今回のテーマは月面探査。
日本も参加を決めたアメリカの有人月面探査計画の第一弾として、大型ロケットの試験打ち上げが、近く予定。
ロケットには日本初の月面着陸機が相乗りしているほか、年度内にはほかにも日本の着陸機の打ち上げが相次いで予定。水野倫之解説委員の解説。
月を目指すアメリカの大型ロケットの打ち上げ、直前に燃料の水素漏れなどがみつかり、2回延期。NASAは対策が済み次第、9月下旬以降の打ち上げを目指す。
月面は、かつてアポロ計画の舞台に。
1972年のアポロ17号が人類が月面に立った最後。
それから半世紀、アメリカは再び月を目指すことを決め、あらたに開発したのが、
全長100m、30階建てビルに相当する世界最大級のロケット・SLS。
人や資材を月まで運び、有人の月周回のステーションも建設。
宇宙飛行士が月面に着陸し、継続的に活動していくことを目指す。
ただ今回は第一弾の試験飛行で、宇宙船に宇宙飛行士は搭乗せず、
代わりに人体への影響を調べるセンサーがついた人形を乗せる。
打ち上げ後、宇宙船は月を複数回まわって1か月ほどで地球に帰還。
そして安全性が確認できれば、第2弾として2024年に実際に宇宙飛行士が乗って月を周回。
さらに第3弾で2025年以降、アメリカの女性飛行士らが月面着陸を目指す。
アメリカは今回探査機の相乗りを各国に呼びかけ、
日本からはJAXAの2機の探査機の相乗りが決まった。
日本初の月面着陸機オモテナシと、惑星空間の効率的な飛行を実証するエクレウス。
ただNASAからの条件は非常に厳しいものがあり、
重量を14キロ以下に抑えなければならなかった。
小型と言われたはやぶさ2でも打ち上げ時には600㌔なので、
探査機としては極小サイズで、研究チームはかなり悩んだ。
というのも、月への着陸は高度な技術が要求される。
大気がないため減速が難しく、
また地球の6分の1の重力があり、うまく制御できなければ大破する危険があるから。
これまでに着陸に成功したのはアメリカと旧ソビエト、そして中国の3か国だけ。
いずれも大型の逆噴射エンジンやセンサーが搭載されていた。
そこでオモテナシチームは大胆なアイデアをひねり出した。
まず着陸させるのは、地球に信号を送信する装置だけに限定し、700gに抑えた。
そして着陸は固体ロケットを逆噴射させて減速することに。
細かい制御はできないが、小型化が可能だから。
オモテナシは縦横30㎝程度、
小型ロケットは点火と同時にすっと本体から抜け出してくる。
ただ探査機は時速9000㌔で月面に向かうので、
着陸の衝撃で壊れないようにするためには時速180㌔まで落とさなければ。
実験施設で何度も小型ロケットの燃焼試験を繰り返し、
何とか700gの装置を月面に着陸させられるメドをたてた。
計画ではオモテナシは高度3万6000キロでロケットから分離され、
軌道を修正しながら月を目指す。打ち上げから5日後に着陸態勢に入り、姿勢を安定させるために機体を回転させる。
そして着陸20秒前に固体ロケットに点火。逆噴射で減速をした上で、月面に着陸。
装置からの信号が地球で受信できれば着陸成功、世界で4か国目となるが、
装置が上を向かないと信号をうまく地球に送れないので、
チームでは成功確率は60%程度とみる。
またもう1機のエクレウスは、月の裏側の地球と月の重力が釣り合うポイントへ向かい、
惑星間の飛行技術の実証を目指す。
50年前にアポロですでに探査しているのになぜ今また月を目指すのか。
アポロの時と大きく違うのが、月面を継続的に探査しようという点。
というのもこれまでの調査で、月の南極などの地下に
大量の水が存在するデータが示された。
水が本当にあれば、飲料水になり食料の現地生産も可能に。
さらに電気分解すればロケットの燃料になる水素と酸素も現地で得られる。
地球から運ばなくても済み、コストを大幅に下げることができる。
将来的には月面に生活圏を築くことも夢ではなくなるわけで、
アメリカはじめとした各国が技術を競いあっている。
広い月面を移動しながら探査するのは簡単ではない。
そこで、コストを抑えた超小型の着陸機を何機も様々な地点に送り込めば、
水などの資源発見の可能性が広がる。オモテナシはこうした超小型機による探査に先鞭をつけようとしているわけ。
ただ超小型のものや、これまでに成功した大型の探査機の着陸は、
狙った着陸点から最大数10㌔の誤差があった。
そこでJAXAでは目標地点から100m以内というピンポイントの着陸技術を実証する探査機を
今年度中に打ち上げる。
縦横2.5mほどの小型の探査機SLIMを開発、画像照合技術を使って着陸に挑む。
SLIMには別の探査機が撮影した月面の地図データをあらかじめ入れておく。
そして実際に飛行しながらカメラで月面を撮影し、地図データと照合しながら、
自分自身の位置を正しく把握して目標地点へと移動、垂直に降下。
将来探査が本格化したときには、危険なクレーターを避けて安全に
狙った地点に着陸する技術が不可欠となるので、ピンポイント着陸技術を日本の強みにしようというわけ。
さらに月面を目指しているのは何も国家だけではない。
民間のベンチャーも動き始めている。
ビジネスチャンスがあると見ているから。
宇宙ベンチャー・アイスペースは自動車メーカーなどの協力も得て月面着陸機を開発中。
内部に小型ロボットなどの荷物を搭載し今年中にアメリカのロケットで打ち上げ、
月面に着陸して荷物を降ろす。
今後、
月面に数㌔程度のロボットや資材を輸送するニーズが高まるとみられ、
アイスペースではまずは小型の荷物の輸送ビジネスの確立を目指す。
成功すれば民間での月面着陸は世界初となる可能性も。
このほかにもベンチャーなどの探査が計画されている。
ただ月への着陸は重力もあり簡単ではない。
はたして日本が4番目の月面着陸を成功させた国となるのかどうか、
まずはオモテナシの挑戦に注目。
(水野 倫之 解説委員)
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