75歳以上の高齢者が、病院の窓口で支払う医療費。
10月から、一部の人の負担割合が、これまでの1割から2割に引き上げられます。
なぜ今、負担を引き上げるのか。
そして、知っておきたいポイントについて、牛田解説委員がお伝えします。
医療費の負担が1割から2割にあがる、つまり単純に考えると、2倍になるということです。
75歳以上の方の多くは年金で暮らしていて、医療にかかる頻度も多いと思いますので、関係する人にとっては、大きな変更と言えます。
なぜ今、負担割合を引き上げるかというと、「現役世代の負担を抑えていく」ということが大きな理由なんです。
高齢化で医療費は増加していて、今では年間40兆円を超えています。
このうち、75歳以上の分は、全体の3割を超えています。
この75歳以上、つまり後期高齢者の医療は、誰が支えているのかをご説明します。
財源には、患者の負担分や保険料のほか、公費、つまり税金が投入されています。
それに加えて、サラリーマンなどが加入する健康保険組合や、自営業者などが入る国民健康保険などからも「支援金」が出ています。
これらの負担が年々増加しているんです。
例えば健康保険組合ですと、保険料で得た収入のおよそ4分の1は、後期高齢者医療制度への支援金に当てられているんです。
このままでいくと、現役世代からの支援金は、昨年度の6.8兆円から、3年後の2025年度には8.1兆円まで増えると見られています。
こうした現役世代の負担を少しでも抑えるために、高齢者の負担を増やさざるを得ないという判断なんです。
今回の引き上げは、75歳以上の「一部の方」ということですが、ここからは、具体的にどんな人が対象になるのかをお伝えしていきます。
もともと75歳以上の高齢者の負担は、現役世代並みの所得を持つ人は3割、その他の人は、一部を除いて1割でした。
それが今回、これまで1割だった人のうち、一定の所得のある人が、2割に引き上げられます。
これ具体的に言いますと、単身世帯の場合は、年金とその他の所得が年間で200万円以上、かつ、課税所得が28万円以上の人となります。
また、後期高齢者が2人以上いる世帯では、所得の合計が320万円以上、そして課税所得が28万円以上の人が1人でもいると、全員が2割になります。
では、これに当てはまる人がどれくらいいるのかといますと、全国で370万人ほどと推計されています。これは75歳以上全体のおよそ20%です。
年金や所得の計算って結構ややこしいと思う方もいると思います。
自分の負担は何割になるのかは、9月末までに送られてくる「被保険者証」に明記されています。そこを確認してください。
一方、今回、負担があがることで病院に行くのを無理に控える人が出てこないかという心配もあります。
具体的にどういう影響が出るのか、注意していく必要があります。
例えば、治療が遅れてしまう人が出てきていないかなど、国はしっかり検証していなかければならないと思います。
あと、今回の制度変更では、急な負担増を抑えるための対策も設けられています。
「配慮措置」と呼ばれるもので、具体的にいうと、外来医療について、これまでとの負担の差を、月3000円以内に抑えるというものです。
これはどういうことなのか、分かりやすくご紹介します。
例えば、病気の治療で、医療費の総額が月に5万円に上ったとします。
これまでは1割負担なので、窓口で支払うのは5000円でした。
しかし負担が2割になると、金額は1万円になります。
そうしますと、これまでより5000円多く負担することになります。
この差額を、最大でも3000円に抑える。
つまり2000円は後で戻ってくるという制度なんです。
この配慮措置なんですが、今回、医療費の負担が2割に上がる人の中で、実に8割ほどが適用されるだろうと見られています。
ただし、この措置はあくまで一時的なもので、期間は3年間に限られています。
あと、もう一つ知っておくべきなのは、戻ってくるお金を振り込むための口座。これを事前に登録する必要があるという点です。
この口座なんですが、「高額療養費制度」という、従来からある制度で使われているものを使用します。
この制度は、重い病気に掛かって医療費の負担が月に何十万円、何百万円になった時に、一定の額以上は負担しなくて良いですよというものです。
上限額を超えた分は後日、払い戻されるんです。
そこで使っている口座を、今回の配慮措置での払い戻しにも使おうということなんです。
一度登録さえすれば、後は自動的に払い戻しが行われます。
この口座、すでに作っている人は5割から7割ほどとも言われ、全員が作っているわけではありません。
申請書は郵送されてきますので、まだの方は是非、登録をすませておいてください。
ちなみに、今お伝えした「高額療養費制度」なんですが、今回の負担引き上げで、上限額が上がるのではないかと、
心配されている方もいらっしゃるかもしれませんが、こちらは変わりません。
上限額は今のままです。
そして今回の制度変更で、もう1つ注意すべき点があります。
それがこちら、「還付金詐欺」なんです。
いまお伝えした口座の登録。
これに目を付けて、詐欺グループが行政の職員になりすまし、口座の情報を聞き出したり、手数料をだまし取ったりする。
そんな詐欺が多発するおそれも危惧されています。
ここでのポイントは、口座登録の申請書は「郵送」されてくるという点です。
国や行政の担当者が、直接電話をかけたり、自宅を訪問したりして、口座の情報を聞き出す、あるいはキャッシュカードや通帳を預かるということは、絶対にありません。
不審な電話があった場合は、すぐに最寄りの警察署などに連絡してください。
制度変更については、厚生労働省や自治体のホームページにも詳しく掲載されていますので、是非、参考にしてください。
今回、負担があがるのは75歳以上の一部の人ですが、医療費が膨らんで、患者の負担が増えてきているということを、是非、若い世代も含めて多くの人に知ってもらいたいと思います。
医療の資源やお金には、限りがあります。
患者の負担の引き上げは、これからも拡大する可能性が無いとは言い切れません。
ですので、私たち1人1人が、出来るだけ効率的に医療に掛かっていこう、あるいは医療費の負担が増えないように健康に気を付けていこう、という意識を持つことも、必要ではないかと思います。
(牛田 正史 解説委員)
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