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子どもの転落事故 この時期特に気をつけたい

田中 泰臣  解説委員

今週は、消費者庁などが定める子どもの事故防止週間です。
この夏場、特に気をつけてほしいと呼びかけているのが子どもの転落事故です。私たちは何に気をつければ良いのでしょうか。

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《なぜこの時期に?》
Q)この時期に気をつけたいというのは、部屋の窓を開ける機会が多くなるからでしょうか?

A)そうですね。その要因が大きいと見られます。

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おととしまでの5年間で、9歳以下の建物からの転落死亡事故は21件起きています。発生の時期を見ると、5月から8月にかけてが、最も多くなっています。暑さが増せばクーラーをつけて窓を閉め切るという家庭も多いと思いますが、洗濯物をベランダで干すことが増えるでしょうし、夏休みで子どもが自宅にいる機会も増えます。また今は、新型コロナウイルスの感染防止として定期的に窓を開け換気するという家庭も多いでしょうから、注意が必要だと思います。私も、いつの間にか子どもが1人でベランダに出ていてヒヤッとしたことがあります。

《事故はどのように?》
Q)ベランダからの転落が多いのでしょうか?

A)21件のうち、ベランダが8件、窓が4件であわせれば半数以上となっています。

Q)具体的にはどのようにして事故が起きるのでしょうか。

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A)こちらは消費者庁が提携している医療機関から寄せられた、ベランダや窓からの転落事故の発生状況をまとめたものです。「窓枠に座る・網戸に寄りかかる」が最も多く23%、続いて「足場に登る」が17%となっています。具体的な事故の事例を紹介します。▼保護者が1階にいたところ、庭で大きな音がして見ると2階にいた4歳の子どもが泣いていた。全身打撲で3日間の入院。ベランダへの窓に鍵はかけておらず、またベランダに柵はあったが足をかけられる所があった。▼2階で遊んでいた9歳の子どもがベッド横の窓の網戸に寄りかかったところ外れ転落。脳しんとうを起こし入院した。
これらを見ても、まずは、のぼらせない「環境づくり」が大事だと言えます。

《のぼらせない環境づくり》
Q)「のぼらせない」ですか?

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A)窓の近くにソファやベッドがあり、のぼれるようになっていれば子どもは窓に近づくことができてしまいます。そういう状態になっていないか部屋を確認しましょう。ベランダにはごみ箱や、植物を育てるプランターなどとにかく足場になるものを置かないことです。最近はテーブルやいすを置いてくつろぐという家庭も多いと思います。使用した後には室内に入れるなどしましょう。
ベランダに置かなければならない、エアコンの室外機は柵からなるべく離す。60センチ以上離すと良いとされていますが、そこまでの幅がなければ、上からつるすといった対策も重要です。

《足場がなくても子どもは》
Q)足場になるものがなければ、さすがに子どもも簡単に壁や柵をのぼることはできませんよね。

A)それがそうとも言い切れません。建築基準法では、マンションでは、2階以上のベランダに高さ110センチ以上の柵を設置するよう義務付けられています。

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子どもの事故予防に取り組むNPOは去年、子どもたちがどのぐらいの高さの壁を乗り越えられるのか実験を行いました。その結果、120センチの高さでは、3歳児で65%以上が、5歳児では90%以上が乗り越える結果に。140センチではかなり減りますが、それでも5歳児は70%以上が乗り越えました。

Q)足場をなくせばよいというものでもないのですね。

A)はい。そこでNPOでは、回転するような手すりであれば、ベランダからの転落はなくなるのではないかと実証実験を行っていて、今後、実用化を目指すことにしています。

《開けさせない環境づくり》
またもう1つの環境づくり、窓を開けさせない「環境づくり」も重要です。

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主に防犯用に使われる補助錠というものがあります。窓のレールの部分に取り付けるもの、サッシなどに貼り付けるタイプのものがあり、子どもの手の届かない高さに設置すれば鍵を開けられなくなります。こうしたものを活用して、自由に窓を開けさせないようにすることが重要です。

《子どもの見守り・教育も》
さらに、こうした「環境づくり」に加えて「子どもの見守り・教育」も大切だと言われています。

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先ほど紹介した、発生状況のグラフを見ると、保護者が外出中というのが13%。「窓・ベランダ柵で遊ぶ」というのもあります。
小さな子どもだけを家に残して外出しない。子どもだけでベランダや窓を開けた部屋で遊ばないよう日々教えていくことも大切だと言えます。

《保護者の対策だけで十分?》
Q)やるべきことが多く大変だというのが保護者の正直なところだと思いますが。

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A)先ほど紹介したNPOの大野美喜子理事は、
「保護者だけの対策には限界がある。国は、事故を徹底して検証し、保護者への細かな周知や対策への支援、必要ならば新たな規制も検討するべきでは」と話しています。国土交通省は、今年から、賃貸や分譲のマンションを対象に、オーナーなどが、子どもの転落防止のための手すりや補助錠を新たに設置する際に、国が費用の一部を補助する取り組みを始めました。
他の安全対策も行うという要件がありますが、オーナーなどの許可を得れば、入居者も補助を申請することができます。死亡事故は、年単位で見ても、減っている状況にはありません。国は、注意喚起や取り組みが保護者にきちんと届いているのかどうか、不断に検証・検討していくべきだと思います。

《転落の危険は室内にも》
これまで見てきたのは窓やベランダから屋外への転落でしたが、室内の転落事故にも気をつけてほしい点があります。

Q)室内での転落ですか?

A)窓やベランダからの転落は3歳以上が多いのですが、それより下の年齢になると、ベッドやイスなどからの転落が増えます。事故件数で言えば、窓やベランダより3倍以上多いというデータもあります。
中でも気をつけてほしいのは大人用のベッドからの転落です。

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大人用ベッドに寝かせていて子どもが床に転落し、頭の骨を折る事故が複数起きています。
そこで、ベッドの周りにクッションなどを置けば良いのではと思いがちですが、これは危険です。ベッドから転落し積み上げられていた毛布との間に挟まって意識がなくなり、救急搬送された事故が起きているのです。鼻や口を覆ってしまい窒息する危険性があるのでやめましょう。

Q)では、なるべくベビーベッドに寝かせることが重要なのでしょうか。

A)2歳になるまでは、できるだけベビーベッドに寝かせるのが良いとされています。ただ柵を上げ忘れての転落事故も起きていますので、柵を上げるのを忘れないようにしてください。

Q)でも動き回ってベビーベッドを嫌がる子どももいるのでは?

A)布団で寝かせられればそれが良いでしょうし、寝かしつけた後に、子どもをベビーベッドにうつすというのも1つの手だと思います。

《できるうちに必要なことを》
いずれにしても、小さな子どもは体に比べて頭が大きいので、転落すれば頭部から落ちてしまう可能性が高く、たとえ低い高さであっても、大きなけがにつながりやすいと思って備えることが重要だと思います。

Q)あらゆるところに危険が潜んでいると考えるべきなのでしょうね。

A)「もっとここに気をつけておけばよかった」。私も経験がありますが、子どもが何らかのけがをした時に必ず後悔の念が出てきます。しかし、子どもにとって取り返しのつかないことになってからでは、悔やんでも悔やみきれません。できるうちに必要なことをやっておくことが大切ではないでしょうか。

(田中泰臣解説委員)

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