NHK 解説委員室

これまでの解説記事

岸田内閣初の支持率逆転で今後の政局は

曽我 英弘  解説委員

m221012_002.jpg

発足から10月で1年が経った岸田政権だが、最新の内閣支持率は初めて不支持が支持を上回った。支持率逆転の背景と、政治に今何が問われているのかについて考える。

【内閣支持率 初の逆転】

m221012_003.jpg

10月のNHK世論調査で岸田内閣を「支持する」と答えた人は先月より2ポイント下がって38%と初めて40%を割り込み、「支持しない」は3ポイント上がって43%だった。

m221012_004.jpg

なかでも目を引くのが、支持しない理由として「実行力がない」「政策に期待が持てない」が上位を占め、特に39%と最も多くなった「実行力がない」は先月から10ポイントも急増したことだ。

m221012_005.jpg

また岸田内閣の1年間の実績についても「評価する」と答えた人は「大いに」「ある程度」あわせて38%にとどまり、「評価しない」は「あまり」「まったく」あわせて56%に上っている。

m221012_006.jpg

岸田内閣の支持率が早い段階で再び逆転するかどうかが、政権の行方を占う上で最大のポイントとなるが、「国葬」を終えた今も実施を「評価しない」人は過半数に達し、その理由も「全額国費が使われた」ことのほか、「実施の根拠があいまいだ」とか、「国会の議論を経ずに決めた」など幅広い。このため岸田総理が今後取り組むとしている「国葬」のルール作りをめぐっても難航が予想される。

【山際経済再生相の説明は 岸田首相の対応は】
臨時国会では、「国葬」とともに、旧統一教会の問題も議論が続いている。自民党は国会開会前に点検結果を公表したが、その後も党所属議員との関わりが相次いで明らかになっている。中でも野党側が追及を強めているのが、三権の長の細田衆議院議長、そして経済対策の取りまとめの責任者、山際経済再生相だ。

m221012_014.jpg

このうち山際氏は、8月の内閣改造で留任が決まって以降、旧統一教会が主催する会合に過去に出席していたことなどが相次いで明らかになり、そのたびに「記憶はあったが記録が残っておらず、確認できなかった」などと釈明している。この山際氏の一連の説明について「納得している」人は5%に過ぎないのに対し、「納得していない」人は77%に上り、自民支持層でも74%、連立パートナーの公明支持層では87%に達している。また細田氏も関連団体の会合に出席したことなどを文書で二度、明らかにしたが、野党側は派閥の会長として信者の票を割り振っていたのではないかという疑念に答えていないなどと反発している。
この問題をめぐる岸田首相の対応を国民はどう見ているのだろうか。岸田首相の対応を「評価する」人は「大いに」「ある程度」あわせて18%にとどまり、逆に「評価しない」人は「あまり」「まったく」あわせて73%に上った。このうち与党支持層でも66%、無党派層では81%の人が「評価しない」としている。内閣を支持しない理由に「実行力がない」が最も多かったこと。そして後ほど説明するが、内閣の支持が続落する中で自民党の支持には大きな変化がみられない点も考え合わせると、一連の問題で岸田首相が指導力を十分発揮していないと国民が感じていることがうかがえる。

m221012_015.jpg

岸田首相は「教団との関係を断つことを党の方針として徹底する」としているが、野党側は山際氏の更迭を求め、細田氏も記者会見を行って説明責任を果たすよう強く求めていて、引き続き政権運営の火種となりそうだ。

【政府の物価高騰対策】
岸田政権は年末にかけて、いくつかの大きな政策課題に答えを出さなければならないが、まずは直面する物価の高騰にいかに有効な手を打てるかどうかだ。

m221012_020.jpg

政府は9月、住民税が非課税の世帯に5万円を給付し、石油元売り会社への補助金を年末まで継続することを決めたのに続き、10月中には電気料金の負担軽減などを柱とした新たな対策をまとめることにしている。そこで政府のこうした対応をどの程度評価するか聞いたところ、「評価する」は「大いに」「ある程度」あわせて45%、「評価しない」は「あまり」「まったく」あわせて47%だった。岸田首相は、来年春以降さらに2割から3割の値上げの可能性があるとして、「料金負担の増加を直接的に緩和する、前例のない思い切った対策を講じる」としており、与党側から要望のあったガス料金の低減策も検討している。ただ消費者が契約する電力会社などは数多く、プランも様々なことから、高騰に苦しむ低所得者や中小企業などに支援が確実に行き届く仕組みを構築できるかどうか。また物価高は今後も続くとの見方から、支援の長期化がただでさえ厳しい財政に与える影響も考慮すべきという指摘もある。
コストの上昇を適正な価格に転嫁し、賃金の上昇にもつなげる好循環をいかに実現するか。岸田政権の戦略が問われている。

【防衛費の増額 財源の確保は】

m221012_024.jpg

もう一つの課題が、日本の安全保障をめぐる問題だ。政府は防衛力を抜本的に強化するため、防衛費の増額を目指しているが、この方針に「賛成」と答えた人は55%と過半数となり、「反対」は29%にとどまった。
では必要な財源を主にどんな方法で確保すべきか聞いたところ「ほかの予算を削る」が61%を占める一方で、「国債の発行」は19%、「増税」は16%にとどまった。ロシア・ウクライナや東アジアをめぐる昨今の安全保障環境の変化に対応するため、国民の間には防衛費の増額には理解を示しつつも、その財源を増税や、国債の発行つまり借金で賄うことには抵抗感が強いことがわかる。一方で防衛費以外の他のどの予算を削るのか、削ることができるのかという点についても現時点でめどは立っているとは言えず、政府は難しい判断を迫られそうだ。防衛費の増額に意欲を示し、相手のミサイル発射基地などをたたく「反撃能力」の保有も検討する考えの岸田首相だが、費用の内容、規模、そして財源を明確に示し、国民の理解と納得を得ることが重要だ。

【政治の行方は】

m221012_025.jpg

内閣支持率とは対照的に自民党をはじめ各党の支持率は10月も大きな変化は見られなかったが、重要なのはこの傾向がいつまで続くのかという点だ。仮に岸田内閣に対する不支持が支持を上回る状況が今後も続き、それに伴って与党の支持率も下落傾向となれば、党内基盤が必ずしも盤石とはいえない岸田首相にとって、いよいよ厳しい状況に追い込まれるだろう。これに対し野党側は立憲民主党と日本維新の会が国会でテーマによっては連携するなど新たな動きも見せ、臨時国会は緊張感が高まっている。この動きが12月までの今の国会限りのものなのか、それとも今後も継続するのか。さらには選挙での連携なども視野に入ってくるのかどうかは、日本の政治の行方に大きく影響を与えそうだ。

(曽我 英弘 解説委員)


この委員の記事一覧はこちら

曽我 英弘  解説委員

こちらもオススメ!