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新制度開始! 新型出生前検査・NIPT

矢島 ゆき子  解説委員

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◆新型出生前検査=NIPT

新型出生前検査は、 NIPT(非侵襲性出生前遺伝学的検査)とも呼ばれているものです。妊婦の血液を分析し、ダウン症などの3つの先天性疾患になる可能性を調べる検査です。具体的にどんな検査なのでしょうか?

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実は、NIPTは、すでに2013年に臨床研究の一環として始められました。7月からは、新しい制度のもとで認定された全国各地の大学病院などで検査が実施されるようになります。
長年、NIPTについて研究してきた昭和大学の関沢教授にお話しを伺ったところ、この検査は「悩みの入り口に立つ検査」、とのことでした。一体、どういうことなのでしょうか?

◆「悩みの入り口に立つ検査」とは?

まず前提として、このNIPTは、すべての妊婦が受ける必要はありません。産むと決めているので検査はしないという人が多いものです。ただ、例えば、高齢出産だからと検査を受けるか・受けないか悩んだり、「とりあえず」「念のために」と検査を受けてみたところ、その検査結果で悩むなど、様々な悩みにつながる検査です。
具体的には、どのような検査なのでしょうか?

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NIPTは、妊娠9~10週以降に採血した妊婦の血液を使います。実は、妊婦の血液の中に、妊婦と胎児をつなぐ胎盤の染色体の断片が含まれているのです。胎盤は胎児の一部。それを分析します。染色体が1本多いトリソミーという状態だと、先天的な疾患になる可能性があるのです。ただ、わかるのは、ダウン症候群の21トリソミー、18トリソミー、13トリソミーなど3つの染色体疾患だけです。
検査結果は、陽性・陰性・そしてどちらとも判定できない判定保留という形で出されます。検査結果が、陽性になることもあるので、そのことも意識して検査を受けるか、受けないかを考えないといけません。ただし、染色体が多いかどうかの可能性をみているので、確定検査ではありません。また陰性の場合、トリソミーの可能性は非常に低いのですが、陽性の中には、「偽陽性」といって、本当は先天性疾患でないのに、そうだという結果が一定の割合で起こることもあるのです。
例えば、羊水検査は確定検査です。これは妊娠15~16週以降にできるもので、妊婦のお腹に針をさして、羊水の中の胎児の細胞を取り出して調べます。ただ身体に負担があり、流産のリスクが0.3%ある検査なので、受けるべきか、受けないべきか、悩むことがあるかもしれません。そして、胎児の命に関わる中絶についても、悩まなければならないということが、時にあるかもしれません。
このようにNIPTという検査をきっかけに、様々なことに悩み・判断することがあるかもしれません。そのため、自分自身・パートナーがどう考えるかが、とても大切になります。例えば、ある人は、NIPTの検査前に、疾患が見つかったら諦めると言いながら、陽性と言われた後に、悩み・考え、そして産むことを決めました。考え方・判断は様々です。
このように、他の病気の検査とは違い「悩みの入り口に立つ検査」がNIPTなのです。

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関沢教授曰く、「NIPTの検査を受けた人の中には、こんなに悩むのであれば、受けなければよかったと後悔する人も」いるそうです。後悔しないためにも、まず「検査前に検査のことをよく知り、パートナーともよく話合っておくことが重要」で、そして、「遺伝カウンセリングが手助けになる」とのことです。
では、遺伝カウンセリングは、どんな手助けをしてくれるのでしょうか?
妊婦・パートナーの不安・悩みはひとそれぞれです。例えば、高齢出産なので検査は必要なんだろうかと悩む人もいれば、先天性疾患の子どもがいるので不安で検査したいと思う人もいます。また、どのように先天性疾患のある子どもを育てたらいいのだろうかなどと不安のある人もいるかもしれません。遺伝カウンセリングでは、検査前後に、それぞれの不安・悩みに寄り添った相談ができ、様々な情報が提供されます。
カウンセリングでは、必要に応じて、検査で何がわかるのか、何がわからないのかなどの情報ももらえます。例えば、生まれてくる赤ちゃんの100人中3~5人は先天的疾患をもって生まれてきますが、その中で、先ほど紹介した3つの染色体疾患は、0.7人ほど。残りは、例えば、心臓の形の異常など超音波検査でないとわからないものもあるのです。つまり、NIPTでわかる3つの染色体疾患は、ごく一部にすぎず、残りの先天性疾患はこの検査ではわからないのです。

◆新型出生前検査(NIPT)の新制度

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遺伝カウンセリングは本当に重要なので、これまで臨床研究を行う際には、遺伝カウンセリングができる施設で検査が実施されてきました。しかし、ここ数年、遺伝カウンセリングはしないで、検査して結果だけ伝える医療機関が増えてきました。結果だけわかっても、相談できないので、困ったりするケースもありました。
また今は簡単にネットから情報を得られます。ただネット情報は玉石混交なので、様々な情報をみて迷う・悩む人もいるかもしれません。妊婦・パートナーへの正しい情報提供が欠かせないのです。

そこで、新しい制度ができ、NIPTをする「基幹施設」として、全国の大学病院など169施設が出生前検査認証制度等運営委員会に認定されました。検査の前後などで遺伝カウンセリングが十分に受けられるそうです。そして、今後、地域の主な妊娠・出産を取り扱う医療機関などが「連携施設」として認定され、基幹施設と連携し、多くの人の相談にのっていく予定ということです。今回の新しい制度の設立に関わってきた埼玉県立小児医療センター岡院長にお話しを伺ったところ、「今回の新制度は、決して妊婦さんにNIPTを勧めるものではない」とのこと。「妊婦さん・ご家族の不安に寄り添い、検査を受ける・あるいは受けないことも含めて、様々なことが判断できるように情報提供をしていきたい」とのことでした。

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また、今回、出生前コンサルト小児科医が新しくできました。先天性疾患を診ている小児科医が、子どもが生まれたときにどんな生活になるのか、どんな医療・福祉のサポートが受けられるのかなどの情報提供も含めて相談にのってくれます。これまで先天性疾患のお子さんを多く診てきた岡院長がいうには、「先天性疾患のお子さんを持つご家族は、大変なことがありながらも、幸せな生活を送っている人が多いことがある調査でわかっている」そうです。そして、「なんらかの障害があって生まれてきても、ご家族とともに明るい生活が送れるように、支援を充実させていきたい」とのことでした。

生命科学の技術の進歩で、出生前検査が可能になってきました。検査を検討する人の事情・不安も様々で、それぞれの人の意思・判断を尊重することも大切です。しかし、その一方で、誰もがこの世に誕生するときに先天性疾患になる可能性はあるわけで、疾患があって生まれてきても、社会の中で生活しにくいことがないような、そんな社会を作ることが大切だと思います。

(矢島 ゆき子 解説委員)

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