NHK 解説委員室

これまでの解説記事

家族が認知症になったら...  本人が見る世界を知ろう!

牛田 正史  解説委員

m220914_002.jpg

▽9月は世界アルツハイマー月間。
認知症について理解を深める期間とされています。
▽いま、高齢化で認知症の患者が急速に増加しています。家族がなったら、自分はどう対応すれば良いのか、不安に思っている人も少なくないと思います。
▽そんな時、ポイントの1つになるのは「本人が見る世界を知る」です。
▽それって一体どういうこと?と思われるかもしれません。
今回は具体的な例も交えて、分かりやすく解説をしていきたいと思います。

m220914_006.jpg

▽いま認知症の患者は増えていて、3年後には約730万人と、65歳以上の実に5人に1人にのぼると推計されています。
▽認知症にはいろんな症状がありますが、中には、「何度も同じことを聞く」「突然怒り出す」「必要ではない物を集めだす」といった、周りからすると一見、不可解な言動が出てくる場合があります。
▽しかし、そこには本人なりの考え、つまり理由がある。
それを知ることで適切な対応が出来る。
これが「本人が見る世界を知る」ということです。

m220914_010.jpg

▽今回は理学療法士の川畑智(かわばた・さとし)さんの話などから、ポイントを解説していきます。
▽まずは、具体的な事例から見ていきます。
▽認知症の母親が娘に対して、次にデイサービスに行くのはいつの日か、繰り返し尋ねます。
▽何度も同じことを聞かれて娘さんはついに怒ってしまいます。
▽この「繰り返し聞く」という行為、理学療法士の川畑さんは、ちゃんと理由があると指摘します。
▽というのも、母親は自分が物忘れをすることを自覚していて、分からなくなったらすぐに確認をしているんです。
これ、裏を返せば、「ちゃんと覚えていたい」あるいは「娘に迷惑をかけたくない」という気持ちの表れなんです。
▽ですので、同じことを何度聞かれても、決して怒るのではなく、「私が覚えておくから大丈夫よ」と言って、本人に安心してもらうことが大切です。

m220914_017.jpg

▽つぎにこちらの写真。
▽認知症の高齢男性の部屋です。
妻や娘の服をタンスから引っ張り出して集めています。
それで、困った家族が川畑さんに相談したんですが、これにも実は理由があったんです。川畑さんは次のように話しています。

【川畑智さん】
「洋服を、お母さんのを着てしまったり、娘さんのパンツを服の中に入れたりって。家族はなんでこんな事をするんだろうって。
実はお父さん、トイレの失敗が多いということが分かって、そのトイレの失敗が多いから履けそうなパンツを手にしておきたい、そんな不安なんですよね。
ご家族の方に、「迷惑をかけないために集めていたかもですね」と言うと、「そう考えると涙が出るわね」と言われて、お父さん用のパンツをたくさん用意してくれたりとか、娘さんも間違って洋服を持って行っちゃった時には、「お父さん、これ好きだったら洋服あげるわよ」と言って対応してくれました」

▽つまり、トイレが不安で、すぐ着替え出来るように衣服を集めていたわけです。
▽この後、お父さんは洋服を引っ張り出す回数がぐんと減ったそうです。
▽理由が分かれば、対処の仕方も変わりますし、何より家族も納得できて、不安やストレスの低減にも繋がります。

▽また認知症の人の行動には、本人が行ってきた「仕事」、あるいは「思い出」が大きく影響してくる場合もあります。
これらも理由を知る上で、重要な鍵になります。
▽さらに、認知症になると時々「被害妄想」が出てくる場合もあります。
▽例えば、物を無くした時に、家族が盗ったんじゃないか?と疑う、といったケースです。
▽これは「自分が無くすはずはない」という気持ち、あるいは「また物無くしたの!」と家族がイライラする態度を見せることで、「なんで怒ってるんだろう?実は盗んだんじゃないのか」と疑ってしまうこともあるそうです。
▽周りの接し方も、本人の行動に関わってくることがあるんです。
▽なので、出来る限り心に余裕をもつことも心がけて、一緒に探してあげるということも大切です。

▽ここまで行動の裏側にある理由について見ていきましたが、ここからは、認知症の人と接する時の具体的なポイントについてご紹介していきます。

m220914_021.jpg

▽まずは「会話にジェスチャーを交える」です。
▽これは挨拶の段階から重要です。
▽認知症になると、注意を向けられる範囲がだんだんと狭くなっていく場合があります。
▽なので、まず目の前に立って「ここにいるよ」と手を振って、挨拶するのが良いそうです。
▽また、認知症が進んできますと、言葉だけで理解するのが次第に難しくなってきます。
▽そうした時、例えばイラストのように「食事」、あるいは「歯磨き」といったジェスチャーを交えると理解してもらいやすくなります。
▽トイレに行くときは、おなかをポンポンとやさしく叩いて、「トイレに行きましょう」と声を掛けるのも良いそうです。
▽また、会話の場合、「ゆっくり話す」、そして「分かりやすい単語」で「短く伝える」ことも大切です。

m220914_025.jpg

▽つぎに「感情に働きかける」という点です。
▽認知症の人は、段々と記憶が薄れていっても、「楽しかったこと」「嬉しかったこと」、あるいは「悲しかったこと」など、感情に基づく記憶は頭の中に残りやすいとされています。
▽なので、例えば次にデイサービスに行く日を伝える際には、「楽しみだね」と声を掛ける。
あるいは孫が来る日を伝える時は「久しぶりに会えるから嬉しいね」などという。
▽このように、「プラスの感情」に働きかけることが、大事なんです。

m220914_031.jpg

▽そして最後にもう一つ、家族が認知症になった時に重要なポイントをお伝えします。
▽それは「自分たちだけで抱え込まない」という点です。
▽いま、認知症の患者や家族の支援機関が少しずつ広がっています。
▽その頼る先として、まずは、普段通っている「かかりつけ医」があります。
認知症は早期に診断してもらうことで、より早く支援に繋げることができます。
▽仮にかかりつけ医が認知症の専門でなかったら、診断できる医療機関を紹介してもらうと良いです。
▽また医療機関以外では、「地域包括支援センター」や「自治体の相談窓口」などがあります。こちらは生活面や介護などの相談ができます。
▽医師や介護士などで作る「認知症初期集中支援チーム」という、専門チームが作られている地域もあります。
▽さらに、自分と同じ当事者と、悩みを分かち合いたい、繋がりたい、という人は「認知症カフェ」という集いもあります。全国で7000箇所以上出来ています。
▽こうした相談・支援機関が、自分が住む地域のどこにあるのか、いざという時のためにあらかじめ確認しておくことも大切です。

▽認知症は誰でもなりうる病気です。
もし家族がなったらなんて考えたくない、目を背けたいという気持ちも十分、分かります。でも場合によっては適切な対処法がある、そして、支援してくれるところがあることを、是非、多くの人に知っていてもらいたいと思います。

(牛田 正史 解説委員)

関連記事