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参院選後の政治課題と今後の政局

曽我 英弘  解説委員

参議院選挙は自民党が大勝したのに対し、立憲民主党は低迷したことで野党内の主導権争いが激しくなりそうだ。選挙結果を有権者はどう受け止め、今後の政治はどこに進んでいくのか、7月のNHK世論調査から読み解く。

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【参院選の結果の評価】
今回の参議院選挙では自民党が単独で改選議席の過半数を確保して大勝し、公明党とともに参議院でも引き続き安定した基盤を確保した。これに対し野党側は政権への距離感が異なる中で、立憲民主党が議席を減らし少数政党が議席をさらに確保したことで、与党に対抗するだけの勢いを欠く状態だ。

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そこで今回の結果をどう思うか聞いたところ「与党の議席がもっと多いほうがよかった」という人は9%、「野党の議席がもっと多いほうがよかった」人は42%、「ちょうどよかった」という人は38%だった。30代以下の比較的若い世代ほど「ちょうどよい」が5割余り(51%)を占め与党支持の傾向をうかがわせる一方で、40代以上は4割半ば(45%)の人が「野党の議席がもっと多いほうがよかった」と答えている。
有権者が「ちょうどよい」と答えた背景には、物価高騰や新型コロナなど課題山積する中、当面安定した政権の下で取り組んでほしいということがあるのではないか。その一方で「野党の議席がもっと多いほうがよかった」という声からは、衆議院の解散がなければ今後3年間、全国規模の国政選挙の予定がない中で、国会が緊張感を欠き、議論が疎かになって政府のチェック機能を果たせなくなるのではないか、とも受け取れる。

【安倍元首相銃撃 投票の影響】
選挙戦の最終盤には安倍元総理が演説中に銃で撃たれて亡くなる事件が起きたが、選挙への影響はどう見たらよいのだろうか。

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今回の事件が、投票に行くかどうか、あるいは投票先を決める際に何らかの影響を与えたかどうか聞いたところ、「影響を与えた」という人は12%、「影響はなかった」人は58%、「事前に投票していた」人は25%と「影響はなかった」が半数を超えている。ただ支持政党別でみると、「影響を与えた」と答えたのは「野党支持層」は8%、支持する政党のない「無党派層」は9%にとどまっているのに対し、「自民党支持層」は16%となっている。また期日前投票のNHK出口調査では、事件翌日の土曜日に比例代表で自民党に投票した人の割合が前の日より4ポイント余り伸びたことからも、まだ投票に行っていなかった自民党支持層に対し投票を一定程度促した可能性はある。

【内閣支持率】

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岸田内閣を「支持する」と答えた人は今月、参議院選挙の1週間前に行った調査より5ポイント上がって59%、「支持しない」は6ポイント下がって21%だった。与党支持層の9割近く(86%)だけでなく、野党支持層の5割弱(47%)、無党派層の4割弱(37%)にも支持を広げている。ただ「支持する理由」として「ほかの内閣より良さそう」という人が40%と群を抜いて多い一方で、政策や実行力には期待はそれほど高まっていないのが現状だ。いわば「消極的支持」に支えられている形で、今後の取り組み次第で世論の風向きも大きく変わる可能性もある

【岸田政権が取り組むべき課題】

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岸田政権が今後最も力を入れて取り組むべき課題を6つの選択肢から尋ねたところ、「経済対策」が38%と圧倒的に多かったのは、まずは生活を何とかしてほしいという国民の切実な声のように感じる。これについて岸田総理は15日、物価高に対応するため、今年度の予備費5.5兆円を活用し、電気料金の負担を軽減し、食料品の上昇を抑える対策を今月中にとること。新型コロナのワクチンの4回目接種の対象を医療や介護の従事者などに広げる一方で、現時点で行動制限は考えないこと。また冬場の電力不足を解消するため最大9基の原子力発電所の稼働を進める方針を明らかにした。

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ただ原発の再稼働を進める方針こそ「賛成」(59%)が「反対」(23%)を上回ったものの、物価高騰対策を「評価する」という人は「大いに」「ある程度」あわせて33%にすぎず、新型コロナの感染予防のため行動制限を行う必要があるという人は「必要」「どちらかといえば必要」あわせて56%と過半数に上っている。岸田総理にとって一連の取り組みに支持や理解が得ていくことが重要になってくるだろう。

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さらに今後の政権運営を考える上で、「新しい資本主義」といった岸田カラーの政策をより具体化し、実行に移せるか。また保守派の顔だった安倍氏を失ったなか、党内で異論や反発が起きた際にこれを抑え、掌握していくことができるかがカギとなる。もしも政権に「おごり」や「緩み」を感じとれば、国民の支持がたちまち離れていくことは避けられないだろう。

【野党の今後は 今の支持政党】

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一方、参院選で激しく争った野党はどうだろうか。7月の政党支持率は立憲民主党が低迷する一方で、日本維新の会は支持率でもわずかではあるが立憲民主を上回ったが、今後さらに支持を拡げられるか、岐路に立ってもいる。というのも地域別にみると確かに、地盤の近畿で支持率が20.0%、特に大阪では参考値ではあるが29.1%と自民党を抜き「第1党」だが、東京では支持は伸び悩んでいる。参院選でも目標としていた東京や京都で議席を獲得できずに終わった。
長く代表を務め、党を立ち上げた一人でもある松井・大阪市長が近く辞任することで、地方自治体の立場から、国政に改革を促してきた姿勢に変化が生じたのではないかと国民が受け取らないとも限らない。

【政治への期待 過去最多の女性当選】

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参院選で明るい兆しを見せたのは、女性の立候補者数が181人と全体の3割(33.2%)を超え、当選者は35人(28.0%)とともに過去最多となった点だ。2018年に制定された各政党に男女の候補者数を均等にするよう努力義務を課す法律の効果が徐々に表れてきたともいえる。ただ過去最多となった女性の当選者数について世論調査では「人数の問題ではない」という人が6割弱を(58%)占めてもいる。それだけに、当選者を含むすべての女性議員が今後活躍するかどうかが、この流れがさらに進むかどうかを決めるのではないだろうか。

(曽我 英弘 解説委員)


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