きょうのテーマは小惑星の衝突からいかに地球を守るか。アメリカが行った史上初の探査機の小惑星への体当たり実験について、水野倫之解説委員の解説。
9月27日、アメリカは探査機を小惑星に衝突させる世界初の実験を行い、成功。
DARTと呼ばれるこの探査機は自動販売機ほどの大きさで重さは570キロ。
NASAが去年11月打ち上げた。
その任務はSF映画さながらの小惑星からの地球防衛の可能性を探る事。
実験のターゲットは直径160mの小惑星ディモルフォス。
一回り大きい小惑星の周りを回っていて、これに探査機ごと体当たりし、どれだけ軌道が変わるか確認しようという実験。
迎えた衝突当日。私も探査機のカメラの映像のネット中継を見ていたが、ディモルフォスはしばらくは本当に小さく見えていたが、DARTの接近速度は時速2万2000キロ。衝突予定の1分ほど前からグングン大きく画面いっぱいに広がり、表面のゴツゴツが見えてきたと思っていたら画面が赤くなった。
これは探査機からの通信が途絶えたことを意味し、体当たりは成功。
NASAの担当者が「地球防衛に新たな時代を切り開いた」と話していたのが印象的だった。
その後、衝突の瞬間を望遠鏡でとらえた様子も公開され、コマ送りの動画からは衝突によって吹き飛ばされた物質が放射状に広がっていく様子もわかった。
この衝突でディモルフォスは大きい小惑星をまわる速度が時速3mぶん、遅くなるとNASAは予測している。これ、ほんとにごくわずかだが、それでもこの先軌道が徐々に内側にずれていくとみられている。
NASAは現在望遠鏡などで集中的に観測を行って、予測通りに軌道が変わったかどうか詳細な分析を行っているところ。
それにしてもなぜアメリカはSF映画のような実験行ったのか。
ディモルフォスが地球に衝突するおそれはなく、あくまで実験の対象だが、アメリカはこの小惑星の地球衝突を現実の脅威と捉え、国家として地球防衛の対策に取り組んでいるから。
アメリカの天体からの地球防衛への取り組みは20年以上の歴史がある。
そのきっかけは1998年、小惑星が30年後に地球に衝突するかもしれないという予測が観測機関から発表されたこと。本当なら甚大な被害が予想されるため当時大きなニュースとなった。
結局複数の専門家がより詳細な軌道計算を行った結果、衝突はしないことが確認された。
ただ過去を振り返れば、小惑星は何度も地球に衝突して大きな被害をもたらしている。
映像に残るものとしては1908年、シベリアのツングースカの森で起きた大爆発がある。
東京都と同じくらいの2000平方キロの森林がなぎ倒されたことから、直径60mの巨大な小惑星が衝突したと考えられている。
これ以外にも地球上には170以上のクレーターが確認されていて、メキシコのユカタン半島に残るクレーターは、6500万年前に直径10キロの桁違いに大きな小惑星が衝突し、大量の塵で太陽が遮られて地球が寒冷化し、恐竜絶滅につながった痕跡と考えられている。
そこでNASAはこれを機会に、小惑星情報の収集や地球への衝突確率の計算に力を入れ始め、望遠鏡などによる観測を強化しはじめる。
ただその後も小惑星による被害は続く。
2013年には、ロシアに小惑星落下。直径19m、1万tの小惑星が音速を超える速度で大気圏に突入し、数回にわたって爆発。強烈な衝撃波が発生して建物のガラスが割れるなどして1500人がけが。
また日本を含めた各国で小惑星が大火球となって落下する様子がたびたび観測されている。
なかには軌道が特定され、隕石となって地上に落下した小惑星のかけらが発見されたケースも。
そうしたこともありNASAは6年前に専門の部局、地球防衛局を設置し、あらたに衝突のリスクを減らすための技術開発も進める事になり、今回その一環として実験を行った。
小惑星はこれまでに122万個以上が見つかっていて、このうち地球の軌道に接近する可能性のあるものはおよそ3万個。
ただこれらが近い将来、この先100年くらいのスパンでは地球に衝突する恐れはないと考えられている。
しかしいまだ発見されていない小惑星はかなりあるとみられ、将来地球にとって脅威となることも。
そうした小惑星の衝突確率は、生物の絶滅につながるような10キロサイズの衝突は数千万年に1回。
都市に大きな被害をもたらす50mサイズとなると1,000年に1回程度と考えられている。
こうした天体からの地球防衛の方法はこれまで様々なアイデアが検討され、映画アルマゲドンではブルース・ウィリスはシャトルで小惑星に乗り込み、核爆弾を地下に埋めて爆発させた。
しかし映画でブルース・ウィリスは非業の死を遂げているように、この方法だと人が行かなければならずリスクと隣り合わせであることや、爆発で砕かれた破片がそのまま地球に向かってくるおそれもあると指摘する専門家も。
ほかには探査機で小惑星をつかんでエンジンを噴射して軌道を変える方法も候補にあがるが、相当強力なエンジンが必要。
これに対して今回のDARTは探査機を衝突させるだけ。
実際探査機が小惑星へ行くことは、はやぶさ2などで実績があり、確実性が高い方法。
ただ、詳しいことは今回の解析を待たなければならないが、軌道はごくわずかしか変えられないとみられ、小惑星が数年後に衝突するというタイミングでは間に合わない。
専門家によると少なくとも10年前には見つかっていないと間に合わないとのこと。
その意味でも危険な小惑星をなるべく早く見つけるということが重要。
その点日本も観測に力を入れていて、JAXAが岡山県の望遠鏡で日々観測を行っているほか、東大が長野県の望遠鏡を全天を動画撮影できるよう改良して毎年数10個のペースで小惑星を見つけている。このほかアマチュア天文家による発見も数多く。
天体衝突を防ぐのは、一国の対応だけでは不可能。
今後世界の協力関係をより強化して、地球防衛の効果的な方法を確立していってもらいたい。
(水野 倫之 解説委員)
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