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大学生の就職活動~コロナ世代に即した新しい採用とは

木村 祥子  解説委員

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10月に行われる企業の内定式を前に大学4年生の就職活動が終盤を迎えています。
コロナ禍での就職活動もことしで3年目となり、オンラインでの面接など、採用方法が大きく変わってきています。木村祥子解説委員です。

【「盛りガクチカ」って何?】

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大学生の就職活動で使われている「ガクチカ」という言葉をご存ですか?
「ガクチカ」は「学生時代に力を入れたこと」の略称です。
テレビや新聞など、ニュースで取り上げられることが多いので、ご存じの方もいらっしゃると思います。
この「ガクチカ」ですが、友達のエピソードやウソを書いたりしているという調査結果が明らかになりました。学生たちの間では「盛りガクチカ」と言われています。

【なぜ「ガクチカ」盛るの?】

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就職情報会社が来年の春、大学を卒業予定の大学生と大学院生を対象に「ガクチカ」についてアンケートを行いました。
この中で「選考を有利に進めるために自身のガクチカに事実と異なる内容を盛り込んだことはありますか」という問いに「はい」と答えた学生が全体の25.6%。4人に1人に上ることがわかりました。
実際に「盛りガクチカ」をした学生に話を聞いたところ、コロナでサークル活動や留学もできず、アルバイトの話をガクチカにしようと考えたそうです。
しかし、ある就職サイトに「アルバイトは印象に残りづらいため、ガクチカにするのはやめた方がいい」と書いてあったそうです。
そこで友人が書いていた「イベントでの成功体験談」を自分の体験として書いてしまった、ということでした。
またインターネット上には合格体験記としてガクチカがあふれています。
学生の中には自分が希望する会社に入社した先輩の体験をコピーして提出する人もいるということでした。

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アンケートは企業にも聞いています。
選考時に「ガクチカを聞いていますか」という問いに65.2%が「はい」と答えています。
また、コロナの影響で課外活動が行えていない状況を鑑みて「ガクチカの代わりに聞いていることはありますか?」という問いに「はい」と答えたのは23%にとどまりました。
就職情報会社では学生は聞かれることがわかっているので「魅力的なガクチカがない」と感じると、なんとかしなければという思いから「盛ってしまう」のではないかと話していました。
多くの採用担当者が言っていたのは「ガクチカ」で華々しいエピソードを期待しているわけではなく、学生がコロナ禍にどう向き合い、どう工夫をしながら生活をしていたのか知りたいということでした。
この経験が社会人になった時にピンチをどう乗り越えられるのかを見極められる指標にもなると話していました。

【学業こそ「ガクチカ」だ!】
そこで従来の「ガクチカ」に疑問を持ち、学生の本分である「学業こそがガクチカ」だという考えのもと、採用活動を行っている企業が出てきています。
ビルの管理などを行う日本管財です。

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この会社では面接を受ける学生にあらかじめ、大学での履歴履修の提出をお願いしています。
面接時間は30分ですが、学業については必ず面接の最初に質問するということです。
例えば、「単位取得が難しいと評判の授業だが、苦労したことはなかったですか」などと質問すると、学生からは「最初は本を読んで知識を深めましたが、もっと知りたいと思うようになり、当事者に話を聞きにいきました。興味関心が広がり、最終的には卒業論文のテーマになりました」などと話す学生もいたということです。
ただ、この会社が重視しているのは成績だけではありません。
面接官から質問された科目について、専門的で難しい内容だったとしても、限られた時間の中でいかにわかりやすく「論理的」に説明できるかを見ているそうです。
自分の言いたいことを一方的に伝えるのではなく、質問の意図をくみとって、やりとりができる「聴く力」も評価の対象にしています。

【コロナ世代に即した新しい採用】
コロナ禍での就職活動で最も変わったといえば「オンライン」での採用です。
今では学生と一度も対面することなく内定を出しているという企業もあります。
コミュニケーションをどう維持していくのか、多くの企業で悩みを抱えていました。

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そのうちの1つ、教育事業を展開している「デジタルハリウッド」という会社です。
この会社ではことしから面接官にも履歴書を作成してもらい、1次面接の前に学生に共有する取り組みを始めました。
名前や職歴、趣味や特技、仕事のやりがいなどがA4用紙1枚に記載され、1次面接の2日前に共有されます。
面接時間はおよそ1時間。後半の30分は学生から自由に質問ができる時間を作っています。
学生にとっては履歴書のおかげで社員の素の部分が垣間見られ、オンラインであっても質問がしやすいとか、自分が働く姿をイメージしやすくなったという意見があったそうです。
もう1社。医療機器メーカーの「日本光電」です。
こちらの会社では1次面接の参加者全員にフィードバックを行っています。
オンラインでの30分の面接の最後に、この会社の日常業務と結びつけながら、面接から感じられた強みを学生に伝えています。
こちらの会社でも学生からは好評だったということで、来年も続けていきたいとしています。
ご紹介した2つの会社では少子高齢化で労働力人口が減る中、人材獲得競争が年々、厳しくなっており、優秀な学生を「逃したくない」という思いが背景にあったということです。
丁寧な対応をすることで学生にとって特別な1社になることを期待しています。

【学生たちも悩んでいる】
今回、ご紹介した会社のほかにも学生に寄り添った採用を行っている企業はたくさんありました。

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一方で、学生たちを取材するとオンライン採用ゆえに、「内定はもらったけれど本当にこの会社で大丈夫か」とか「見極められない」といった悩みも聞きました。10月には、多くの企業で内定式が行われますが、オンラインで実施する企業もあります。
複数の内定を持っている学生の中には「パソコンとスマホを同時に使えば同じ時間であっても複数の企業の内定式に参加できるので、雰囲気を見て決めたい」という人もいました。

【がんばれ!大学3年生】
大学3年生を対象にした秋のインターンシップ、職場体験がまもなく始まります。
オンラインやリアルでの開催など、会社によっては様々ですが、仕事の内容や会社の雰囲気がわかるので、仕事選びの助けになりますし、社員との座談会を企画している会社もあるので、自分が働くイメージがつかみやすくなるのではと思います。
また、大学のキャリアセンターも就職支援に熱心なので、悩みがあれば一度、相談にいくのもよいと思います。
就職活動を終えた4年生に話を聞くと、オンラインの影響で逆に「OBやOG訪問がしやすくなった」という声もありました。
日ごろからアンテナを張り、準備を進めたうえで自信をもって就職活動にのぞんでほしいと思います。

(木村 祥子 解説委員)


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