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どう考える? ステルスマーケティング

今井 純子  解説委員

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【ステルスマーケティング。どのようなものですか?】
略して、ステマと呼んだりもするのですが、特に最近。インターネット上で増えている、企業の広告だということを隠して、巧妙に商品やサービスを宣伝する広告のことです。

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例えば
▼ 商品の口コミ。ネットのショッピングモールで商品を検索すると、口コミをよく見かけますよね。星が最も高い評価で、「大満足」「おすすめ」と書かれています。
▼ もうひとつは、SNS上の写真。肌がきれいな有名人が、商品と一緒にとった写真をSNSに載せて「これはいい!」と投稿しています。
こうした口コミや投稿。中立的な立場での評価だと思い、買い物の参考にしたり、「この人のおススメなら、効果があるに違いない!」と思って、背中を押されたりする方もいると思います。

【私も参考にしています。それが、広告なのですか?】
もちろん個人の純粋な感想。というケースはあります。ただ、中には、
▼ 企業が自ら口コミを書いていたり、
▼ 企業が、一般の人や有名人に報酬を払ったり、商品・サービスを提供したりして、宣伝を依頼しているケースが少なくないというのです。その場合、企業の広告です。

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実際、SNS上では、このように「星5つにみあう感想の投稿でギフト券2000円を差し上げます」「スマホをタップすれば商品レビューがされます。1か月およそ5000円」と、不正な口コミを募集する投稿があるといいます。中には、商品代を全額返金した上で謝礼を払うというケースもあるそうです。

【実際に買った人でないと口コミできないと思っていましたが、代金の返金が前提となっているケースもあるのですね】
そういうことです。また、消費者庁が「インフルエンサー」と呼ばれる、影響力のある有名人300人に対して行ったアンケート調査では、企業から、広告であることを隠したステルスマーケティングを依頼された経験があるという人が41%。そのうち、すべて、あるいは、一部依頼を受けことがあるという人が45%でした。つまり、20%近いインフルエンサーが、企業に頼まれて広告の発信をしたことがあるということになります。

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【企業は、なぜ、広告だということを隠すのですか?】
消費者庁が、広告代理店などへの聞き取り調査を行ったところ、広告だということを隠す方が、
▼ 「広告と明示されている広告」より、売り上げが少なくとも確実に20%程度は増加するという体感がある。
▼ 大手の販売サイトで、一気に売り上げランキングが20位程度上がったり、売り上げが数倍程度になったりするなど、大きな広告効果があるといった声があがりました。
一方、消費者への調査では・・
▼ 第三者の口コミやレビューなどについて、参考になると答えた人が、あわせて88%に達したのですが、
▼ それが、企業から報酬をもらって書かれたものである場合、参考になるは、34%まで減りました。

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【なにを信じたらいいかわからなくなります。広告なら、そうと知りたいですよね】
実際、買ったら、口コミや投稿の内容とは違った・・という経験をしたという方もいると思います。でも、多くは広告とわかりませんし、信じた自分が悪かったと思って、泣き寝入りする人が圧倒的に多いとみられています。事業者にとってみると、そういう人が多いほど、もうけにつながる。だから、こうしたステルスマーケティングが横行しているのです。

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【法律違反ではないのですか?】
景品表示法という法律では、事業者が供給する商品やサービスについて
▼ 実際より著しく優れているとウソをつく広告表示や
▼ ライバルの事業者より著しく優れているとウソをつく広告表示などを禁止しています。
違法と判断されれば、再発防止などの措置命令が出され、従わなければ、罰金や懲役刑などが科されることもあります。
ただ、法律では「広告であることを隠すこと」自体は規制していません。ですから、企業が、
▼ 有名人に、広告であることを隠すよう依頼して、商品の写真を「よかった!」という言葉とともにSNSに載せてもらったり
▼ 一般の人に依頼をして「おすすめ」という口コミを書き込んでもらったりするだけでは、
「著しく優れているとウソをついている」とは言えないので、違法にはならないのです。

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【なんか、納得がいきません】
そう感じる人も多いと思います。そこで、消費者庁が、今月、有識者による検討会を設けて、規制について検討を始めました。

【どのような意見がでているのですか?】
委員の中からは、
▼ 欧米では多くの国が、一定の規制をかけている。
▼ モールなどの中には、自主的に規制をかけ、ステルスマーケティングとみられる広告を削除しているケースもあるが、追いついていない。
▼ 消費者だけではなく、競争相手の企業にとってもマイナスだ。
▼ 放っておくと、偽の情報だらけになってしまう。
▼ 企業が依頼をしている場合は、広告だということを明示させる必要がある。
このように、広告を依頼する企業に、何らかの規制が必要だという意見が相次いでいます。

【広告と表示されると、消費者は、見分けがつけやすいですね】
はい。ただ、規制をする場合「何が、企業が依頼をした広告にあたるか」の線引きについて難しいケースもあるという意見も出されています。
例えば、
▼ ある有名人が、お菓子について「おいしい」と発信していた。そこで、そのメーカーが、新商品を、その人に「よろしく」というメッセージとともに贈ったところ、「おいしい」と発信してくれた。
▼ 映画鑑賞会に、俳優であるインフルエンサーを招待したら、その人が「いい映画!」と発信をした。といった場合。
事業者は一定の宣伝を期待して、無料の商品やサービスを提供しているわけですね。どこまでが純粋な感想で、どこからが広告なのか。線引きが難しいということなのです。消費者庁は、こうした意見も踏まえながら、年内に取りまとめを行う方針です。

【規制は、口コミを書いている一般の方にもかかる可能性があるのですか?】
いいえ。そもそも、この法律の規制は、あくまでも報酬などを払って広告を依頼する事業者が対象で、純粋な感想はもちろん。例え、依頼に応じて口コミなどをしても、個人は対象になりません。検討会でも、そういう議論にはなっていません。ただ、ステルスマーケティングは、一部のサイトでは、消費者の判断をゆがめる不正な投稿として自主的に規制されている。そして、法的な規制の検討も始まっている。そういう行為です。ステルスマーケティングを依頼する投稿を見たり、依頼をされたりしても、慎重に対応してほしいと思います。

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【規制ができるまでは、消費者も、注意が必要ですね】
そうですね。一見、中立的に見える口コミや、有名人のSNSの中にも、企業から報酬をもらって宣伝している広告があるということを、頭に入れて、内容をうのみにしないことが大事になると思います。
その上で、トラブルに巻き込まれた場合、身近な消費生活センターに相談をしていただきたいと思います。全国共通で188の電話番号から、身近なセンターにつながる仕組みになっています。

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解決につながるケースもありますので、あきらめず、相談をしていただきたいと思います。

(今井 純子 解説委員)


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