先月24日の夜、鹿児島県の桜島で爆発的な噴火が発生し、噴火警戒レベルが初めて、最も高い「レベル5」に引き上げられました。住民の避難などは計画通りに行われましたが情報発信のあり方に課題が残りました。
桜島の南岳山頂火口で爆発的な噴火が起きたのは24日の夜8時すぎでした。
カメラの映像で火口から真っ赤な噴出物があがり、大きな噴石が飛散する様子が捉えられました。噴石は火口から2.5キロまで達し、気象庁は噴火警戒レベルを初めて最高の「レベル5」に引き上げました。
これを受けて鹿児島市は火口に近いふたつの地区に避難指示を発表。避難所を開設するとともにバスを派遣し住民の避難を進め、対象地区の33世帯、51人の避難を確認しました。
Q)防災対応はうまくいったのか。
A)鹿児島市は避難計画に基づいて避難所の開設やバスの派遣などを行い、避難の対応はスムーズだったと言えます。
またレベル引き上げの判断ですが、気象庁は御嶽山の噴火災害後、基準を精査したうえで公表している。その基準に基づいて迅速に判断できたと説明しています。
ただ住民からは「ふだんの噴火とあまり変わらないのにレベル5には違和感があった」など戸惑いの声もあがりました。
と言うのも桜島の噴火警戒レベル5はふたつのケースが想定されている。
鹿児島市の下鶴市長は先週末、会見で「大規模噴火の予兆なのか、もしくは噴石が一定程度超えて居住地域に達するおそれがあることから避難を出したのか、わかりやすい情報発信のあり方を検討すべきだ」と話しました。
Q)ふたつのケースとは?
A)まず噴火警戒レベルから説明します。
「噴火警戒レベル」は火山活動の状況に応じて5段階あります。
レベル2と3は火口周辺と人が住んでいない範囲に影響する噴火の恐れがある場合。
火口周辺または山に入ることが規制されます。
レベル4と5は居住地域に重大な被害が及ぶ恐れがあり、住民の避難が必要な段階。
レベル4は高齢者など、レベル5は危険な地域の住民は全員避難が必要です。
桜島のレベル5で想定されるふたつのケースというのは「これまで見られたような噴火の激化」と「大規模噴火が切迫」
まず「これまで見られたような噴火の激化」。
桜島は火山活動が活発でしばしば噴火が起きています。そうした噴火が激しくなって噴石が島内の一部地域まで飛ぶ恐れがある状況です。大きな噴石が火口から2.4キロを超えた場合にレベル5になります。今回の噴火はこれに該当します。
気象庁は夜間の場合、監視カメラの映像を分析して距離を判断しますが、これがその写真です。最も遠くまで飛んだのが丸で囲んだ赤い噴石で火口から2.5キロ弱でした。噴火前はレベル3だったのですが、レベル4を通り越して、ぎりぎりだがレベル5に該当する距離でした。こうした噴火の場合、3キロの範囲内での警戒が必要で、鹿児島市は3キロ以内の2地区に避難指示を出しました。
レベル5のもうひとつのケースは「大規模噴火が切迫」。こちらは大規模噴火で島内の広い範囲に噴石や火砕流、溶岩が達し、さらに広範囲に火山灰の被害が出る恐れのある状況です。
過去の代表例は大正噴火です。
大正噴火は100年あまり前の1914年に起きました。大噴火で噴石や火砕流が島の
住宅地に達し、流れ出した溶岩が海まで達しました。58人が死亡し、100人以上がけがをする大災害でした。
レベル5のうちの「大規模噴火が切迫」の基準は地下のマグマの上昇などによって山自体が膨らむ「山体膨張」が観測されたときや大きな火砕流、溶岩流などが起きたときです。
今回、山体膨張のデータはどうだったのでしょうか。
グラフは今回の桜島の山体膨張の観測データです。赤い折れ線グラフが下がると膨張していることを示しますが、今回観測された変化はレベル5の基準の300分の1程度とごくわずかでした。大規模噴火が想定されるようなケースではありませんでした。
Q)レベル5にふたつのケースがあるというのはわかりにくい。
A)気象庁は警戒レベルを5に引き上げたあとの会見で厳重な警戒を呼びかける一方、「島内の広い範囲に影響が及ぶようなより大規模な噴火が切迫している状況ではない」と説明しました。
鹿児島市もそれを受けて島内全域ではなく1部の地域だけに避難指示を出しました。
しかし桜島で警戒レベル5は初めてのことで大正噴火のような大規模噴火を考えた人が少なくなかったと見られます。
きのう開かれた鹿児島市議会では議員から「気象台から発信されたエリアメールが市全体で避難が必要だと誤解を招いた」とか、「レベル5と聞くと大規模噴火が起こったのかと勘違いする」などの意見が出されました。
これに対して鹿児島市は「気象台と市の説明が不足していた」としたうえで「情報発信のあり方や基準が適切かどうか気象台などと話し合っていく」と答えました。
情報発信と伝達にあたって火山活動の状況と必要な防災対応をできるだけわかりやすく伝える工夫を重ねる必要があります。
そしてもうひとつ、とても大事なことですが、今回の噴火を契機に、大規模噴火が起きた時の防災対応もきちんと確認・検証しておくことも求められます。
Q)今回の経験は全国の火山を抱える自治体などにも教訓になるのではないか。
A)その通りです。
今回の噴火で鹿児島市は防災計画に基づいて住民の避難などの対応にあたりました。
全国49の活火山では周辺の市町村に住民や登山者などの避難計画を作ることが義務付けられていますが、全体の2割にあたる42市町村ではまだ計画が整っていません。策定を急ぐ必要があります。
またこれから夏休みなど登山や観光で火山を訪れる人が増えます。
事前に噴火警戒レベルを確認するのは必須です。
気象庁の「火山登山者向けの情報提供ページ」などで調べることができます。
避難場所やルートを示した火山防災マップや、できればヘルメットやゴーグルなどを装備。登山中に警戒レベルがあがることもあるので自治体のエリアメールなど情報入手の手段も確認しておくべきす。
火山によって噴火の起こり方はさまざまで、噴火警戒レベルとその基準を読むと、どういう噴火シナリオが想定され、どういう対策を取ろうとしているのかがわります。
活火山のある地域に住んでいる人、登山・観光で訪れる人は、あらためて噴火警戒レベルを確認して、いざというときにどう行動するのか、考える機会にしてもらいたいと思います。
(松本 浩司 解説委員)
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