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どう変わる? 鉄道の運賃

今井 純子  解説委員

鉄道の運賃のあり方を考える国の委員会は、先週、運賃の値上げなどの柔軟な変更や新たなサービスの導入を認める考えを盛り込んだ中間報告をまとめました。鉄道の運賃はどう変わるのでしょうか。今井解説委員。

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【鉄道の運賃について値上げなどの柔軟な変更を認めるというのは、どういうことでしょうか】
鉄道の運賃は、飛行機など自由に決められる運賃と違って、値上げが規制で縛られています。具体的には、必要な費用に適正な利益を上乗せして、収入がそれを超えないよう、区間ごとの運賃、定期券。それぞれ、上限を決める制度がとられています。

【なぜですか?】
同じ路線を走る鉄道の競争相手がいないため、不当に値上げをする心配があるという考えからです。
値下げは認められているのですが、実際は、多くが上限に張り付いていて、曜日や時間帯にかかわらず同じ運賃というケースが多くなっています。そして、上限を超えて値上げをする場合は、今後3年程度の赤字が続くと見込まれることが前提となるなど、ハードルが高いという声があがっています。

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【利用者から見ると、簡単に値上がりしないというのは助かりますね】
助かります。ただ、規制が導入されてから25年。鉄道会社からは、鉄道を取り巻く環境が、大きく変わってきている中、見直しが必要ではないか、という意見が出ているのです。

【鉄道を取り巻く環境は、どう変わったのでしょうか?】
▼ まず、国内の人口が減少に転じています。
▼ そして、競争も激しくなっています。遠距離では、飛行機や高速バスが様々な格安の運賃をしかけてきていますし、近距離でも、マイカー、それから車や自転車のシェアリングなど新しいサービスがでてきて、地方を中心に、鉄道の利用者は大幅に減っています。
▼ 一方、橋やトンネルなどの老朽化対策、耐震補強、災害からの復興など、求められる安全対策などは増えているというのです。
▼ そこに、コロナの感染拡大が加わりました。在宅勤務やオンライン会議が普及・定着し、通勤や出張の利用者が大幅に減っています。その結果、鉄道会社の経営を支えていた都市部や新幹線の収益も悪化。通勤や出張の利用者は、コロナの終息後も、元には戻らないとの見方が広がっています。各社は、終電の時間を繰り上げるなど、経費を減らす一方、国の認可の要らない新幹線のグリーン料金を値上げするなど収入を増やす取り組みを進めてきました。それでも、コロナの影響が長引く中「経営が厳しい。もう少し柔軟な運賃の変更・設定を認めてほしい」という声が鉄道会社の間から強まっています。

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そこで、国土交通省が、運賃のあり方について検討する有識者の委員会をつくり、先週、中間報告をとりまとめました。

【どのような内容でしょうか?】
原則は、今の認可制を維持する。その上で、柔軟な運用をしたり、一部法律を改正したりすることで、
▼ 値上げと値下げを組み合わせ、全体の収入が増えないようにする前提で、時間帯や曜日、季節などによって、変動する運賃の導入を認めることが、まず、盛り込まれました。

【全体の収入が増えないのでは、鉄道会社の経営の改善にはつながらないのではないですか?】
当面はそうですが、ピーク時間帯などの利用を抑えることで、中長期的には、ピークにあわせて持っている車両や乗務員を減らすことができるので、経費の削減につながるというのが鉄道会社の考えです。
▼ その上で、沿線の自治体などの合意が前提となりますが、合意があれば、上限を超えて新たな運賃の設定を柔軟に認めること。
▼ そして、安全対策などにかかる費用を運賃に反映しやすくすること。こうした考えが盛り込まれました。
国土交通省は、今後、「柔軟な運用」についての考え方をまとめた上で、鉄道会社からの具体的な要請を聞き、結論を得た運賃から順次、実現に移していく方針です。

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【具体的には、どのような運賃が考えられるのですか?要するに、値上げですか?】
値上げを考えているところはあります。ただ、それだけではなく、新しい様々な運賃サービスを検討する動きもでています。
▼ まず、JR東日本。来年の春にも、在来線で、通常の通勤定期券を値上げする一方、平日朝の一定のラッシュ時間帯には使えない「オフピーク定期券」を、今より安い価格で導入する方針を打ち出しています。通勤定期券ですので、企業が定期代の負担を減らすために、朝の出勤時間をずらしてくれれば、ピーク時間帯の利用者が減り、先ほど触れたように中長期的に経費の削減につながる。という狙いです。ただ、割高な時間帯の定期券を自費で利用せざるをえない、弱い立場の人もいます。こうした人たちが一方的に不利益を被ることにならないよう、なんらかの形で配慮を考えていく必要があると思います。

【何か対策を考えてほしいですね】
また、京都北部を中心に、天橋立など観光客が多い地域を運行している京都丹後鉄道。こちらは、
▼ 観光客が多い、景観のいい海沿いの路線や区間、観光客が多い時間帯の運賃を、何らかの新たなサービスを導入するとともに値上げする一方、
▼ 沿線に住む住民向けには運賃をすえおき、さらに、「通院定期券」や「買い物定期券」など、地域の施設や商店街などと連携して様々な割安の定期券を導入することなどを検討しています。住民のニーズにあわせた割安な運賃メニューを増やすことで、鉄道の利用者のほりおこし、地域の活性化にもつなげたい考えです。

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【住民向けに割安なサービスがでてくるのは、ありがたいですね】
さらに、広島市。今、市の中心部で、広島電鉄の路面電車と7つのバス会社が、同じような路線を同じような時間帯に運行しているのを、市が中心になって、
▼ まず、一定のエリア内は、路面電車とバス、すべて同じ運賃。そして、共同の定期券を導入する方針です。一部を除き、値上げになりますが、すいている平日の昼間や土日祝日に、一定の時間、路面電車やバスに、乗りたい放題の割安のフリーチケットを導入するなど、利用者にとっての割安な運賃メニューもつくるとしています。
▼ そして、将来的には、電車とバスで、運行の路線や時間を調整。余裕が出たバスや乗務員で、これまで走っていなかった空白エリアの運行をすることも検討するとしています。

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▼ さらに、広島電鉄は、エリアを広げ、JRを含めた鉄道から、路面電車、そして利用者の予約に応じ、目的地の近くまで送り届けてくれるオンデマンドバスなど、複数の交通機関を乗り継いでも、同じエリアの中では同じ一定の運賃にする。このような構想も検討しています。
値上げはありますが、多様な割引運賃やサービスを用意することで、マイカーから鉄道へと、利用を促したいという考えです。

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【ただ、やはり、値上げの動きもでてくるのですね】
そうですね。それだけに、新しい運賃制度。実現していくにはいくつも課題があります。
▼ まず、体力のある大手は、厳しくても、値上げありきではなく、その前に、とことん経営努力をすることが求められますし、
▼ 地方の鉄道などでどうしても値上げが必要だという場合。利用者の負担の増加は最小限に。そして、利用者の利便性の向上につながる、運賃の仕組みを考えてほしいと思います。
▼ そのうえで、なぜ、運賃が変わるのか、どう変わるのか、丁寧な説明をすることが欠かせません。

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地域の住民に大きな影響がでるだけに、ひとつひとつ丁寧に議論をし、利用者の納得を得られるよう、説明していくことが求められると思います。

(今井 純子 解説委員)

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