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子どもの体内時計を整える!

矢島 ゆき子  解説委員

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夏休みの影響で夜更かし・朝寝坊になった子どもの生活をどうにかせねばと思っている親御さんもいるかもしれません。私たちの脳には、実は、時間のリズムを刻む「体内時計」があり、1日単位で調整されています。夜更かし・朝寝坊の生活を朝型生活に戻すには、この「体内時計」を整えることが大切で、1~2週間程度かかると言われています。

◆体内時計を整える ~朝、太陽の光で体内時計をリセット

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では、体内時計を整えるためにはどんなことが大切なのでしょうか?
睡眠学・時間生物学が専門の日本大学内山真客員教授にお話しを伺ったところ、体内時計を整えるためには、まず「朝、太陽の光をあびる」ことが大切だということでした。
私たちが生活している地球上の時間1日=24時間。それに対し、体内時計は、個人差がありますが、1日はおよそ24時間10分。ちょっとだけ違います。朝、太陽の光が目から脳に伝わると、脳が「朝だ!」と認識し、体内時計がリセットされ、地球の時間と同期するのです。太陽が隠れた曇りの日の明るさでも体内時計はリセットできるそうです。
また、この「朝、光をあびる」ことは、夜、適切な時間に眠るためにも大切です。それは、体内時計がリセットされてから14~16時間後に、睡眠ホルモン・メラトニンが作られ、眠くなるからです。もし、昼に体内時計がリセットされると、メラトニンが作られ、眠くなるのは真夜中をすぎてしまいます。つまり、体内時計を「朝、リセットできないと夜型になり、朝、起きられなくなる」ので、朝、太陽の光をあびることが大切なんです。

◆体内時計を整える ~朝食をしっかりとる

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そして、体内時計を整えるためには、「朝食をしっかりとる」ことも大切です。
実は、脳の体内時計は「親時計」で、脳以外にも、例えば、心臓・胃・肝臓・腸などにも、個別に動く体内時計・子時計があり、さまざまなリズムを刻んでいます。朝食をとることで、これらの子時計が「朝だ!」とわかり、そして、脳の親時計と同期し、頭も体も目覚めた状態になります。

◆体内時計を整える ~心掛けることは?

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では、体内時計を整えるために、他にはどういうことを心掛けるといいのでしょうか?
平日に、早寝・早起きの生活を続けても、週末に昼まで寝てしまえば、体内時計をリセットするのが遅れ、その結果、月曜日の朝は、起きるのがつらくなってしまいます。休日・週末に寝る時間が遅くなっても、朝、「毎日、起床時間を同じに」すること、そして、週末に長く眠らなくても良いように普段から「夜はしっかり眠る」ことが大切です。そのためにも、「日中は活動的に過ごす」ことがポイント。日中に運動や活動することで、脳の様々な部分を使って脳全体を疲労させることが、しっかり眠ることにつながります。例えば右手を動かすのと左手を動かすのでは使う脳の部分が違います。これは運動に限らず、何かを作るとかでもいいので、ともかく脳のいろいろな部分を刺激し、疲労させることがよい睡眠につながるのです。
また、よく眠ることができるのは、睡眠ホルモン・メラトニンが作られ、体温が下がった時間帯で、これは体内時計がいつリセットされたかで決まります。夜ふかし・朝寝坊の生活で体内時計が遅れがちのときは、メラトニンが作られ・体温が下がる時間帯も遅れているので、早くベッドに入っても、よく眠れないことが多くなります。ですから、早くベッドに入るよりも、朝、つらくても早く起きて、光をあび、体内時計をリセットすることの方が重要です。

◆夜、しっかり眠るために~スマホ・パソコンなどをどう使う?

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そして、夜、しっかり寝るためにも注意が必要なことがもう一つあります。スマホ・パソコンなどの使い方です。
内山さん曰く、「就寝時刻直前まで使わない」そして、「夜にスマホなどの光を1時間以上あび続けると、脳が“まだ昼だ”と勘違いしてしまう」とのことです。今年発表された調査結果での、小中高生のインターネット利用率は97.7%。中学・高校生は「スマホ」、小学生は「ゲーム機」を多く使い、平日1日あたりの利用時間は、およそ4時間24分でした。体内時計のことだけを考えると、昼間は光があったほうがいいのですが、夜の使用は問題とのこと。内山さんが言うには、「夜は自分のペースで休息をとる時間帯。特に友達とのスマホなどでのやりとりは、休息にならないので、好ましくない」とのことでした。

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このスマホ・ゲーム機の使い方については、千葉大学子どものこころの発達教育研究センター清水栄司センター長曰く、「ネット・スマホ依存症のお子さんも増えているので注意を」とのことです。そして「これらの依存症は、最近注目されるようになった新しいタイプの“心の病気”で、体内時計の乱れにもつながるため、治療が必要な場合もある」とのことです。

◆子どもへの接し方は?

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でも、親がネット・スマホをやめなさいと言っても、なかなか言うことを聞かない子どもも多いのではないでしょうか?
清水さん曰く、乱れた体内時計を整えるためには、「子どもへの接し方にコツがある」とのこと。それは、「子どもを上手にほめるコミュニケーション」だそうです。例えば、一番、してはいけない悪い例は、「スマホばかりしていたらダメでしょう、少しは宿題しなさい!」と望ましくない行動を、一方的に怒ること。望ましくない行動は指摘せずに、例えば、早起きをした、朝ご飯をしっかり食べたなど、望ましい行動をした時に、声を出して大げさにほめ、それをきっかけに親子でしっかり会話をし、体内時計を整えるために望ましい行動の方に目を向けさせることだそうです。

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そして、もう一つ、子どもに接する際に注意してほしいことを伺いました。
「長い夏休み明けに、子どもの“うつ”からくる自殺が増える傾向がある」とのことです。
このことは、体内時計とどう関係するのでしょうか?実は、体内時計が乱れることでの昼夜逆転、不眠、食欲低下などは、「うつのサイン」の場合もあるんです。もし頭痛・腹痛・めまい・立ちくらみなど症状があれば、それは、不安による体の症状かもしれません。子どもは親に心配をかけたくないと思って、自分からは相談しないので、「親から声をかけて、気持ちが落ち込んでいる?やる気が起こらない?久しぶりの登校への不安は?など具体的に子どもに聞くことも大切」だそうです。
是非、周囲の大人が、子どもに声をかけ、その様子に注意をしていただけたらと思います。
そして、体内時計を整えることは、年齢に関係なく、健康に生活するための基本です。朝、起きて光をあび、朝食を食べ、体内時計を上手に整えていただければと思います。

(矢島 ゆき子 解説委員)


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