オミクロン株にクラスター、ソーシャルディスタンスにリモートワーク。
新型コロナウイルスの感染が始まって3年。それまではなかった、あるいはなじみが薄かった言葉が広く使われるようになっています。
こうした言葉を人々がどのように受け止めているのか、文化庁の調査をもとに見ていきます。
■「黙食」「ブレークスルー感染」 そのまま使うのがいい?
文化庁の「国語に関する世論調査」は日本語の使い方の変化などを調べるために毎年行われていて、ことし1月から2月にかけて行った昨年度分の調査結果がこのほどまとまりました。
調査の対象は全国の16歳以上の6000人。調査用紙を郵送し、およそ6割にあたる3579人から回答を得ました。
この中で、コロナ禍に関連する8つの言葉の使われ方について、「そのまま使うのがいい」「使うなら説明を付けたほうがいい」「使わないでほかの言い方をしたほうがいい」の三択で問いかけました。
「そのまま使うのがいい」という回答が多かった順に調査をした8つの言葉を並べると、「おうち時間」「黙食」「人流」が半数を超え、「ワクチンパスポート」がおよそ45パーセントとなりました。ところが「エアロゾル」「ブースター接種」「ブレークスルー感染」「ニューノーマル」の4つは1割台にとどまり、「ニューノーマル」は3割の人が「ほかの言い方をしたほうがいい」と回答。カタカナを使った言葉のほうが、割合が低い結果になりました。
■「おうち時間」「黙食」 世代間で差が
ただ、漢字やひらがなの言葉も、世代間で受け止め方に差があることが分かりました。
上位2つの「おうち時間」と「黙食」について、「そのまま使うのがいい」と答えた人の割合を年齢別にみると、年代が上がるにつれて減っています。
例えば「黙食」は16歳から19歳は92.3パーセントと高い割合になりましたが、70歳以上は48.7パーセントと半数を割り込み、世代間でかなり差があることが分かります。
こうした結果について、調査を行った文化庁国語課の武田康宏主任国語調査官は、次のように指摘しています。
「あまり見慣れていない新しいカタカナ語を使うことはできれば避けたほうがよく、漢字や仮名であっても高齢の方には受け入れにくいことがある。新しいことが起きているので新しい言葉がどうしても必要になってくるが、「ちゃんと伝わるか」とのバランスを考えることが大切だ」
コロナ禍の新しい言葉は、行政や専門家が、感染防止策を呼びかけたり、新たな対策を進めたりする際に用いることが多いと思います。効果的な発信を行うためにも、その言葉を人々がどのように受け止めるか、よく考えて言葉を選んでほしいですし、それを伝えるメディアも伝え方をしっかり考えなければならないと思います。
■前回調査でもカタカナ語が
コロナ禍に関連する言葉をそのまま使うのがいいのかどうか、去年3月に行った前回の調査でも、今回とは異なる8つの言葉について同じ質問をしています。
「そのまま使うのがいい」という回答が多かった順に並べてみますと、「不要不急」「コロナ禍」「3密」「ステイホーム」「濃厚接触」「ソーシャルディスタンス」「クラスター」「ウィズコロナ」となりました。
1年半前の状況ではありますが、この時も下の3つはカタカナの言葉となりました。
■マスク時の会話 どんな変化が?
コロナ禍では新しい言葉が生まれただけでなく、コミュニケーションの取り方も大きく変わりました。その変化についても、調査結果を見ていきたいと思います。
去年の調査なのでデータがちょっと古いですが、マスクに関する設問がありました。
「自分も相手もマスクを着けている状態で会話をするときに、マスクを着けていないときと比べて話し方や態度などが変わることがあると思いますか」というものです。
結果は、「変わることがあると思う」が62.4パーセントと、マスクどうしの会話の場合、半数以上の人がそれまでとは違う会話のしかたをしていることが分かりました。
具体例を複数回答で尋ねたところ、「声の大きさに気を付けるようになる」が最も高く、次の「はっきりとした発音で話すようになる」とともに、半数を超えました。
■国語への関心 なぜ高い?
ことしの調査では「国語への関心」が高まっているという調査結果も示されました。
「日常の言葉遣いや話し方、あるいは文章の書き方など、国語について、どの程度関心がありますか」という問いに対し、「非常に関心がある 」と答えた人は13.9パーセント、「ある程度関心がある」が68.0パーセントで、2つを合わせると8割を超えています。
これまでは面接、コロナ禍では郵送と、調査方法が異なるため単純な比較はできませんが、過去4回の調査ではいずれも7割台で、これまでよりも高い結果となりました。
文化庁によりますと、「関心がある」という回答を押し上げているのは、60代や70歳以上の方々です。推測になってしまいますが、コロナ禍で以前のように人と会うことが難しくなる中で、逆に言葉と向き合う機会が増えている可能性があるということです。
■言葉や発信が大きく変わる中で
また、今回の調査で、「パソコンやスマートフォンなどの情報機器の普及によって、社会における言葉や言葉の使い方が影響を受けると思いますか」と尋ねたところ、9割を超える人が「影響を受けると思う」と答えています。
情報機器やSNSが身近になり、言葉の使い方や発信のしかたが大きく変わっていくさなかにコロナの感染拡大が起き、その変化はさらに加速しているように思います。
こういう時だからこそ、相手の立場に立った言葉づかいやコミュニケーションの取り方が、ますます大切になってくるのではないか。調査結果をひもといていく中で、そのような印象を強く持ちました。
(高橋 俊雄 解説委員)
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