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続く 物価上昇 追加対策の効果は?

今井 純子  解説委員

値上げの動きが続いています。今井解説委員

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【物価が上昇していますね】
今週発表された8月の全国の消費者物価指数は、一年前より2.8%上昇しました。7月の2.4%から伸び率が高まり、消費税率引き上げの影響を除くと、30年11か月ぶりの大幅な上昇となりました。

【なにがそんなに上がっているのですか?】
▼ まずエネルギー価格。こちらは、16.9%の上昇と、全体的に大幅な上昇が続いています。
▼ そして、食料品が4.1%と、上昇のペースが加速しています。
▼ さらに、エネルギーと食料品以外にも、価格上昇の動きが広がっています。「もの」ではない、「サービス全体」では、2年8か月ぶりにプラスに転じました。
調査対象522品目のうち、上昇しているのが372品目。全体の71.3%と、値上げのすそ野が広がっていることがわかります。

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【円安が進んでいます。その影響ですか?】
影響は出ています。輸入品の物価を示す8月の輸入物価指数を見てみますと、1年前より42.5%上がっています。この内訳をみると、エネルギーや穀物などの国際価格の上昇分と、円安による上昇分が、ほぼ半々になっています。3月の時点を振り返ると、円安による上昇分がおよそ4分の1でしたので、円安の影響が大きくなっていることがわかります。
そしてこの輸入の物価上昇は、この先、小売り価格に転嫁されていくことになります。

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【すると、値上げはまだ続くのですね?】
残念ながら「値上げの秋」となりそうです。
民間の信用調査会社によると、国内の主な食品や飲料のメーカーが、来月、およそ6500品目の値上げを予定しています。9月の2.7倍の品目です。また、そのほか、外食の回転すしや車のタイヤなどの値上げも公表されています。

【こんなに上がるのですか!?】
このため、10月には消費者物価は、3%を超え、少なくとも年内は3%程度の物価上昇が続くというのが多くの経済の専門家の見方です。中には年末に3%台半ばまで達するという専門家もいます。

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【その先はどうなるのでしょうか】
原油や穀物などの国際価格が、一時と比べると落ち着いてきていることから、年明け以降、徐々に、物価上昇の勢いが収まるのではないかというのが多くの専門家の見方です。ただ、これまでの物価上昇は、専門家の事前の予測より勢いがありましたので、年明け以降、予想通りになるかは、正直、わからないといった方がいいかもしれません。

【厳しいですね。でも、先日、政府が物価の追加対策を打ち出しましたね】
大きく3つ。まず、ガソリンへの補助金を見てみましょう。

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【これまでの対策の延長ですね】
はい。政府は、今、消費者へのガソリンの小売価格を、全国平均で、1リットル168円程度に抑える狙いで、石油元売り会社に補助金を出しています。
実際の小売価格は、各ガソリンスタンドが、個別の事情に応じて決めるものなので、バラバラですが、先週のガソリンの価格は、全国平均で170.1円。国は、補助金がなかった場合、204円を超えていたと試算しています。

【効果は出ているのですね】
はい。そこで、今月末までの予定でしたが、年末まで、この補助金。原則、継続することになりました。

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【次は、小麦の対策。これはどのような内容ですか?】
小麦については、海外から安定的に確保するために、政府が一括して輸入をして、製粉会社などへの売り渡し価格を半年ごとに見直しています。去年の10月に19%、4月に17%価格が引き上げられ、本来だと、この10月にもさらに20%近く引き上げられる見通しでしたが、今回、価格を据え置くことを決めました。小麦は、パンやパスタなど、幅広い製品に関係していますので、この先の値上げを抑える一定の効果が期待されています。

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【そして、3つ目が、住民税非課税世帯への5万円の給付ですね】
はい。対象は、今年度の住民税が非課税となっている世帯です。対象者には、原則、自治体からの通知が郵送で送られてきます。今年1月以降に、収入が急に減って、いずれかの1か月が非課税に相当する収入になったという世帯も原則、給付が受けられますが、自ら、自治体に申請する必要がありますので、注意が必要です。

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【これは、注意が必要ですね。でも、多くのものやサービスが値上がりしている中で、政府の対策はどのくらいの効果があるのでしょうか?】
1㌦=145円の円安が続いたとして、今年度の家計負担が一年前よりどの程度増えるのか。ざっくりした世帯別の試算を見てみると
▼ 年収300万円未満の世帯は、物価対策の効果がおよそ1万8000円ありますが、それでも、6万2700円あまり負担が増えます。
▼ 年収500万円から600万円の世帯は、対策の効果がおよそ2万3000円。それでも、8万円余りの負担が増えることになります。
▼ 住民税非課税の世帯は、ここに5万円が給付される形になりますが、それでも負担増になります。

【対策の効果が少しはあっても、重い負担に変わりはないですね】
そうですね。負担以上に賃金が増えればいいのですが、物価の変動を反映させた実質賃金は、7月まで4カ月連続で、マイナスとなっている。つまり、それだけ物価の上昇に賃金の伸びが追い付かない状況が続いています。

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【私たちがとれる対策はありませんか?】
▼ 企業の間でも、物流の効率化に努めたり、独自に開発した高機能の素材を、衣類やテントなど幅広い製品に使うことで全体の製造コストを下げたりすることで、プライベートブランドの価格を据え置く取り組みを続けているところもあります。
▼ また、コメ。それから、このところ、はくさいやキャベツの安値の傾向が続いています。
こうしたものを探して、うまく利用していくことは、ひとつの方法かもしれません。
ただ、それでも、プライベートブランドの中には、耐えきれず、一部の商品について、値上げに踏み切る動きもでています。

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【そう考えると、やはり、賃金を引き上げてほしいですね】
その通りです。企業の中には、物価上昇に対して社員の生活を支えようと、この夏、基本給を引き上げたところもあります。例えば、
▼ オフィス向けのITサービス事業を手掛ける「大塚商会」は、正社員の基本給を一律で月1万円引き上げました。契約社員などの基本給も、同じ率で引き上げたということです。
▼ また、大手素材メーカーのAGCが、14年ぶりにすべての社員を対象に基本給を引き上げたほか、
▼ 家電量販店のノジマは、当面の間、契約社員を含めた全社員に毎月1万円のインフレ手当の支給を始めました。
▼ 大企業だけではありません。社員およそ30名。ソフトウェアの開発をてがけるシックス・アパートという会社は、「リモートワーク手当」を月5000円増やしました。

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【ぜひ、広がってほしいですね】
大企業全体でみると、今年度も、過去最高益をあげる見通しです。企業は賃金・ボーナスの引き上げに継続的に取り組むこと。そして、政府も、人への投資、賃金引き上げを促す環境づくりといった、中長期的な物価対策にも力を入れて取り組んでほしいと思います。

(今井 純子 解説委員)


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