◆今月東京都が新築住宅に太陽光発電設備の設置などを義務化する制度をめざすと発表
これは温暖化対策のための条例改正などの基本方針として9日に発表されたものです。
基本方針には、建物の断熱・省エネ基準の強化や、東京では既に大規模事業所には二酸化炭素の排出削減が割り当てられ足りない分は排出量取引を行う制度も実施されていますがそれを強化するなど、様々な施策が盛り込まれています。
中でも注目されたのが、全国初とされる戸建ても含めた新築住宅への再エネ設備の設置義務化です。具体的には大手住宅メーカーなどおよそ50社に対し、都内で新たに建てる住宅に太陽光パネルなどの設置を義務づけるというものです。
◆住宅を購入する消費者ではなく、家を売るメーカーへの義務
この大手50社で都内の着工件数の半分以上を占めると見積もられています。立地によっては日当たりが悪かったり北向きの屋根しか作れないなど事情もあるので、そのメーカーが供給する住宅全体で決められた再エネの量を確保すればよいルールで、1棟あたり2kWを基準に地域ごとの係数などをかけて計算されます。また、太陽光に限らず太陽熱や地中熱などを利用する設備でもよいとしています。
小池知事は「住宅に屋根がついているのが当たり前のように、屋根が発電するのも当たり前という機運を醸成していく」として都民や事業者に理解を求めました。まだこれから条例を作る段階なので決定ではありませんが、都は12月の都議会で議決されれば、2025年4月から施行することを目指しています。
◆気になるお金は?住む人の負担は?
メーカーへの義務と言っても建設コストが増えればその分住宅価格に上乗せされるのでは?と気になります。
都の試算では、いま標準的な太陽光パネルを設置する費用はおよそ98万円。これに対し電気代が安くなったり売電収入で経済的メリットが年間9万3600円あるため、初期費用の負担はあっても10年ほどで回収できるとしています。
太陽光パネルは通常2~30年使えるとされますので、長い目で見れば経済的にもお得と言えそうですが、家は高い買い物ですから、さらに100万円初期費用が増えたら手が届かないと感じる方も多いかもしれません。これに対しては都は、初期費用をゼロにするような事業者も増えているとして、こうした仕組みの利用を後押しする方針も示しています。
◆太陽光パネルの「初期費用ゼロ」とは?
これは「ゼロ円ソーラー」とか「屋根借り」などと呼ばれる方法です。その仕組みは、太陽光パネルを家の持ち主である住民が所有するのではなく発電事業者が住民から屋根を借りて設置する、そのため設置費用はこの発電事業者が負担します。住民は初期費用ゼロになる代わりに事業者に月々の電気代を払うことになります。
発電事業者は、住民から受け取る電気代と、余剰の電力は固定価格買取制度で電力会社に売ることで初期投資を回収できるというビジネスモデルです。都はこうした方法に補助金を出すことなどを検討しています。
◆なぜ今、東京都はこうした制度を作ろうとしている?
東京都は温暖化対策で2030年までにCO2を半減させる「カーボンハーフ」という目標を掲げています。また世界的にエネルギー不足が長期化することも懸念され、エネルギー安全保障の確保の意味もあります。都は今回の新制度の効果によって2030年までに75万kW=大きな発電所なみの再エネが導入できると見込んでいます。
もうひとつ挙げられている利点が「防災力」、災害で停電した時も電気が使える点です。最近も台風や大雨が相次いでいますが、災害で停電が起きた場合でも自宅の屋根にパネルがあれば発電した電気の一部は家で使えるので、例えばテレビやスマホの充電など情報を入手する手段も確保できるのは安心材料になります。
さらに、家の車が電気自動車やプラグインハイブリッドといった「充電できる車」であれば、車に電気を貯めておくことで発電しない時間帯にも使えるようにできます。
◆住宅への太陽光パネル設置義務化は東京以外では?
東京都に隣接する神奈川県川崎市でも有識者会議で同様の制度の検討を始めていますが、まだ全国的には広がっていく動きは見られません。
実は去年、国土交通省と経済産業省・環境省合同の有識者会議で検討されたものの賛否両論あってまとまらず、提言に入れることが見送られた経緯があり、国は今のところ一律義務化には否定的です。
費用負担への懸念や、冬の日本海側などではあまり発電できず不公平ではないかとの声、さらに将来的に大量の太陽光パネルなどの廃棄物をどう処理するか、リサイクル態勢などの課題も指摘されます。
◆大きな建物に限れば既に義務化している自治体も
京都府では今年4月から、住宅に限らず延床面積300平方メートル以上の建物の新築時などに、太陽光パネルなどの設置を義務化しました。京都ではメーカーではなく建物の所有者の義務で、だから300平米以上という、ほぼ個人のお宅ではなく事業者が対象になる面積で線を引いた、とも言えます。住宅を買う消費者個人に義務を負わせるのは「なぜ京都府民だけ負担が増えるのか」といった不公平感や、だったら近隣の他の県に住もうと思う人もいるかもしれません。
そう考えると、全国の一般住宅まで再エネを普及させるには、やはり国が地域の特性も踏まえたなんらかのルールを作っていく必要があるのではないでしょうか。
◆世界的な動きは?
新築住宅への太陽光パネルの義務化はアメリカやドイツでは一部の州や市で導入されています。
さらに、ロシアのウクライナ侵攻でエネルギー供給が脅かされていることから、今年5月にEUの欧州委員会で「屋上太陽光戦略」が打ち出され、商業施設や新築の住宅にも2029年までに太陽光パネル設置を義務化することが提案されています。
◆日本の今後の課題
日本は2030年度に温室効果ガス46%削減という目標を国連にも提出していますが、その実現に向けた国の計画で、産業や運輸などの分野以上に最も大きな削減率を割り当てられているのが、実は私たちの家庭です。家庭では66%も削減する目標になっていて、これをどう実現するかが問われています。
また、ウクライナ侵攻で輸入化石燃料に依存するエネルギー供給のリスクも浮き彫りになり、政府は原発の再稼働に加え新増設の方針も打ち出していますが、地域の理解を得て新たな原発を作るというのは容易ではありません。
住宅への太陽光義務化には賛否あるとしても、こうした状況で「脱炭素」と「エネルギー確保」を両立させるためには、どうやってより公平で実効性のある制度を実現するかという視点から幅広い議論が必要だと思います。
(土屋 敏之 解説委員)
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