NHK 解説委員室

これまでの解説記事

とまらない!とめられない? 物価高と円安

今井 純子  解説委員

物価高と円安がとまりません。今井解説委員。

m220628_02.jpg

【物価高。とまりませんね】
先週、発表された5月の消費者物価指数は、一年前より2.1%の上昇と、2ヵ月連続で、2%を超えました。調査対象の70%近い品目が上がっていて、値上げのすそ野が広がっています。

【円安も進んでいますよね。物価高の背景には、円安が影響しているのでしょうか?】
そうですね。先週は、一時、1㌦=136円台と、およそ24年ぶりの円安の水準になりました。3月の初めには、115円前後でしたので、急激な円安です。円は、ユーロに対しても円安になっています。
この円安。基本的に、輸入品の値上がりにつながります。例えば、1㌦=115円が135円になった場合、これまで115円で買えていた、1ドルの輸入品が、135円出さないと買えなくなるということで、円では、20円の値上げという形です。ただ、今回、幅広い商品・サービスで、物価を押し上げている要因は、円安だけではありません。

m220628_08.jpg

【なんでしょうか?】
2点挙げたいと思います。一つ目は、そもそもエネルギーや穀物、原材料などの国際的な価格が大幅に上がっていた。そこに、円安が加わり、ダブルパンチになっているという点です。
輸入品の物価を示す5月の輸入物価指数を見てみると、円ベースで、1年前より43%あまり上がっています。この内訳をみると、ざっと、3分の2が、エネルギーなどの国際価格の上昇によるもので、3分の1が円安による上昇です。

【今回は、物価が上がる要因が重なったのですね】
そうなのです。そして、物価を広く押し上げている要因の2点目は、企業が工場を次々海外に移したという点です。日本の製造業の海外生産比率は、昨年度は22.3%。およそ20年で11ポイント増えています。その結果、今では、家具や家電製品なども、多くを輸入に頼っています。だから円安が幅広い製品の物価上昇につながりやすくなっています。

m220628_14.jpg

今の資源や穀物の国際価格、そして、1㌦=135円程度の円安が今後も続いた場合、今年一年間の家計の負担が、一年前より平均で6万5000円増えるという試算もあります。

m220628_15.jpg

【重い負担ですね。それにしても、なぜ、これほどの円安になっているのですか?】
一言でいうと、欧米と日本の金融政策が逆の方向を向いているからです。
▼ アメリカの中央銀行にあたるFRBは、今月、0.75%の大幅な利上げを決めました。
▼ ヨーロッパ中央銀行も、来月、11年ぶりの利上げに踏み切る方針ですし、
▼ イギリスやスイスの中央銀行も利上げを決定しています。
▼ 一方、日銀は、長期金利を0%程度に抑え込む今の大規模な金融緩和を続ける方針を打ち出しています。

【世界が利上げに向かっている中、日本だけが金利を据え置いているのですね】
はい。すると、欧米と日本との金利の差がどんどん広がることになります。投資家にとっては、日本で投資をするより、金利の高い欧米で投資をする方が、より高い利回りが見込める。ということで、ドルを買って、円を売る動きを強めています。その結果、ドル高円安が一気に進んだ形です。

m220628_21.jpg

【エネルギーや穀物などの国際価格を下げるのは難しいとしても、この円安は、なんとかならないのでしょうか?】
確かに、日銀に対して、金融政策を修正すべきではないか。そんな声も一部、あがってはいますが、日銀は、金融緩和を続けるとしています。

【なぜですか?】
世界とは経済の状況が違うからです。例えばアメリカは
▼ 一年前と比べて物価は、8.6%の上昇と、およそ40年半ぶりの高い水準に達しています。GDPは、コロナ前の水準を超えていて、賃金も着実に上がっています。だから、これまで消費が堅調で、物価を押し上げてきました。ただ、あまりにも高いインフレの為、FRBは、金利を引き上げて経済を少し冷やし、インフレを抑えたい。そうすることで、結果的に景気回復を長続きさせたい。そんな狙いがあるのです。
▼ 一方、物価が2.1%上昇の日本はどうかというと、景気回復の勢いは弱く、GDPはコロナ前の水準に達していません。賃金の引き上げは限定的。消費も低迷を続け、ただただ、エネルギーや穀物などの国際価格の上昇と円安で輸入品の物価が上がり、それが物価上昇につながっているのです。もし、ここで金融緩和を修正した場合・・

【どうなるのですか?】
金利が上がることになりますので、コロナの影響で、借金を増やしている中小企業や、住宅ローンを抱えている家庭の金利の負担が重くなり、経営や生活に行き詰る人が増える心配があります。また、借金をして設備投資をする企業や、家を買う人が減り、景気を冷え込ませる恐れがあるというのです。要は、金利を上げることのデメリットの方が、円安より経済へのダメージが大きいというのが日銀の判断なのです。

m220628_29.jpg

【でも、金利差が拡大していくと、もっと円安が進み、物価が上がる心配がありませんか?】
見方は、分かれています。
▼ このままアメリカやヨーロッパの中央銀行がどんどん利上げをしていき、日銀が引き続き動かなければ、一ドル=140円程度までいく可能性がある。という見方はあります。もし、140円台半ばまで円安が進み、それが続くと、消費者物価は3%台に上がるという試算もあります。
▼ それどころか、専門家の間からは、そもそも、世界の中での日本の競争力=稼ぐ力が落ちていることが今の円安の根本的な背景にあるのではないか。このままでは、いずれ、日本に投資をしても仕方がない。として、日本売りでさらに一段と円安が進む心配があるのではないか。そんな見方もでています。
▼ 一方、アメリカの利上げのペースがあまりにも急なため、景気を少し冷やすどころか、一気に悪化させるのではないか。との懸念から、この先は、むしろ、ドルが売られて、円高になるのではないか。そうみる専門家もいて、どちらになるのか、正直わかりません。

m220628_33.jpg

ただ、いずれにせよ、国内では、これまでに仕入れコストが上がった分を、これから商品の価格に転嫁しようとする動きがとまっていません。少なくとも年内、あるいは、来年春までは、今の値上げの勢いは続くというのが、多くの専門家の見方です。

m220628_34.jpg

【どうしたら、暮らしへの影響が和らぐのでしょうか?】
当面、値上げが続くとすると、やはり、賃金を上げてもらうしかありません。グローバルに展開している大企業の中には、円安の恩恵もあって過去最高益をあげた企業が少なくありません。そうした企業が社員の賃金を増やす。そして、取引先の中小企業からの納入価格を、適正に上げることで、中小企業も賃金を上げられるようにする。そこから、出発するしかありません。もうひとつ、円安がチャンスになるかもしれないこともあります。

【なんでしょうか?】
外国人観光客です。円安が進むと、海外の人からみると、日本での買い物や宿泊の料金が割安となります。ですから、日本に行きたいという人が増える可能性があります。政府は、外国人観光客の受け入れを今月10日から再開しました。コロナの感染状況を見ながら、観光客を増やしていくことができれば、この2年苦しんでいた観光業や運輸業などで利益が増え、賃金や雇用の増加につながる可能性がでてきます。
政府も、物価上昇で生活が苦しくなっている困窮者への支援は欠かせません。

m220628_42.jpg

その上で、金利を上げても耐えられる強い経済、強い企業の体質をつくることで、物価高を乗り超える。そうした中長期的な取り組みに力を入れることも大事になってくると思います。

(今井 純子 解説委員)

関連記事