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SDGs最新ランキング コロナとウクライナ侵攻の影響は?

土屋 敏之  解説委員

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◆SDGs(持続可能な開発目標)について達成状況の国際ランキングが発表された

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SDGsは2015年の国連サミットで全会一致で採択されたもので、2030年までに持続可能でよりよい世界をめざす国際目標です。
最近は学校の授業にも取り入れられ、若い世代の方がよく知っている面もありますが、目標が17もあるのでわかりにくいと感じる方もいるでしょう。でも実は、ざっくり3つのテーマにまとめることができます。1列目は「人間」の命や権利に関する目標、2列目は「経済」活動のあり方、そして3列目は気候変動など「地球」規模の課題、といった具合です。例えば1列目は目標①から順に「貧困」や「飢餓」をなくす、すべての人に「医療」や「教育」を、そして「女性の権利」など、どれも人に関するもので、このうち貧困であれば「1日1.25ドル未満で暮らす人をゼロにする」など、実現すべき目標が設定されています。
ただし、SDGsはあくまで各国が自主的に取り組むもので強制力はありません。

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今月、国際的な組織「持続可能な開発ソリューションネットワーク」などが最新の国別のSDGs達成度やランキングを発表しました。日本は今回ランキング19位で、すべての目標達成を100点とすると79.6というスコアでした。
評価された世界163か国の中の19位でアメリカや中国より上、日本より上位は全てヨーロッパ諸国であり、この順位自体は悪くないかもしれません。ただし、去年は18位でしたし、実は年々少しずつ順位が下がっています。日本も他の国も努力している中でランキングは相対的なものですから、順位自体を過剰に気にするより、それぞれの国の課題を理解し改善していくことが重要だと思います。

◆日本の課題は?

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このレポートでは、国ごとに17目標のどれがどんな状況かを最も良い「達成済み」から最も悪い「深刻な課題あり」までの4段階で評価しています。
日本の場合、目標④「質の高い教育」や⑨「産業・技術革新」、そして⑯番「平和」の3つは最も良い「達成済み」という評価でした。一方で、⑤「ジェンダー平等」や⑫「つくる責任つかう責任」、そして⑬「気候変動対策」など6つの目標については、深刻な課題があるという最も悪い評価でした。

◆なぜこれらは評価が低い?

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まず「ジェンダー平等」の評価基準には「女性の国会議員の比率」というのがあります。日本では女性の議員はまだ衆議院で1割、参議院で2割ぐらいで、これは先進国はもちろん途上国を含めてもかなり少ない方です。また「男女の賃金格差」も基準の1つで、これも日本では格差が大きいため低評価です。パートや派遣社員など非正規雇用の女性の割合が高いことなどが影響しているとされます。
「つくる責任つかう責任」というのは持続可能な生産や消費についての目標で、なるべくごみを出さない社会をめざしていて、このレポートではごみの排出量などが評価基準になっています。日本は、携帯電話や家電など電子機器の廃棄量が多く、またプラスチックごみも大量に出している上、それを他国に輸出して処分している点も課題とされました。
「気候変動対策」は日本は頑張っているのでは?と感じる人も多いかもしれません。確かに日本も2030年度に二酸化炭素の排出を46%削減することなどを目標に掲げ取り組んではいます。ただ、「1人あたりのCO2排出量」で見ると、ヨーロッパの多くの国だけでなく中国などと比べても依然、日本の方が多いのです。こうしたことなどから、現状ではまだまだという評価になっています。

◆世界的にSDGsは非常に厳しい状況

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このレポートでは、SDGsの達成状況はこれまで世界全体では改善を続けてきたのに、この2年は改善が止まり停滞しているとしています。その大きな要因が新型コロナです。
国連が去年まとめた報告書では、まず目標①「貧困」について、2020年に初めて「極度の貧困」が増加に転じ、新たに1億2千万人もの人が極度の貧困に追いやられたとしています。
また②「飢餓」も悪化しています。新たに7千万~1億1600万人もの人が飢餓を経験し、世界全体で最大8億人以上が栄養不足に陥った可能性があるとしています。
この他、コロナの影響で多くの人が健康を損ねたり、子供たちが教育の機会を奪われるなど様々な目標が後退し、2030年までの達成はより困難になっています。
しかも、これらはロシアのウクライナ侵攻前のもので、今やさらに悪化が懸念されます。直近では国連のWFP=世界食糧計画が21日、世界の45か国で最大5千万人が飢餓 に瀕しているとして、G7・先進7か国に支援のための行動を要請しました。

◆SDGs つながりあった目標

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新型コロナについてはワクチンや治療薬が普及していくことで今後収束に向かうとの 期待もありますが、一方で今サル痘が急速に広がっていますし、今後も例えば、気候変動や自然破壊によって野生動物が住みかを追われ人間と接触する機会が増えれば、また未知のウイルスが広がりやすくなります。
さらに経済のグローバル化によって、ひとたびこうした感染症が現れれば一気に世界中に拡散しやすくなっている状況もあります。
このように人の健康と自然環境や経済活動、さらにウクライナ侵攻のように平和と食糧不足や貧困も深く関わっています。だからこそ、SDGsは一見バラバラに見える17もの目標を「同時に解決していく必要がある」として掲げているのです。

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もちろんこれらの解決は容易ではありませんが、取り組みを進めていくしかありません。
今月14日に政府のSDGs推進本部の会合が開かれ、岸田総理は「SDGsは現内閣でも重要な羅針盤で、経済・社会・環境分野の課題は障害物ではなく成長のエンジン」だとして取り組みの強化を指示しました。具体的な実施指針は来年、改定される予定です。
ただ、SDGsの課題はどれも喫緊のものですし多くの分野で政治のリーダーシップが欠かせませんから、早急に具体策を打ち出していく必要があります。
一方で私たちにとっても食品価格高騰や電力不足、気候変動に伴う猛暑や災害などSDGsはくらしに深く関わっています。
だからこそ、省エネやごみになる買い物を減らす、食材はなるべく地産地消を心がける、あるいは選挙に行くことも経済や環境についてどんな政策を選ぶのかという意味でもSDGsに深く関わっています。
こうして出来ることから取り組んでいくことは、家計やくらしを守ることに加え世界全体のSDGs=持続可能な社会につながっていくと思います。

(土屋 敏之 解説委員)

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