有している人が行うため、住民の間でトラブルになることもあるそうです。特に最近は、空き家で持ち主の所在が分からないという事例が増えています。所有者不明の家が一部でもあると、対応に苦慮することも多いということです。
Q:そこでガイドラインが作られたんですね。

【私道管理:基本は「保存」「管理」「変更」】
A:まずは、前回のおさらいです。いずれも同じ持分を共同所有している場合で、事例として紹介します。所有の形態やそれぞれの持ち分によっても現実の対応は異なりますので、紹介する事例は1つのケースとして参考にしてください。

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ここに並んでいる3軒で共同所有する私道があります。持ち分はそれぞれ3分の1ずつです。ところが岩淵さんが一部に穴が開いているのを見つけました。このままだと通行している人が転んでケガをするかもしれません。
こういう場合、穴の補修は自分だけでできるでしょうか。
Q:これは、覚えています。穴を補修するくらいは1人でも可能でしたよね。

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A:はい。ガイドラインによると、これはあくまでも現状を維持する「保存」と呼ばれる行為なので、民法上は単独つまり1人でも共有者が補修を行うことができるそうです。

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では、2問目です。今度はあちこちに穴が開いて、この際、道路を全部舗装しなおそう、と考えた場合は、どうでしょうか。
Q:穴だらけですね。これはどうなるのでしょう。

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A:「全部舗装しなおす」ということは、将来、支障が出ることをあらかじめ防ぐ「管理」にあたるとしています。ガイドラインによると、過半数の同意が必要だとしています。この場合は、共有する3軒のうち2軒が賛成すれば、過半数ですので舗装はできると考えられます。

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さらに、こういう場合はどうでしょうか。私道が坂道です。この坂道を階段にしたい、と思いました。
Q:これも先ほどの舗装と同じなら、過半数の同意でしょうか。

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A:いいえ、これは、道路に大きな「変更」を加えるため、今度は、全員の同意が必要になるとしています。
Q:大きく分けると、「保存」「管理」「変更」の3つですね。
A:はい。「保存」は単独でできます。「管理」は過半数の同意。「変更」は全員の同意です。この3つがこれまでの基本です。

【自治体の補助制度には違いも】
Q:ところで、こうした補修の費用も、私道は所有者が負担することになるのでしょうか。
A:はい。ただ、私道でも公道に接している場合などは補助や助成の制度を設けている自治体が多くあります。お住いの自治体に相談をしてみてください。
ただし補助や助成は所有者全員の同意を条件にしていることもあります。ガイドラインの条件とは違うケースがあるので、注意が必要です。

【見直し①「軽微な変更」新設】
Q:今回の見直しもこの「保存」「管理」「変更」の部分なのでしょうか。
A:見直しの1つはこの「変更」についてです。

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例えばこんなケースです。私道の両脇に木が植えられています。枝が伸びてきて、通行の邪魔になってきました。管理が大変ですので、伐採したいと思いました。これまでこの行為は「変更」でした。
Q:つまり全員の同意が必要ということですね。こういう樹木の管理はたいへんですね。でも、こちらの1軒が空き家で所在不明です。
A:こういう所在不明の家があると、「変更」の場合、同意を得ることができないので、「全員の同意」とはならずに工事ができません。つまり「変更」は難しくなるということです。ところが、伐採ができないからといってそのままにしておくと、どんどんと樹木が生い茂ります。通行することも危険になります。

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そこで民法が改正され、ガイドラインも見直されました。その1つは全員同意が必要だった「変更」を「軽微な変更」と「変更」に分け、「軽微な変更」は過半数の同意で工事できるようになりました。
このケースは今後「軽微な変更」にあたります。1軒が所在不明でも残り2軒で過半数の同意になりますから、樹木を伐採できることになります。

【見直し②裁判所の申し立ての仕組み新設】
Q:工事に取り掛かりやすくなるのですね。
A:ただし例えば先ほど紹介した坂道に階段を作る場合などは、やはり「軽微な変更」とは言えません。この場合、これまでと同様に全員の同意が必要です。
Q:でも、所在不明の空き家があったらどうするんですか。

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A:そこで、もう1つの見直しです。所有者不明の家がある場合、裁判所に申し立てをして決定をもらうと、工事に取り掛かることができるようにするという仕組みを設けました。これで所有者不明の家があっても工事できるように道筋を整えたわけです。

【見直し③他人の敷地から伸びる樹木は】
Q:新しいガイドラインは大きく分けると、これまでと同じ「保存」「管理」「変更」。そして新たに「軽微な変更」ができたということですね。
A:もう1つ、こんなケースを見てみましょう。

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また樹木が生い茂っているのですが、今度は木が所在不明の空き家の敷地から伸びています。枝が道路にせり出していて困っています。
Q:これはよくありますね。はみ出したところは切っても良いのではないですか?
A:実は、現在は勝手に他人の敷地から伸びる木を切ることはできません。どうしても切りたい場合は、枝を切るごとに、どこにいるか分からない所有者を相手に裁判を起こして、確定した上で、さらにそこから民事執行という手続きが必要でした。
Q:枝を切るたびごとに裁判を起こすなんてできません。そんなことをしていたら、また枝が伸びてしまいます。

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A:現実的ではありませんよね。そこで民法改正で今後所有者不明の場合、はみ出した木の枝はほかの共有者が切ってもよいことになりました。法律の施行後は「保存」という扱いになりますので、共有者が1人でも切ることも可能です。手続きとしてはぐっと楽になります。

【人口減少の中で生活環境をどう維持するか】

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このガイドラインではほかにも、水道管やガス管を修理する場合、それに電柱を移設する場合、いずれも工事は業者ですが、その前に所有者不明の家があったらどうするか、共有者の同意はどの程度必要か、などが書かれています。
Q:ガイドラインはどこで見ることができますか。
A:詳しい内容は、法務省のホームページで公開されています(法務省「所有者不明私道への対応ガイドライン(2版)」)。参考にしてください。ただし、今回改正された民法の施行は来年4月からですから、ガイドラインも一部の運用は来年4月からです。この点、注意して下さい。

全国的に空き家が増える中で、私道が荒れてしまうと生活にも支障が出ます。最悪の場合、住み続けることが難しくなってしまうかもしれません。
この問題は単に道路の管理にとどまりません。人口が減少する中で、私たちが生活する環境をどう守って維持していくかという課題にもつながっているのだと思います。

(清永 聡 解説委員)


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